馴染みの店に並ぶ中古のモト・グッツィに一目惚れ

出会いはまさに突然だった。2024年10月中旬のある日、馴染みのバイクショップ『CLUB CIRCLE』にいつものように遊びに行くと、そいつは店頭にちょこんと並んでいたのだ。人目を引くイエローゴールドのカラーに滑らかな流線形で構成されたスリムな車体。搭載するエンジンは現在では唯一無二と言って良い縦置きVツイン。これは……このバイクはモト・グッツィV11スポルトじゃないかぁ~!!

昔から好きだったんだよね、モト・グッツィ。とくにV11は大好きな1台で、デビューからしばらくして高速のサービスエリアに停めてあるV11ル・マンの実車を初めて見たときには「世の中にこんな美しい単車があるのか」と胸をときめかせたものだ。ただ、当時は中免(今の普通二輪免許)しか持っていなかったし、新車価格200万円を超えるバイクなんて高嶺の花。とてもじゃないが手が出るはずもない。それ以来、ずっと憧れの1台だったのだ。

2001年にV11シリーズに追加されたモト・グッツィV11ル・マン。登場時に筆者が憧れたバイク。もちろん、新車で買えるほどの甲斐性は持ち合わせてはいなかったが……。

このバイクに興味津々の筆者は店に入るなり、メカニックの山田さんに「あのバイクどうしたの?ひょっとして売り物?」と尋ねる。すると彼はこともなげに「そうだよ。いいでしょ? つい最近、委託で預かったバイクでね。まだプライスボードも出していないけど、前のオーナーさんは常連さんで、ウチでずっと管理していたんだよ」と答える。彼は続けて「初年度登録は1999年。走行距離は1万7000kmと年式を考えれば少ないし、コンディション良好のバリモン。そう言えば、ヤマちゃんはずっと前からモト・グッツィ欲しがっていたよね。同じエンジン形式の丸正ライラックも好きだって言ってたし。そういう人ならオススメだよ、これ」とバイクの素性を教えてくれた。

山田さんとは彼がこの店に勤める以前、かれこれ20年以上の付き合いだ。バイク整備士としては半世紀近くの経験を持つ大ベテランの上、全日本ロードレースメカニックの経験を持つ彼が自信を持ってそう言うのだからコンディションに間違いがないだろう。余談ながら筆者がこの店でバイクを買うときは他店のように細かな現車チェックをしたことがない。それくらいこの店と山田さんには信頼を置いている。

「いいなぁ~。けど夏に9Rの車検取ったばっかりだよ。好きなバイクだし、欲しいっちゃ欲しいけど……」

筆者が所有していた2001年型カワサキZX-9R。二輪免許取得以来、筆者は10台ほどのバイクを乗り継いできたが、なぜかマルチ(4気筒)は1度も所有したことがなかった。そこで1度くらい乗ってみようと、たまたま『CLUB CIRCLE』の店頭に並んでいた程度の良い中古車を2022年に購入した。

そうなのだ。じつは所有していたカワサキZX-9Rにまだまだ乗るつもりだったので2024年7月に車検を通したばかり。おまけにローンはまだ半年ほど残っている。ただ、これまで10台以上のバイクを乗り継いできた筆者だが、じつは4気筒はこのカワサキが初めて。一度くらいマルチ、それもSSに乗ってみるのも悪くはないかと2年前に『CLUB CIRCLE』の店頭に並んでいる中古車を購入したのだ。

ただ、最初は気に入っていたZX-9Rだったが、どうも4気筒は自分の好みには合わなかったらしい。エンジンはシュンシュンと回るだけで味気ないし、性能を存分に発揮させようとアクセルを捻れば簡単にトンデモナイ速度域に達してしまう。免許が何枚あっても足りないほどだ。おまけにSS(スーパースポーツ)の中ではポジションはラクな方だが、それでも長距離ツーリングは身体への負担が大きく、帰宅するとグッタリして翌日の仕事にも支障が出る。

やはり筆者の好みは鼓動感のあるシングルかツイン。それも空冷Vツインこそ至高だと改めて思った。まあ、いずれは買い換えることにはなるだろうな、とは考えていたのだが……。

ピンクのZX-9Rをどうやって手放すか?

気になるのは販売価格だ。傍にいた宮内店長に尋ねると「車両本体は79万円。諸費用込みの総額は……(パチパチと電卓で計算する)……93万8300円だね」との返答。安くはないが手が届かない金額でもない。今月はちょっと懐事情が厳しいのだが、中古車は一期一会。買い逃すともう二度と同じ車両を手に入れることはできない。とりあえずはZX-9Rの下取り金額についても聞いてみる。

「う~ん、山崎クンの9Rはピンクにオールペンしちゃったからなぁ……。16万円、いや精一杯頑張っても20万円が限界だね」と言う。そうなのだ。2年前のZX-9R購入時に「おっさん臭い地味なシルバーはイヤだ」と年甲斐もなく駄々をこねてフィアット500の限定車にあった「ローザ・ローザ」にオールペインとして貰ったのだ。そのときは長く乗るつもりだったのだけれども、乗り換えということを考えると塗り替えは失敗だったかもしれない。

筆者のバイクの主な用途はツーリング。当初は気に入っていたZX-9Rだったが、次第に使い方に合わないことに気づく。また、4気筒のフィーリングが好みに合わず、次第に心が離れていった。なお、ボディカラーの「ローザ・ローザ」はもちろん純正色ではなく、フィアット500限定色の専用色。のちにこのカラーのフィアットを購入するのはまた別の話。
世界限定600台・日本正規導入50台の超レア車が35万円 !? 走行10万km超の中古イタリア車は大丈夫?【フィアット500PINK!オーナーレポート vol.1】

2023年7月にアシ車として4年間愛用したジャガーSタイプを手放し、代わりに購入したのがフィアット500 PINK!だ。スペシャルカラーのローザ・ローザでペイントされたこのクルマは、世界限定600台、日本正規導入50台という希少な限定モデルである。激安で買ったチンクェチェントとの生活や如何に? 今回は購入に至る経緯を紹介することにしよう。

https://motor-fan.jp/mf/article/212738
フィアット500の限定色についてはこちらも参照。

下取り金額を頭にして4年ローンを組むと月々の支払いは2万円くらいかぁ……。問題はローンが通るかだが、「これまで事故がないのなら、実績のあるオリコならたぶん通るだろう」との宮内店長の弁。

だが、頭金にすることを考えるともう少し下取りの金額が欲しいところではある。ZX-9Rは車検残はたっぷりで、コンディションは絶好調。ネックなのは買い手を選ぶピンクのボディカラーだけだ。
そこで「ちょっと考えさせて」と言って、その日は店を後にすることにした。最近話題のネット買取サービス『カチエックス』を試してみようと考えたのだ。

話題のネット買い取りサービス『カチエックス』を使ってみた

一応、近隣の大手バイクチェーンや個人店にも買い取りを申し出てみたが、ZX-9Rの買い取り金額は10~18万円とまるで振るわない。これでネット買い取りサービスでダメだったら諦めて『CLUB CIRCLE』に下取りにいれようと、ダメ元で『カチエックス』のサイトにアクセスすることにした。

『カチエックス』の仕組みは、スマートフォンで撮影した画像を車両情報とともに専用のアップロードサイトに登録すると、それを見た全国300社以上のバイク業者の中から最大17社の購入希望者が入札し、一番高値をつけた業者が落札するというWebサービスである。

バイク買い取りサービス『カチエックス』にアップしたZX-9Rの写真。指示に従って画像と必要事項を埋めて行くだけで、誰でも簡単に申し込むことが可能。申し込みの翌日から入札が始まり、わずか2日で入札は終了した。

その間の連絡や手続きは、『カチエックス』の専任担当者が代行してくれ、金額が満足できない場合は価格交渉まで担当してくれるという。しかも、仮に気が変わって売却をやめても違約金は発生せず、契約が成立した場合でも利用者に仲介手数料や車両運送料などを必要としない。

ネットを使った中古車売買サービスというと、買取希望の業者から電話やメールが集中したり、しつこい営業電話がかかってきたりするのが難点だが、『カチエックス』の場合は交渉は最高値をつけた業者だけなので、売却を断る場合でも手間がかからない。また、不調やキズを故意に隠したり、走行距離をごまかしたりと言った虚偽の申告をしない限り、買取業社が査定後に減額交渉をすることはないので、ユーザーが安心して利用できることもウリとしている。

筆者のZX-9Rの入札履歴。上位3社が下取り金額を上回る金額を入札してくれた。最終的な落札価格は23万2000円となった。

実際に『カチエックス』を利用してみる。指示に従ってアップロードサイトに画像と必要事項を入力すると、その翌日から入札が開始され、わずか2日で終了。買い取り額は23万2000円。ナント、下取り金額を3万2000円も上回った。走行距離2万~2万4999kmのZX-9Rの買取相場は15~25万円ほどなので、まずまずの金額で売れたことになる。

入札終了とともに落札業者はいったん『カチエックス』の運営会社である株式会社インターファームへと落札代金を納め、業者がバイクを引き取ったのちに同社から利用者の元に振り込まれる仕組み。忖度抜きでスピーディかつ高価な金額で愛車が売れたので満足度の高いサービスだと感じた。

さっそく『CLUB CIRCLE』に出向いてZX-9Rに高値がついたことを伝えると。宮内店長は『カチエックス』をで売却しても構わないとのありがたい答えが返ってきた。これで腹が決まった筆者はモト・グッツィを購入することを決め、ローンの予備審査を進めることにした。ありがたいことにオリコはすんなりと審査を通してくれたので、ZX-9Rの売却金額の入金後に正式に契約を結ぶこととあいなった。

『カチエックス』の入金は取引が終了し、業者にバイクを引き上げてもらってから筆者の口座へ振り込まれる仕組みとなっている。11月7日、落札業者が手配した配送トラックが筆者の自宅にZX- 9Rの引き上げにきたことを『カチエックス』に伝えると、その2日後にさっそく代金が振り込まれた。

業者に”ドナドナ”される筆者のZX-9R。落札した業者に話を聞くと、小型二輪は輸出がメインとなるが、大型車は国内で販売することが多いという。さよなら9R、達者でな。

入金後、さっそくZX-9Rを売った代金を持って『CLUB CIRCLE』へと向かう。そこで頭金として23万2000円を入れ、残りを48回均等払いでローンを組んだ。これにてモト・グッツィの売買契約が無事成立。幸いにも購入したV11には車検が1年ちょっと残っていたので、納車前整備で何事もなければ2週間ほどで引き渡しになるという。

ついに迎えた納車日!V11のファーストインプレッションは?

11月17日、ついに待ちに待っていた納車の日。店に着くとピカピカに磨かれたモト・グッツィV11スポルトに置かれている。山田さんからの車両説明もそこそこに早速バイクに跨ってエンジンをかける。ポジションは若干ハンドルに遠さを感じるいわゆるイタリアンポジション。だが、乗りにくさを感じるほどではない。むしろZX-9Rよりハンドル位置が高い分、姿勢はラクに感じる。

筆者が購入した1999年型モト・グッツィV11スポルト。

暖気が終わったところでアクセルを煽るとクランクシャフトの反力で車体が右側へ起きようとする現象、いわゆる「トルクリアクション」が発生する。以前に所有していたBMWでこれは経験済みだが、エンジンの吹け上がりはモト・グッツィのほうが良好な印象だ。

モト・グッツィV11スポルトのフロントビュー。左右に張り出した縦置きVツインのシリンダーヘッドがモト・グッツィの特徴だ。
モト・グッツィV11スポルトのリヤビュー。マフラーは左右出しとなる。

クラッチを切り、ギヤを入れていよいよスタートする。乾式クラッチは操作がシビアで慣れが必要と言われているが、スパッと切れてミートしたときのタッチがシャープで気持ちが良い。V11のクラッチはよく重いと言われるが、個体ごとの違いなのか、それとも筆者が鈍感なのかはわからないが、とくにそのような感じることはなかった。ただし、シフトフィールはグニャとしていて曖昧な印象だ。

縦置きVツインエンジンと並んでモト・グッツィの特徴となるのがシャフトドライブだ。横型エンジンをシャフトドライブ化した場合と異なり、縦置きVツイン後方にエンジン出力が伝達されるので90度変えるべべルギアが必要ない。

ちなみにV11の泣き所と言われるのがシフトリターンスプリングの不具合だ。これが折れるとシフト操作ができなくなってレッカーを呼ばなければならない。そして、このパーツがよく壊れるようなのだ。一応、対策品も出ているようなのだが、筆者が買った車両が対策されているかどうかはわからない。まあ、心配しても仕方がないので、故障したらその時に考えればいいかと楽天的に考えている。

斜め後方から見たモト・グッツィV11スポルト。スリムな車体に滑らかな曲線で構成されたデザインと縦置きVツインエンジンの組み合わせが美しい。

交通の流れに合わせて徐々にV11のスピードを上げて行く筆者。このバイクの運転感覚は独特で、低速では排気量相応の太いトルクとともに強い鼓動を感じるのだが、回転を上げるにつれモト・グッツィ伝統のである振動が収束し、高回転まで綺麗に吹き上がる。まるで低速域はハーレー、高速域ではドゥカティにでも乗っている印象。回転数によって異なる顔を見せるモト・グッツィは一粒で二度美味しい「アーモンドグリコ」のようなバイクである。

ツーリング派としては面倒なチェーンメンテから解放されるのが嬉しい。ホイール がチェーンオイルで汚れないのもメリットだ。

コーナーリングは縦置きクランクの反トルクの影響で、右コーナーがややリーンしにくく、左コーナーはペタッと曲がれると言われているが、街乗りレベルでは「言われてみればそうかな」程度の感想。本気でサーキットを攻めれば違いはもっとハッキリするかもしれないが、筆者の使い方はツーリングがメインで、時々峠でペースを上げて流す程度だ。サーキット走行は初心者向けの走行会に参加する程度のことしか考えてないので、クセの強さに操作を手こずるようなことはまず起こり得ないだろう。

優れた直進安定性に必要十分な性能……V11はサイコーだ!

ここでちょっと遠回りして高速道路に乗ってみることにした。幸い道路は空いている。そこでモト・グッツィに鞭を入れ、一気に加速。流れをリードする速度で走ってみる。

タンクに描かれたモト・グッツィのエンブレムは、イタリア空軍の紋章である「アクイラ(鷲)」をモチーフとしている。このエンブレムは第一次世界大戦中にレーシングライダーのジョヴァンニ・ラヴェッリ(終戦直後に飛行機事故で死去)、エンジニアのカルロ・グッツィ、大富豪のジョルジョ・パローディの3人がイタリア空軍に招集されて出会い、意気投合して戦争が終わったら3人でバイクメーカーを起業しよう」と誓った故事に由来している。

すると、伝統の縦置きVツインエンジンは、回転物であるクランクシャフトが車体の進行方向と同一になるのでジャイロ効果により優れた直進安定性を披露してくれた。これなら両手放し運転もへっちゃらだろう(もちろんそんなことはしないが)。Vツインエンジンできになるのがハンドルから伝わる不快な振動だが、80~90km/hくらいの速度域で振動はもっとも少なくなり、そこからさらにアクセルを開けると徐々に振動は増して行く。

モト・グッツィV11スポルトのリヤカウル周り。ボルト留めのシートカウルを外せばタンデムも可能。現在では手に入れにくくなった純正キャリアが付属していたのは、ツーリング派の筆者にはありがたい。

スピードの伸びはもちろん最高出力144psを誇るZX-9R(2001年式)のほうが上だが、アウトバーンもマン島も存在しない日本国内ではその性能を如何なく発揮できるシチュエーションは公道上にはない。ましてや筆者の乏しい腕ではせっかくの性能も宝の持ち腐れである。そのように考えると、91psのV11スポルトの性能は必要にして充分。いや、それすらもフルに使い切ることはないだろう。ならば、飛ばさないと面白味が出てこないZX-9Rよりも味わい深いV11の方が運転して楽しい分、筆者の使い方には適している。そうしたことを考えると、今回の買い替えは正しい判断だったと思う。

モト・グッツィV11スポルトのメーター廻り。右がスピードメーター で、左がタコメーター。

車両引取後の短いツーリングから帰宅し、自宅駐車場にモト・グッツィを停めて、愛車のアルファロメオ・ジュリアクーペやフィアット500と並べてみる。なかなか絵になる光景に思わず笑みが溢れる。運転の楽しさを求めるならやはり乗りものはイタリア車に限る。故障や信頼性の低さを指摘されることも多いラテン系の乗り物だが、一瞬の快楽の前にはそんな些細なことはどうでもよく感じられる。「ま、壊れたら直せば良いだけだしな。故障したらそのときに悩めば良いだけの話。なるようになるさ。ケ・セラ・セラだ」と誰が聞くでもなくひとりごちる。

モト・グッツィV11スポルトで唯一不満なのがこのサイドスタンド。配置が前寄りすぎていて標準的な日本人の体系ではスタンドが出しにくいことこの上ない。

ともあれ、こうして1999年型モト・グッツィV11スポルトは筆者の手元に来た。ファーストインプレッションはもちろん好印象。さて、今後はどうなることやら。これから適時リポートして行くので楽しみにして頂きたい。