普通乗用車未満ではあるが

トヨタ アイゴX
トヨタ アイゴX

日本の軽自動車が注目され、欧州で「Eカー」の必要性をステランティス会長のジョン・エルカンが言及し、トランプ大統領もマイクロコンパクトカーにGOサインと報道され、いよいよ日本のガラパゴスが世界進出?という声もありますが、さすがにそれはお花畑過ぎ。欧米は日本の軽カーのような「普通乗用車未満、原付以上」のカテゴリー規格を創設することに方向性を見出しているだけです。

それが何かといえば、ルノーの元CEOのルカ・デ・メオは、Eカーの前提として安全基準の緩和を求めていました。要は、安全基準の厳格化に比例してボディ外寸もコストも肥大化し続ける既存の欧州車ルールと並行して、地域圏コミューター用途の「普通車未満」カテゴリーを、特例的に設けるべしという話です。

筆者は当初、具体的にEカーのカテゴリーは、欧州メーカーがコスト的にも安全装備の適合の面でも難しくて見放していたAセグメント車の再評価になると予想していました。というのも、GERPISA(Groupe d’études et de Recherche Permanent sur L’industrie et les Salariés de l’Automobile)という自動車産業のあり方を科学的見地から研究する第3者機関が2024年末、欧州委員会の求めに応じて、ASEV(Affordable Sustainable Electric Vehicle)という普通自動車のサブカテゴリーを新設するため「M0」と「M1」と呼ばれる型式規格を提唱していました。

BEVであることが前提のEカーに対して

トゥインゴ Eテック エレクトリック
トゥインゴ Eテック エレクトリック

それによれば、全長3.8m、全幅1.7m、全高2mにホイールベース2.2m以下で、重量は1000kg以下、普通車に求められるGSR 2装備は簡略化という点は同様。前者は出力54PSまでで高速道路は通行禁止、後者は68PSで高速道路OK。以上がEカーのひな型で、BEVであることが前提でした。

すると2025年前半、ステランティス・グループが、販売が一巡して落ち着いてしまった「フィアット500e」を早速、12VのMHEV+MT仕様に転換することを発表。同年の後半に市場投入してきました。

同じ頃には欧州委員会は、2035年に新車のゼロエミッション化つまりICE車の販売を終了させる目標の修正を図り始めました。そこでASEV(Affordable Sustainable Electrified Vehicle)はなし崩し的に、いわばBEVでなく電動車をもEカーの範疇に入れていく方向性へと、欧州の自動車メーカーらが突き上げて妥結する……だろうと考えていたのです。

鳴り物入りで議論されたEカーに対する失望感

トゥインゴ Eテック エレクトリック
トゥインゴ Eテック エレクトリック

そして12月16日、欧州委員会は「オートモビル・パッケージ」と呼ばれる、今後の包括的しかし修正的な指針を示しました。ひとまず2021年比でCO2排出を90%まで下げる条件で、2035年のICE車の新車販売の禁止は撤回。かくしてハイブリッドも純ICEも部分的に生き残ります。

ところが同時発表された「M1E」と呼ばれるEカーの規格は当面10年間は有効としつつ、全長4.2m以下のコンパクトなBEV、と発表されました。要はAセグどころかBセグ相当のサイズで、日本の軽自動車よりふた回り以上もデカいのがEカー、ということになります。具体的には「オペル コルサ」「フィアット グランデパンダ」「ルノー 5 E-テック」や「プジョー 208」やがて登場するVWの「ID.ポロ」も含まれます。

どのような安全装備を簡略化できてコストを抑えて、目標としてきた1万5000~2万ユーロの価格を実現できるかの目安は、まだ発表されていません。まさか鳴り物入りで議論されてきたEカーが、すでに欧州市場にあるBEVだったという失望感が、欧州のインターネット空間に渦巻いています。

コンパクトな欧州製BEVへの誘導

トゥインゴ Eテック エレクトリック
トゥインゴ Eテック エレクトリック

ただでさえ常用速度レンジの高い欧州が、わざわざ軽自動車に即したルールや環境を用意してくることはありえないとは思っていましたが、投資効率の点で再びAセグに資金や労力を呼び戻すより、すでに欧州の自動車メーカー各社やインフラ関係各社が投じてきた開発コストを回収できる方向を打ち出した、ということです。

欧州産による低排出スチールの使用と、バッテリーセルを促すための施策も含まれます。これまた詳細は来年初頭になるであろう「欧州議案2018/858に関する修正」の発表を待つしかありませんが、Eカーならではの税制緩和や高速や駐車料金の優遇措置なども用意され、自治体やユーザーも「コンパクトな欧州製BEV」に誘導される方向性です。加えてCO2排出クレジットの上でEカーは1.3倍カウントされるため、Eカーを売るほど各自動車メーカーにはスポーツモデルなどを継続する基盤が強化されます。

平たくいえば、安価なBEVの必要性は認めるが、日本の軽自動車を真似る必要はなく、かといって中国製BEVに価格面で一定の歯止めをかけながら、欧州域内の自動車産業の競争力育成は続ける、という判断です。

トヨタの抜け目ない布石

トヨタ プロエースシティ
トヨタ プロエースシティ

すでに登場しかけているAセグ相当のニューモデルでは、メーカー陣営ごとに明暗が分かれました。前者は、初代を彷彿させる4代目「トゥインゴ」をBEV化して11月半ばに発表し、2026年中に市場投入する予定のルノー、そして「ID.エブリー1」を準備しているVW。対して先んじて65PS、95Nmの「フィアット 500ハイブリッド」を投じたステランティスグループには厳しい目が出たといえます。

ただし相対的に、このM1Eカテゴリーの制定で漁夫の利を得そうなのが、欧州Aセグとして初のフルハイブリッド車である「トヨタ アイゴX」をチェコ工場で生産するトヨタです。バッテリーやスチールの調達を欧州内で確保しながらBEV化すれば、アイゴXは当然Eカーとなるでしょう。しかし、自宅や周辺に充電環境が必要な車であることがネックであり続ける一定のユーザーにとっては、維持・使用コストでどのぐらい優遇措置を受けられるか不明ながら、Eカーが解決になるかどうかは定かではありません。つまりストロング・ハイブリッドが市場で優位になる可能性は、まだ消えていないのです。

もうひとつトヨタの抜け目ない布石は、ステランティスのスペイン・ヴィゴ工場で「シトロエン ベルランゴ」や「プジョー パートナー」と並び、「トヨタ プロエースシティ」がプラットフォーム共有&生産していることです。これは2016年からの「シトロエン ジャンピー」と「プジョー エキスパート」「トヨタ プロエース」というワンサイズ上のセグメントでの共有に次ぐ、商用車でふたつ目のコラボ。当然、商用車のBEV化への道筋もつけられます。

5ナンバー枠まで軽税制を拡大すべし

トヨタ アイゴX
トヨタ アイゴX

Eカーのひな型にあった「M0」、つまり高速道路に入れないフォーマットについては立ち消えたか、今後新たに発表されるかは不明です。むしろ軽自動車が国内新車登録の半分を占めてしまった日本で、参考になる部分でもあります。軽自動車の高速道路乗り入れを部分的にコントロールすることは、安全面や使用環境、産業面で利得があるでしょう。セーフティネット的存在としての軽自動車とその税制は必要ですが、あくまで普通車未満のコミューターであることは今一度、認識すべきで、Bピラーレスや衝突試験の方法などパッシブ・セーフティの面は今や見直す余地があります。

むしろ今後、速度レンジが高くBEV化で重量エネルギーが増しても通用するコンパクトカーの開発を国産メーカーに促すため、5ナンバー枠あたりまで軽の税制を拡大する方が生産的でしょう。逆に既存の軽カーは本来の地域圏コミューターに徹してもらうため、高速道路では登録地域から長距離を走るほど、ETCで普通車より割高にするような方向性です。

すると追越車線の上で軽ハイトワゴンやトラックが、まるでテトリスか何かのように車間を詰め合っているのが、滑稽を通り越して野蛮か未開であることに気づく人が増えるはずです。