BYD初の日本向けPHEV「シーライオン6」は「シーライオン7」と似て非なる存在

2022年7月に乗用車部門の日本法人・BYD Auto Japanを設立し乗用車市場への参入を発表して以来、BEV(バッテリー式電気自動車)のみを投入してきたが、2025年1月にはPHEV(プラグインハイブリッド車)の日本導入計画を明らかにしたBYD。その第一弾として同年12月1日に正式発表されたのが、今回採り上げるFFミドルラージSUV「シーライオン6」だ。
BYDは同年4月にもBEVのミドルラージSUV「シーライオン7」を発売しているので、外見を見て概要を聞いただけでは同車のPHEV版と思ってしまいそうだが、直接比べると全くの別物だということが見えてくる。



両車とも海の生物や軍艦をモチーフにした「海洋シリーズ」に属し、「オーシャンXフェイス」と、曲面を多用したクーペライクなスタイルを採用しているが、外板部品の共通点は皆無に等しい。ボディサイズも「シーライオン7」の方がより長く広く低全高だ。



インテリアも同様に、似ているようでいて大きく異なり、共通しているのはシフトまわりをはじめとしたスイッチ類程度。インパネ中央に鎮座する15.6インチタッチスクリーンも、「シーライオン7」が電動回転機構を備え縦長表示も可能なのに対し、「シーライオン6」は固定式となっている。


そして決定的に異なるのが駆動方式。「シーライオン7」はBEV専用の「e-プラットフォーム3.0」を用いリヤに(メイン)モーターを搭載する後輪駆動ベースなのに対し、「シーライオン6」はフロントにエンジンと(メイン)モーターを搭載し前輪を駆動するFF車ベースということだ。
フロントのサスペンション形式も異なり、「シーライオン7」はダブルウィッシュボーン式、「シーライオン6」はストラット式。リヤはいずれもマルチリンク式を採用する。

なおバッテリーの正極には安全性や耐久性の面で有利とされるLFP(リン酸鉄リチウム)を用いているが、これを「シーライオン6」では駆動用のみならず補機用にも採用。後者は従来の鉛バッテリーに対し軽量かつ想定交換サイクルが15年間と極めて長く、大半のオーナーは無交換のままクルマ自体を手放すことになるだろう。

駆動用バッテリーは、両車とも細長い板状にパックされた「ブレードパッテリー」を用いているが、容量はBEVの「シーライオン7」が82.56kWhに対し「シーライオン6」は18.3kWhと圧倒的に小さい。それでいながら「シーライオン6」はEV走行航続距離100kmを確保しているのに加え、FF車の車重は1940kgと、「シーライオン7」RWD車の2230kgに対し約300kg軽いのも見逃せないポイントだ。

EVとしてもハイブリッドとしても破綻しない走り、インターフェイス設計に課題?
では、実車の仕上がりはどうだろうか。
外観については前述の通り、実車を見ても「シーライオン7」との区別がつきにくく、また曲面基調のクロスオーバーSUVというスタイル自体も一般的になった今、もはや個性的とは言い難い。
インテリアは、ブラウンをアクセントにした黒基調の合皮が明るく上質である一方、インパネやドアトリムのシボ入り樹脂パネルが、ひと世代前の旧クライスラー系ブランド車を思い出させるざっくりとした質感なのは、懐かしさと同時に価格相応とも感じさせるところだろう。

しかしそれ以上に気になるのは、各インターフェイスの設計だ。ペダルレイアウト、メーターの判読性、センターコンソールに配置されたスイッチ類の視認性、どれを取っても満足できる水準にはほど遠い。
まずペダルレイアウトだが、ブレーキペダルとオルガン式アクセルペダルとの左右間隔が少ないうえ、段差もほとんど設けられていないため、うっかりすると減速時にブレーキペダルとアクセルペダルを同時に踏んでしまいやすいのだ。これがMT車ならばヒール&トーがしやすくなるためむしろ歓迎だが…。

12.3インチのフルデジタルメーターは、よりシンプルな表示モードもあるようだが、少なくともデフォルトのものは情報過多なうえ、各情報表示の大小・強弱にも乏しいため、走行中に必要な情報のみを瞬時に判読するのが非常に難しい。

そして、センターコンソール中央のクリスタル調電動シフトレバーを取り囲むように配置された、「シーライオン7」と共通の各スイッチ類。とりわけ重要度の高いSTART/STOP、ハザード、電動パーキングブレーキが、他のスイッチとサイズ・形状・色のいずれにおいても充分に差別化されていないため、凝視しなければ正しいスイッチを押すのは極めて困難だ。
これらインターフェイスの瑕疵は、走行中の操作性・視認性をほぼ検証せずに設計したのではないかと疑いたくなるほど、重大かつ稚拙と評価せざるを得ない。慣れればある程度対処できるとしても、いざという時には誤操作につながりやすいため、早急な改善を強く望みたい。

居住性は同クラス屈指、電動車らしからぬ自然なパッケージング
だがその一方、居住性に関しては、手放しで絶賛できる。床面の地上高が高い割にはルーフが低く前後席のヒール段差が少ないという、PHEVやBEVにありがちなパッケージングになっておらず、全身の収まりの良さはICV(純内燃機関車)と同等レベル。
加えて前後シートともサイズ・ホールド性とも申し分なく、さらに後席の頭上まで覆うパノラミックガラスルーフ、しかもサンシェード付きのそれを標準装備しながら、身長174cmの筆者でも無理な姿勢を強いられることがない。
長距離長時間乗り続けた場合の快適性はさらなる検証が必要だが、今回30分程度のコースを往復した限りでは充分に満足できるものだった。


肝心の走りについても、結論から言えば、ほぼ非の打ち所がない仕上がりだった。
EV走行時の航続距離は100kmを確保しているうえ、今回試乗したFF車でもフロントモーターの性能は98ps&300Nmと、1940kgの車重に対し不足はない。
なお「シーライオン6」は、「SAVEモード」を使用すればバッテリー残量の下限を25〜70%の範囲で任意に設定できる。そのため試乗開始時のバッテリー残量より高めにし、シリーズパラレル式のハイブリッドシステム「DM-i」でエンジンが始動しやすいよう設定した。

だが、高速道路を含めて100km/h以下で走る限り、エンジンの力が駆動力として使われることはなく、FF車に搭載される「DM-i」専用1.5L直列4気筒NA(自然吸気)エンジンはもっぱら発電用として機能。その際のノイズ・振動とも極めて少なく、窓を開けても風切り音にかき消されるほどだ。

乗り心地は、ひび割れたアスファルトなど微細な凹凸が続く場面でこそややラフさが出るものの、大きな凹凸ではこれまでPHEVやBEVにありがちな重めの突き上げを感じることは皆無。ハンドリングもクイックすぎすスローすぎずの程良い案配で、良い意味で印象に残りにくいと言えるだろう。

詰めの甘さは感じるが、398万円という価格が評価を反転させる
ただし、敢えて欠点を挙げるとすれば、回生ブレーキの効きを「HIGH」に設定しても、アクセルオフ時の減速が極めて弱いこと。電動車に期待するワンペダルドライブは全く不可能などころか、減速したい時にはまずブレーキペダルを必ず踏まなければならないため、下手なICVのAT車よりも減速側の速度微調整が煩わしい印象を受けた。
率直に言えば詰めの甘さ、もっと言えば最先端技術ではなく基礎的領域での技術力・ノウハウ不足を随所に感じるものの、ADAS(先進運転支援システム)やオーディオなど安全・快適装備の高い充実度を含め、398万2000円という圧倒的な安さの前には少なからず沈黙せざるを得ない。特にインターフェイスの瑕疵を許容できるのであれば、購入しても充分以上に満足できることだろう。

フォトギャラリー
BYDシーライオン6 スペック
【BYDシーライオン6 グレード構成・価格】
標準仕様(FF):398万2000円
AWD:448万8000円
■BYDシーライオン6(FF)
全長×全幅×全高:4775×1890×1670mm
ホイールベース:2765mm
最低地上高:180mm
車両重量:1940kg
乗車定員:5名
エンジン形式:直列4気筒
総排気量:1498cc
最高出力:72kW(98ps)/6400rpm
最大トルク:122Nm/4000-4500rpm
モーター最高出力:145kW(197ps)
モーター最大トルク:300Nm
使用燃料・タンク容量:無鉛レギュラーガソリン・60L
バッテリー種類:リン酸鉄リチウムイオン
バッテリー総電力量:18.3kWh
WLTCモードハイブリッド燃費:22.4km/L
同市街地モード:26.4km/L
同郊外モード:22.8km/L
同高速道路モード:20.8km/L
WLTCモード一充電電力使用時走行距離:100km
WLTCモード交流電力量消費率:153.0Wh/km
市街地モード:129.5Wh/km
郊外モード:138.3Wh/km
高速道路モード:173.7Wh/km
サスペンション形式 前/後:マクファーソンストラット/マルチリンク
ブレーキ 前/後:ベンチレーテッドディスク/ディスク
タイヤサイズ:235/50R19 99V
最小回転半径:5.55m
車両価格:398万2000円
