ラグジュアリークーペからハッチバックスポーツへ

1970年にS800の生産を終了して以来、ホンダには「スポーツカー」と呼べるモデルのラインナップはなかった。1970年代のホンダはN360やライフ360などの軽自動車や低公害エンジンを搭載するシビックなど生活に密着した実用車が中心となっていた。V8エンジンを搭載したスポーツカーの開発も行われていたが、オイルショックの影響で中断されている。

S800(1966年)。

1972年には145クーペ、1978年にはプレリュードと2台の2ドアクーペが発売されているが、どちらも装備が豪華な2ドアモデルで、スポーツモデルとは異なったイメージであった。

145クーペ(1972年。)
初代プレリュード(1978年)。

1983年に発売されたバラードスポーツCR-Xは、発売時のプレスリリースに「F・Fライトウエイトスポーツ」と明記。車名に「スポーツ」の名を冠しているのは、ホンダの四輪自動車としてはコンセプトカーの「SPORTS 360」以来、市販車としては初となった。

初代CR-X(1983年)。

スポーツカーといえばFRが常識だった時代に、N360から培ってきたホンダ独自の技術を追求した、高性能なFFモデルであることを強調していた。

初代CR-X(1983年)。

バラードスポーツCR-Xはその名の通り「バラード」から派生したスポーツクーペ。バラードは2代目シビックの兄弟車として1980年に発売された4ドアセダンモデル。2代目のモデルチェンジに際し、セダンより先行してハッチバックモデルのCR-Xが発売された。

初代バラード(1980年)。
2代目バラード(1983年)。

「FFは曲がらない」という常識を覆す

バラードスポーツCR-Xはこれまでのクルマの概念にとらわれず、居住性、走りなどの人間を取り巻くクルマの性能、機能を最大限に追求しながら、これらを生み出すエンジン、サスペンションなどのメカニズム部分は小型・高密度で高性能な設計にする「M・M思想」(Man[マン]、Maximum[マキシマム]、Mecha[メカ]、Minimum[ミニマム])をもとに開発された。

初代CR-X(1983年)のサイズ/パッケージング図。

搭載されるエンジンは軽量コンパクトな新開発の水冷4気筒SOHC12バルブのクロスフロー。1.5 Lと1.3Lの2タイプを用意。PGM-FIを採用する1.5Lモデルは最高出力110ps(※)を発揮した。
サスペンションはフロントにトーションバー・ストラット式、リヤにはトレーリングリンク式ビームを採用。

初代CR-X(1983年)の1.5L直列4気筒SOHC12バルブエンジン。
初代CR-X(1983年)のフロントサスペンション。
初代CR-X(1983年)のリヤサスペンション。

モノコックボディは高剛性で軽量、低いボンネットとセミリトラクタブルヘッドライト、フラッシュサーフェスボディによってCd値0.56という空力性能を実現している。

初代CR-X(1983年)。

ボディパーツはフェンダーやグリルなどにH・P・ALLOY、前後バンパーにH・P・BLENDとホンダ独自の新素材を採用している。さらに世界初の電動アウタースライドサンルーフ、量産乗用車世界初のルーフ・ラム圧ベンチレーションなども採用した。

初代CR-X(1983年)のアウタースライドサンルーフ。
初代CR-X(1983年)のルーフベンチレーター(外側)。
初代CR-X(1983年)のルーフベンチレーター(室内側)。

全幅1625mm対して全長は3675mm、ホイールベースは2200mmという安定感のあるスタイルと独自のサスペンションシステム「SPORTECサスペンション」により、これまで曲がらないとされていたFFの癖を克服し、1.5Lモデルでも800kg(1.3Lモデルは760kg)という軽さを活かして、クイックで軽快な走りを実現している。

初代CR-X(1983年)。

1984年10月には兄弟車であるシビックと共に新開発の1.6L DOHC16バルブエンジン(ZC型)搭載車を追加。市販乗用車で世界初の4バルブ内側支点スイングアーム方式のシリーンダーヘッドを採用。これによって吸気側で10.3mm、排気側で9.0mmのハイリフトを達成。吸排気効率を大幅に向上させ高回転・高出力化を実現するとともにシリンダーヘッドをコンパクト化。アルミシリンダーブロック、等長インテークマニホールド、4-2-1-2エキゾーストシステムの採用も相まって、最高出力135ps/6500rpm(※)、最大トルク15.5kg-m/5000rpm(※)を発生する。
(※)いずれもグロス値

1.6L直列4気筒DOHC16バルブPGM-FIエンジン(1984年)。

1985年9月にはマイナーチェンジが行われ、ヘッドライトがセミリトラクタブル式から  輸出仕様のCIVIC CRXと同様の、異形の固定式に変更されている。

初代CR-X(1985年)。

2代目は正常進化でスポーティさが高まる

1987年9月にはシビックシリーズのフルモデルチェンジとともにCR-Xもフルモデルチェンジされ2代目モデルが登場した。シャシーはシビックと共用化されているものの、ホイールベースは200mm短い2300mm、全長3775mm、全幅1675mm、全高1270mmとシビック3ドアよりひと回り小さなボディが与えられている。

2代目CR-X(1987年)。

純粋に走りの効率を追求して、テールラインの清流効果をはじめ、細部まで徹底したフラッシュサーフェス化によって、Cd値0.30という優れた空力性能を達成。先代モデルよりホイールベースを100mm、トレッドをフロント50mm、リヤ40mm拡大してロー&ワイドのコンパクトなパッケージを実現。さらに、ルーフ全体にUVカットガラスを採用した「グラストップ」がオプション設定されている。

2代目CR-X(1987年)のグラストップルーフ。

搭載されるエンジンは先代から引き続き130psを発生するDOHC16バルブの1.6L、CVデュアルキャブのSOHC1.5Lの2タイプを用意。サスペンションは新開発の4輪ダブルウイッシュボーンが採用されている。

ZC型1.6L直列4気筒DOHC16バルブPGM-FIエンジン。
D15B型1.5L直列4気筒SOHC16バルブCVデュアルキャブエンジン。
2代目CR-X(1987年)のフロントサスペンション。
2代目CR-X(1987年)のリヤサスペンション。

1989年9月には、DOHC1.6ℓエンジンが独自の可変バルブタイミング機構を搭載するVTECエンジン(B16型)に変更。最高出力は160psへと飛躍的に向上。同時にオプションでビスカスカップリング式のLSDが用意された。

B16A型1.6L直列4気筒DOHC16バルブVTECエンジン(1989年)。

3代目は大幅な路線変更で2シータークーペへ変貌

1992年2月に3代目にフルモデルチェンジされたが、これまでのFFスポーツ路線から、オープントップのパーソナルクーペにコンセプトを大幅に変更。「del Sol(デルソル)」というサブネームが与えられている。

3代目CR-X(1992年)。

パワーやスピードだけでなく、走ることの気持ちよさや楽しさも同時に追求し、誰もが快適にオープンエアクルージングを楽しめるクルマとして開発され、デタッチャブル式のルーフトップを備え、クーペとオープンカーを1台で楽しめる2シーターモデルとして誕生した。

3代目CR-X(1992年)。オープン状態。

5代目シビックのEG型をベースとし、ホイールベースを200mm短縮。エクステリアのデザインイメージはシビックと共有化しながらもほとんどのパーツは流用ではなく専用品となっている。

3代目CR-X(1992年)。クーペ状態。

ルーフトップは独特の機構で電動により開閉できる「トランストップ」と手動式のマニュアル式を用意。ルーフをトランク内に収納しても荷物の出し入れができるように配慮されている。

3代目CR-X(1992年)のトランストップ格納動作(1)
3代目CR-X(1992年)のトランストップ格納動作(2)
3代目CR-X(1992年)のトランストップ格納動作(3)
3代目CR-X(1992年)のトランストップ格納動作(4)
3代目CR-X(1992年)のマニュアル式ルーフ格納。

エンジンはDOHC・VTECの1.6LとSOHCの1.5Lの2タイプ。1.6Lモデルの最高出力はMT車で170ps、AT車では155psとなっていた。

3代目CR-Xに搭載されたB16A型1.6L直列4気筒DOHC16バルブVTECエンジン。
3代目CR-Xに搭載された D15A型1.5L直列4気筒SOHC16バルブエンジン。

1995年10月にマイナーチェンジが行われ、ヘッドライト内側にあったスモールランプを廃止してフェイスリフト。1.5L SOHCエンジン搭載の「VXi」グレードが1.6L SOHCエンジンに変更され、グレード名が「VGi」に変更されている。1998年に生産が終了され、CR-Xの歴史に幕を下ろした。

3代目CR-X(1995年)。

『CR-Xデルソルミーティング』に3世代が揃い踏み!オーナーに直撃!!

2024年10月にモビリティリゾートもてぎで開催されたCR-Xデルソルミーティングには、歴代CR-Xのオーナーも参加。それぞれのモデルに乗るオーナーに取材に協力していただいた。

電動オープンルーフ「トランストップ」は生きているか?最後のCR-X「デルソル」オーナーズミーティングに28台が集合! | Motor-Fan[モーターファン] 自動車関連記事を中心に配信するメディアプラットフォーム

CR-X「デルソル」とは? CR-Xは1983年6月に誕生したFFライトウェイトスポーツ。テールを切り落としたようなスタイルとショートホイールベースによる軽快なハンドリングが好評を博した。さらに1.6L直列4気筒DOHC […]

https://motor-fan.jp/article/278271/
『CR-Xデルソルミーティング』イベントレポート

◾️バラードスポーツCR-X Si(1984)×[たつろうttrx220]さん

無限PRO.のボディキットが組み込まれたバラードスポーツCR-X1.6Si。無限PRO.キットを組み込んだマーシャルカーが鈴鹿サーキットで活躍していた。

1985年式の1.6Siに乗る[たつろうttrx220]さんがバラードスポーツCR-Xを購入するきっかけになったのは、当時、クルマ好きだった叔父が持ってきたプレスリリースに「実用新案登録出願総数が301件」という内容が目に止まり、調べれば調べるほどCR-Xが気になってきた。

短いボディの前後ギリギリにタイヤを配置。後端を切り落とした独特かつ端正なハッチバッククーペスタイルのフォルムになっている。

しかし、当時はまだ普通自動車免許が取得できる年齢に達していなかったため、免許を取ったら必ずCR-Xに乗るんだと決めていたのだとか。ようやく免許が取得できた1985年、1.6L DOHCのZCエンジンを搭載する1.6Siを購入。以来40年間にわたって維持し続けている。

[たつろうttrx220]さんの1984年式バラードスポーツCR-X1.6Si無限PRO.仕様。

最近ではとにかく部品が手に入らなくなったことが悩み。当然ながらディーラーから純正部品が出ることはなく、流用やワンオフパーツを製作して維持している。ワイパーのリンクが摩耗して動きが悪くなってしまい、ワンオフで製作したところなんと70万円もの費用がかかってしまったとか。

無限PRO.のエアロパーツはカーデザイナーの由良拓也氏がデザインしたもの。社会人になって初めてのボーナスを全額注ぎ込んだ。
フロント周りのカウルを後期型に変更してセミリトラクタブル機能を廃している。
ホイールは無限CF-48をセット。この上に装着されるフラットなホイールカバーは盗まれてしまったのだとか。
リヤのブリスターフェンダーが大きく張り出しているので給油口は奥まった位置に。

ホイールは無限CF-48を装着しているが、貴重なホイールカバーは盗まれてしまったのだとか。許せませんね! このクルマを維持し続けるためにこのクルマの他に部品取り車を2台とスペアカーを2台、合計で5台ものCR-Xを所有しているという、筋金入りのマニアだ。

室内にはロールケージが装着されスパルタンな雰囲気。
ドライバーズシートはBRIDEのセミバケットシートが装着されているが、ミニマムな室内には大きく見える。
オーナーのたつろうttrx220さんは18歳で初めて購入したこのCR-Xを40年にわたって維持し続けている。
◾️バラードスポーツCR-X Si(1984)
ボディサイズ:全長3675mm×全幅1625mm×全高1290mm
ホイールベース:2200mm
車両重量:860kg
エンジン種類:水冷4気筒DOHC16バルブ
総排気量:1590cc
最高出力:135ps/6500rpm
最大トルク:15.5kg-m/5000rpm
当時の価格:150万3000円

◾️CR-X 1.6Si(1988)×[てん]さん

4代目のEFシビックと共通したイメージのデザインとなった2代目。バラードスポーツの名称がなくなり、単独の車種CR-Xとしてデビューした。

2代目CR-Xのオーナー[てん]さんは、このスタイルに惹かれて30数年前に1.5LモデルのEF6を購入。5年ほど乗っていたが、もっとパワーのあるDOHCエンジンのZCが気になって、現在の1.6Siに乗り換えた。

先代モデルと同様に、ツインカムのZCエンジン搭載車はボンネットの左側にパワーバルジがある。
シビックよりホイールベースが200mm短く、前後のオーバーハングも短い独特のデザインになっている。
VTECのSiRではなく、ZCエンジンのSiを選んだ。ホンダのエンジンらしく、高回転まで気持ちよく回るのがいい。

以来30年弱維持し続けている。いい状態を維持していくためにしていることは「なるべく乗らないこと」。これは希少な旧車に乗っているユーザーなら同じ悩みを抱えている方も多いはず。乗りたい気持ちをグッと堪えて月1回くらいに抑えているのだとか。

リヤまわりのデザインは初代モデルから引き続き、後端を切り落とした”コーダトロンカ”となっている。
リヤがハイデッキになり後方の視界が悪くなってしまうため、ハッチバックドア後ろ側の一部がガラスになっている。
ホイールはENKEIのRacing RS+Mをチョイス。レーシーなカスタムにマッチしている。

以前、事故に遭遇してしまった経験もあるので、乗り回して壊してしまうのが怖い。万が一故障してもパーツが出てこないので修理には苦労してしまう。

ロールケージやバケットシートなどインテリアもレーシーなカスタマイズが施されている。

以前、浜松のイベントに参加した帰りに、アッパーホースが破れてオーバーヒートの経験も。直前までエアコンも効いていて全く予兆もなかったのに、突然ホースが破裂してしまった。幸いすぐに気がついて大事には至らなかったが、古い車に乗るときには五感を研ぎ澄まして不調を感じなければ……

エンジンルームの奥を覗き込むと、ギャレットのターボユニットが装着されている。
オーナーの[でん]さんは、クルマの状態を維持し続けるために、最近ではあまり乗らないようにしているのだとか。
◾️CR-X 1.6Si(1988)
ボディサイズ:全長3775mm×全幅1675mm×全高1270mm
ホイールベース:2300mm
車両重量:890kg
エンジン種類:水冷4気筒DOHC16バルブ
総排気量:1590cc
最高出力:130ps/6500rpm
最大トルク:14.7kg-m/5700rpm
当時の価格:149万3000円

■CR-Xデルソル1.6SiR(1995)×[ef8eg2pro]さん

無限のコンプリートカーPRO3.をイメージしてカスタマイズされている。ボディカラーのホワイトは後期型のみに設定されていた。

CR-Xデルソルのオーナーの[ef8eg2pro]さんは初代ビートからの乗り換え。コンパクトなオープンカーを楽しんでいたが、とにかくトラブルが多く常に不調。そんなときに見かけたCR-Xデルソルが気になり、16年ほど前に乗り換えた。ちなみに2代目のサイバーCR-Xも所有しているとのことで、デルソルへの買い替えは自然な流れだったかも?

歴代モデルとは異なり2シーターのタルガトップボディとなった。ミッドシップっぽいデザインだがシビックと同じFF。
トランク部分が上にせり上がり、ルーフトップを掴んで収納する、ユニークな電動トランストップが装備されている。
5代目シビック(EG型)に似たデザインのフロントまわり。エアロパーツは無限風のオリジナルパーツ。
後期型はヘッドライト内側にあったスモールランプがなくスッキリしている。
ホイールはVOLKレーシングのTE-37を装着。POTENZAのホワイトレターがレーシー。
リヤトランクのカロッツェリア製ロッドアンテナは、サイバーCR-X、ビートから引き継いで長年使用している。

エクステリアは無限のコンプリートカー「PRO.3」をイメージしてカスタマイズされている。修理や塗装は全て自分で作業しているのだとか。

リヤスポイラーは無限のエリシオン用を加工して取り付けている。クリアレンズのユーロテールに交換。
リヤウインドーを少し開けて、シュノーケルダクトからフレッシュエアを引き込むことができる。

今は無限のオリジナルパーツは価格が高騰していてなかなか手に入らないのが悩み。以前所有していたステアリング(FG-360)は今やプレミアがついて50万円以上で取引されているそうだ。

ステアリングのセンターパッドは無限FG360から型取りしたレプリカ。本物はプレミア価格で50万円以上だとか。

今までに大きなトラブルには遭遇していないが、しばらく乗らないでいたら、クーリングファンの中にネズミが巣を作っていたのだとか。齧られる被害がなくて良かったですね。

運転席はBRIDE製のフルバケットシートを装着。
このデルソルは無限のレプリカ仕様だが、オーナーの[fe8eg2pro]さんは無限マニア。貴重なパーツやグッズをコレクションしている。
■CR-Xデルソル1.6SiR(1995)
ボディサイズ:全長4005mm×全幅1695mm×全高1225mm
ホイールベース:2370mm
車両重量:1090kg
エンジン種類:水冷4気筒DOHC16バルブ
総排気量:1595cc
最高出力:170ps/7800rpm
最大トルク:16.0kg-m/7300rpm
当時の価格:187万3000円