モト・チャンプ 2024年5月号

スーパーカブシリーズ マフラー交換のソコが知りたい!

アルミメッキシリンダーにスリーブを入れ替える

 

現代のバイクに搭載されているエンジンは「レシプロ」と言われ、シリンダーの内部をピストンが往復することで、これを回転運動に変換して出力する。シリンダーの中をピストンが1分間に数千回転から1万回転以上往復しているため、多くの距離を走ればシリンダーが摩耗してしまうのだ。シリンダーの内壁にはホーニグと呼ばれる加工によって細かい溝が刻まれている。この溝にエンジンオイルが入り込むことでシリンダーとピストンリングの潤滑を促し、エンジンをスムーズに動かしているが、摩耗によりこの溝がすり減ってしまい、潤滑不足で焼きついてしまうことも多い。

ニッケルシリコンカーバイド系のメッキ加工が施されたアルミシリンダーのスリーブ。ハードクロームのピストンリグとは相性がいい。
上面がフラットな深さ4ミクロンのホーニングで摺動面にエンジンオイルをしっかりと保持してくれる。

多くのオートバイ用エンジンは鋳鉄製のシリンダーが採用されていて、摩耗することが当たり前。シリンダーは消耗品というのがこれまでの常識だったが、井上ボーリングでは「減らないシリンダー」を作りたいと考え、アルミのスリーブに特殊なメッキ加工を施すことで、シリンダーの耐久性を飛躍的に向上させた。それが「ICBM※1」だ。鋳鉄製のスリーブを取り外し、そこにアルミ製のスリーブを圧入するという方法なので、旧車から最近のモデルまで、年式を問わず対応できるほか、ポートの加工も可能なため、2ストロークエンジンにも対応している。

現行のスーパーカブ110に搭載されているエンジンは、シリンダーのボアφ47mm×ストローク63.1mmの排気量109cc。

しかもこのICBMはシリンダーの耐久性には絶対的な自信を持っているので、なんと「永久無償修理」を謳っている。万が一使用限度を超えて摩耗した場合には無償で再メッキを施してくれるという。もちろん、これまでに修理を行なったユーザーは皆無だ。


今年で創業から61年を迎えた株式会社井上ボーリング代表・井上壮太郎氏。古いエンジンを大切にするのはもちろん環境問題にも早くから着目し、自然環境に影響を与えずに内燃機関の延命する方法として水素で駆動するエンジンを研究中。あえて2ストで挑戦し、125ガンマの試作車を走らせている。

アルミ製にすることで冷却効果もアップする

ICBMはこれまで比較的大きな排気量のエンジンを中心に施工が行われてきた。というのもこれまでは内径φ50〜φ100mmまでのサイズに限られていたため、小排気量車には対応していなかったのだが、この度φ42mmからアルミ製スリーブの製作が可能になったため、カブ系の110ccや125cc、旧型カブの70 ccや90ccのエンジンも加工が可能になったのだ。

現行車両のエンジンならまだパーツが出るし、必要がないように思われがちだが、一度加工を行えば10万kmまで摩耗の心配がないので、長く乗り続けたいユーザーはもちろん、長距離ツーリングを楽しむユーザーにもエンジントラブルの心配が少なくなるのでオススメだ。また、スリーブがアルミ製になることで冷却効果もアップするため、真夏の長距離走行でエンジンが熱ダレすることも軽減してくれる。耐久性や冷却性能が上がるため、圧縮比のアップなど、チューニングエンジン用としても活躍するだろう。

2ストシリンダーにも対応

2ストロークエンジンの場合、スリーブ吸排気ポートが必要になるが、希少車でもデータを計測して正確に加工を行うことができる。

スリーブのメッキは非常に硬度が高いので、特殊なダイヤモンドのビットでホーニングを行う。表面を滑らかにしつつも、しっかりと溝を刻むプラトーホーニングという方法が用いられている。

▲鋳鉄のスリーブ部分が取り除かれたシリンダーに、アルミ製のスリーブを圧入していく。スリーブの重さは鋳鉄製の1/3ほどだ。

精度の高い加工技術

古いバイクはスリーブを引き抜くことができるが、現代のエンジンは鋳込まれているので、工作機械を使って内側から鋳鉄スリーブを削り取っていく。楕円ピストン以外ならほとんどの車種で加工が可能だ。

カブ系の社外製パーツにはこれまでもメッキシリンダーは存在したが、基本的にチューニングパーツのため排気量がアップしてしまう。特にハンターカブだと排気量アップで登録が原付2種ではなくなってしまうため、排気量が変わらないメッキシリンダーはメリットも大きいと言える。施工価格は7万円から。

現在は実走を含めた最終テスト中で、発売は春以降を目指している。

取材協力:井上ボーリング


シリンダーのボーリングをはじめ、クランク加工、バランス取りなどエンジン部品の加工を行う老舗の内燃機屋さん。HRCのレーシングパーツの加工を手がけるなど、その技術には評価が高い。車両やエンジン単体の状態での持ち込みはできないので、自分で分解できない場合はプロショップ経由でのオーダーを。

埼玉県川越市下赤坂671/049-261-5833