想像より引き締まった第一印象。その理由は足まわりにあり

前編でもお届けした通り、インフィニティのフラッグシップSUVであるQX80は、全長が5364mm、ホイールベースが3073mmと、とにかく巨大。道幅が広いアメリカにおいても、ちょっと運転するのを躊躇う大きさだ。
電子制御のエアサスペンションには乗降時に自動で車高を下げる機能が付いているが、それでもサイドステップに足をかけて、よいしょと登り降りする感覚に変わりはない。ちなみにエアサスペンションはオフロード走行時には逆に車高を2.1インチ高くすることも可能。状況に応じて車高を最適化できるところは、さすがフラッグシップSUVである。

走り始めて最初に感じた乗り心地は、思ったよりもカチッとスポーティな感触。これまでの試乗経験から、オフロード走行も想定した大型のSUVは比較的フワッとした乗り心地が多いこともあって、少し意外な思いがした。
だが、街中やハイウェイだけでなく、時に非舗装路も走りながら距離を重ねていくと、いかなる状況下でもドシっと安定しており、いい意味で「乗り心地に変化がない」ことに気がついた。これは減衰力をアクティブ制御するダイナミック・デジタル・サスペンション、状況に応じて車高を最適化するエアサスペンションからの恩恵であろう。

ネバダ州の郊外を走っている時は、見渡す限りの荒野に一本道が延々と続いているようなシチュエーションとなり、時々強い横風を受けることもある。QX80の大きさと重心の高さを考えると、もっと盛大に横揺れしてもおかしくなさそうなものだが、まったく不安に感じることなくズバッと直進し続けることができる。剛性を上げたボディとサスペンションの緻密な制御が、見えないところでいい仕事をしてくれているのだ。
ドライブモードを試しにSPORTモードにしてみると、確かに加速性は高まるが、「激変」と言うほどでもなく、あくまでジェントルな印象。ワインディングをレスポンスよく走りたい時にはそれなりに役に立つが、もし自分がオーナーだったらそれほど出番は多くなそうだなと感じた。

ProPILOT Assist 2.1がもたらす、想像以上に自然なハンズオフ体験

QX80には、全車にプロパイロットが標準装備されているが、最上級グレードである「AUTOGRAPH」には一定条件下でのハンズオフアシストを実現する“ProPILOT Assist 2.1”が採用されていた。
これがまた非常に便利で、ACC使用時に先行車の速度が遅く、車線変更と追い越しが可能とシステムが判断すると、メーターやヘッドアップディスプレイの表示を通して、“Change Lane Right”といったように車線変更を促してくれる。そこでステアリングスイッチについているレーンチェンジボタンを押すと、ハンドルとアクセルの操作を自動制御。動きもかなりスムーズで、不安なく追い越しを掛けることができた。


これはドライバーの負荷や疲労を軽減する効果ももちろんだが、燃費の面でも効果を発揮。今回はハイウェイ走行中のほとんどを“ProPILOT Assist 2.1”に頼って走行した結果、総走行距離が約821kmで平均燃費は19mpg(約8.07km/L)と、なんとカタログ燃費(約7.22km/L)を超えることができた。
前編ではGoogle built-inの便利さが、人とクルマ(AI)の繋がりの面で新しさを感じさせてくれることに触れたが、これに半自動運転を思わせる“ProPILOT Assist 2.1”が加わると、なおさら将来の自動運転化に向けた、まさに過渡期に自分が立ち会っている実感が湧いてくる。もちろん自ら運転することの楽しさは放棄したくはないが、日産(インフィニティ)が誇るフラッグシップに実装された最新技術を体感できたことで、自動車にはまだまだ明るい未来が広がっているのだと嬉しくなってしまった。
想像を超えるラゲッジ容量。フラッグシップSUVの積載力
最後に前編で触れることのできなかった、荷室の広さと使い勝手、メーターやセンターディスプレイの便利な表示機能についてもレポートしておこう。
ラゲッジスペース容量は先代モデルと比べて、サードシート後方で28%、セカンドシート後方で17%拡大しているという。
実測した寸法はサードシート後方で、奥行きが約432mm、幅が約1295mm、高さが約863mm。
サードシート格納時の奥行きは約1245mm。段差のないフラットな床面を実現することが可能だ。


さらにセカンドシートも格納した時の奥行きは約2133mm。ここまで来ると、逆に何を積んだらいいのか分からないくらい広大なスペースを生み出すことができる。

サードシートおよびセカンドシートを格納・展開する電動スイッチは荷室の側面に設けられている。同じく車高の調整もできて、荷物の大きさや重さ、量などに応じて変更が可能だ。
電動スイッチと反対側の荷室側面にはAC120Vのコンセントを装備。出力は最大150Wと大きくはないが、エアコンプレッサーを動かすには十分だろう。


メーターはフルデジタルながら、両サイドにアナログデザインのスピードメーターとタコメーター、真ん中にマルチインフォメーションディスプレイを並べたオーソドックスなデザイン。マルチインフォメーションディスプレイは走行距離や燃費などのトリップ情報はもちろん、地図や四輪のトルク配分など、多彩な情報表示に対応している。


車体が大きいため駐車時だけでなく発進時にも大いに役立つアラウンドビューモニターを搭載。先日、日本仕様のエクストレイルがマイナーチェンジした際にも採用された3Dビュー機能もいち早く装備され、クルマの周囲360°をぐるりと立体的に表示することができる。


存在感と完成度で示した“新しいインフィニティの最高峰”に納得

アメリカでの販売価格は、今回取材した最上級グレードの「AUTOGRAPH」で、11万2195ドル。執筆時のレート(1ドル155.36円)で約1743万650円。最も安い「PURE」の2WDで8万3750ドル(約1301万1430円)となっている。
インフィニティもまたブランド再構築の真っ只中にあり、日産再建のために果たす役割も大きい。その先鋒を切ったのがフラッグシップモデルたるQX80だったのは、世界に対して「これが新しいインフィニティの最高峰だ」と示す意味合いも大きかったはず。
そして、筆者がアメリカで感じた新型QX80はお世辞抜きに美しく、他のどんなブランドのフルサイズSUVと並んでも見劣りしない確かな存在感を示していた。新たに新型QX60も発売され、まずは最大市場である北米で勢いに乗るインフィニティ。今がまさに反転攻勢に出る時だ。

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