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買い替えるのは燃費の良いコンパクトカー?
2023年7月、4年間連れ添ったジャガーSタイプを手放した。Sタイプは2019年に15年落ちの中古を乗り出し45万円で買ったクルマだった。筆者にとっては初めての英国車で、フォード資本時代のジャガーということで世間の評価は芳しくはないが、実際に所有してみると運転が楽しく、乗り心地が良く快適で、おまけに故障が少ないことから大変気に入っていた。
しかし、街乗りでの燃費は6~7km/Lと、昨今のガソリン価格高騰の中でアシに乗るには経済的な負担が大きいことが頭痛の種となっていた。高速では11km/L以上と燃料消費量はだいぶ抑えられる。ひと昔前の3.0L V型6気筒エンジン搭載セダンと考えれば決して悪い数値ではないのだが、高速を使っての長距離移動の機会はそうそうなく、使用用途の7割くらいが首都高と一般道。ガソリンばかりではなく物価全体が上昇しているのに、収入は前と同じかむしろ悪くなっているので、ジャガーを伴侶とする生活がちょっと辛くなってきていたのだ。
2度目の車検も近づいた昨年春頃、それまで故障らしい故障のなかったジャガーだったが、何の前触れもなくいきなりエアコンが不調になった。当初は修理して乗ることも考えたのだが、修理に結構な費用が掛かりそうなことから断念して買い換えることにした。
買い替えに当たっての条件は、
(1)予算はコミコミ50万円以下
(2)排気量は2Lまで
(3)ハイブリットカー以外のガソリン車かディーゼル車
という3点だった。
(1)の条件については単純な話でカネがないから。貧乏ライターがアシ車に支払える金額はこれでいっぱいいっぱいだ。
(2)の条件については燃費に加えて5万8600円(13年超なので15%の重税)という毎年の自動車車税が重荷に感じていたからだ。ただ、カノジョに買い替えのところを伝えたところ、「アシに乗るならリッターカークラスで良くない?」と言われたので、この条件はのちにもう少し厳しくなって1.5L以下となった。
(3)の条件については完全に筆者の好みの問題。仕事ではどんなクルマでも選り好みせずに乗るが、プライベートでの筆者は内燃機関至上主義者。ハイブリットカーなど買うはずがないのである。
魅力的に感じるクルマが少ない国産コンパクトカー
上記の条件から愛車を選ぶとなると、購入候補に上がるのは必然的に低年式のコンパクトカーが中心となる。
予算と条件がある程度決まったところでいよいよ車種の絞り込みだ。中古車情報サイトを開いてみると選択肢は膨大にあるように見えて、筆者の眼鏡にかなうクルマは意外に少ないことに気づく。
まず、国産コンパクトカーは端っから購入候補に入らなかった。予算内で買えるクルマと言えば、一般的には型遅れのヴィッツやマーチ、フィットあたり筆頭候補に挙がるのだろうが、これらのクルマは日本の平均速度の遅いトラフィックの中を走ることを前提とし、経済性と実用性、安楽に走ることばかりを重視しており、操作系はただ軽いだけで手応えが薄く、走る・曲がる・止まるというクルマの基本性能で不満が残ることが大きな理由だった。
たしかに国産コンパクトカーにもスイフトスポーツのように走りにこだわったモデルもあるにはある。操る魅力のあるMTの設定もある。ただ、こちらは相場が高いし、アシが少々硬すぎる。目を三角にしてサーキットや峠を攻める目的で買うのではないから、日常使いなら乗り心地もある程度考慮したいし、最低限の快適装備もほしい。サラリと気負わず乗れて、なおかつ洒落っ気があるクルマが今回は欲しかったのでホットパッチ系もパスすることにした。
リスクはあれど相場は安い……中古輸入車という選択肢を考える
となると、欧州車からの乗り換えはやはり欧州車ということになる。しかも、国産車に比べて安いんだな、コレが。故障やトラブルを恐れるユーザー心理が背景にあることもあって、低年式でも輸入車の人気は低くめで、中古車相場はかなり安い。つまりは同じ予算で中古車選びをするのなら、装備が充実したワンランク上のクルマが選べるのだ。
乗用車メーカーが8社もあるわが国でわざわざ割高な輸入車を購入するようなユーザーと言えば、生活にゆとりがある富裕層か、クルマに何かしらこだわりを持つユーザーがほとんど。クルマにある程度の興味や関心があり、購入後も愛車のコンディションを維持する人が多い。中古車店で記録簿(最近は個人情報保護のために中古販売時に破棄されることも多いが)を見せてもらえればわかることだが、車検や定期点検はディーラー整備で受けているいることが多く、ワンオーナー車やツーオーナー車の中には、乗り換える直前までしっかりとメンテナンスされている個体も珍しくない。
そんなコンディションを維持してきたクルマでも中古車市場に放出されると、よほどの人気車でもない限り年式が古いだけでお値打ち価格で店頭に並ぶことになる。生産国とは気象条件や交通環境のまるで違う日本で乗られてきたことを考えると故障リスクは無視はできないが、それもクルマのコンディション次第。仮にハズレだったとしても、購入予算は50万円以下なら失敗してもダメージは少ないだろう。重大なトラブルが出たら予算と相談しながら修理するか、諦めて同じような安い中古車を買い直すかの判断をするだけ。次回車検まで乗れれば御の字。2回目の車検まで乗れたのなら充分元を取ったと考えている。
筆者は免許を取得してからの33年間で29台のクルマを乗り継いできたが、そのうち新車は3台のみ。5台は趣味の旧車で、残りはすべて10~50万円で拾ってきた格安中古車、そのほとんどが輸入車であった。そのうち明らかなハズレは2~3台。いずれも若いときの失敗だ。ある程度、中古車の目利きができるようになってからハズレはほとんど無い。トラブルも中古パーツや社外品で修理して、オイル交換などの自分でできる範囲の軽整備はDIYで行ってきたこともあって維持費はかなり安く抑えてきた。その経験も踏まえ、今回も輸入中古車の中から条件と好みに合うクルマを探すことにした。
コンパクトカーを買うならやはり欧州車!フォードkaはシンプルで信頼性高し
当初はトランスミッション系のトラブルが少なく操る楽しさがあるMTで、かつブレーキタッチに違和感がなくペダルレイアウトが自然な左ハンドル車を探したが、AT率が高く右ハンドル車がメインの日本ではなかなか見つからない。
そのような状況で見つけたのが、1999年式のフォードKa。
左ハンドル・MTという条件をクリアしてお値段はコミコミ30万円。サイトには走行距離は2万km台との説明があるが、Kaは5桁メーターなので当てにはならない。写真を見る限り、内外装はまずまずキレイ。エンジンはスーパーセブンのユニットとしても有名なKENT系の1.3L直4OHVだから信頼性が高く、タイベル交換の煩わしさがないところも良い。メカニズムは信頼性の高いフィエスタの流用だから、多少古くてもそうそうトラブルを起こすことはないだろう。
Kaはデビュー当時何度か運転した経験がある。OHVながらエンジンはきれいに回り、ハンドリングも良く、軽量な車体と相まってキビキビ走って楽しいクルマだったと記憶している。ジャック・テルナックの元でクロード・ロボが監修したスタイリングは、シンプルな面構成ながらコンパクトカーらしい愛嬌があり、充分に個性的だが飽きのこない美しさがある。
日本市場ではMT車オンリーという設定がネックでマイナーな存在で終わったが、欧州や南米を中心に全世界で50万台を販売したベストセラーだ。フォードが日本から撤退したこともあり国内での部品確保は期待できないが、インターネットを駆使して必要なパーツを個人輸入すれば維持していくのもそう難しくもないだろう。もっとも、日本仕様は熱対策で大型ラジエターを装備したことにより、専用の大型バンパーが採用されている。おそらく、コイツだけは破損したら手に入らないだろう。
すっかり買う気でいたのだが、いつのまにか中古車情報サイトから消えていた。他にもモノ好きがいたようでどうやら売れてしまったようだ。
予算内で買える 超レアなフィアット500の限定車を発見!
大分の店でコミコミ50万円!? 実車も見ずに購入決定!!
次の候補に上がったのはフィアット500だが、2ペダルMTの「デュアロジック」にはあまり良い印象がない。アルファ156のセレスピードの登場以来、フィアット系の自動制御MTは事あるごとに試乗してきたのだが、最近でこそ制御はだいぶ巧みになったとは言え信頼性や耐久性に不安が拭えない。
ならば、ということでMTの500 1.2スポーツに絞って探してみたのだが、イタリア車の常で「スポーツ」と名がつくだけで相場は少し高くなる。外装はフロントバンパーの意匠が変更され、内装の拵えをスポーティに変えただけなのに。しかも流通台数は少なく、魅力的なカラーが揃っているフィアット500なのに、選べるのは白やグレー、黒ばかり。正直なところMTは欲しかったが、500Sあまり食指が動かなかった。
そこでふと昔欲しかった限定車のことを思い出した。デュアロジックの問題点は承知しつつも、その希少性と可愛さから思わず欲しくなったあの限定車。2009年に世界限定600台、国内正規導入50台で販売され、限定商法を得意とするチンクェチェントの中でもとびっきり数が少なく、10年落ちの時点でも新車とほとんど変わりがない金額で取引されていた例のクルマだ。
さて、今の相場はどれくらいなのかなぁ~と、興味本位で中古車情報サイトを検索すると……あった! 流通台数の少なさ故に年に1~2台しか売り物が出ないそのクルマがタイミング良く販売されていたのだ。しかも、安い! 予算内で買える!! 走行距離は10万9000kmとやや伸びてるが、過去の相場を考えれば驚きの車両価格35万円。これはと思い、すぐに販売店に連絡メールを送った。
返信は見積もり付きですぐに返ってきた。販売価格はコミコミ50万2500円。しかも、エアコン不調のジャガーも思いがけない金額で下取ってくれるという。店によるとコンディションは上々。デュアロジックを含めてメカに問題はなく、大事にされた個体のようで距離の割には外装はキレイとのこと。もちろん、店のセールストークを頭っから信じるわけではないが、それでも「納車前に専門店に整備に出します。その様子は写真を添付します」「保証は1ヶ月1000kmつけます」との言葉からは、それなりにコンディションには自信がうかがえた。
ただし、販売店はいささか……いや、かなり遠い。九州、大分の湯布院に店舗を構える株式会社プランニングおがわである。千葉の自宅からはたっぷり1100kmはある。
距離が距離だけに登録作業のあれこれまで店に頼むと陸送費(しかも2台分)や代行手数料など色々と費用がかかってしまう。そこで予備検販売にしてもらって往路はジャガーで現地に向かい、復路は仮ナンバーを取得して自走で帰ってくればいい。ローンの予備審査も無事に通ったことで、実車確認をしないまま勢いに任せて購入を決めてしまった。
現車チェックなし で買う輸入中古車は吉と出るか凶と出るか……
本来は候補車を数台ピックアップし、入念な現車チェックのあとで比較検討して購入車種を選ぶというのが中古車選びのセオリーであるし、原則として筆者はこれを守ってきた。今までで同じような買い方をしたマスタングIIとルバロンGTSは大外れ。これを戒めとして以来現車チェックを欠かしたことはない。だが、今回は例外とした。なぜなら滅多に売り物が見つからない希少車だからだ。当たるも八卦、当たらぬも八卦。運を天に任せたギャンブルだ。人様にはとても進められない中古車の買い方だな、こりゃ。
購入を決めたのは限定色の「ローザ・ローザ」、鮮やかなピンクで塗られていた「フィアット500 PINK!」。上級グレードの1.2Lラウンジをベースに、開閉式の電動サンルーフを備え、スペシャルカラーで塗装された特別仕様車である。店には「現車チェックで重大な瑕疵が見つからなければ契約する」と伝え、7月11日に車両の引き取りに大分県湯布院へ向かうことにした。