連載

【1代限りで消えた車名】

ミニバンブームを彩るトヨタミニバン百花繚乱

1990年代後半から2000年代にかけて、ファミリー層をメインターゲットとしたミニバンが大流行。日本最大にしてフルラインメーカーであるトヨタは、エントリーモデルからトップモデルまで充実したラインナップを揃えた。

1994年10月に登場したホンダ・オデッセイがミニバンブームの火付け役とされる。1990年代前半は、スライドドアミニバンはワンボックス車から続く商用車的なモデルから完全に分化していなかった。

シエンタ、ラウム、イプサム、ウィッシュ、ノア/ヴォクシー、エスティマ、そしてアルファード/ヴェルファイア。トールワゴンまで含めればファンカーゴやポルテ、カローラスパシオあたりも加わり、あらゆるユーザーニーズに応えることができたのは、まさに強大なトヨタパワーだ。

2010年当時のトヨタのミニバンラインナップ。左からノア、エスティマ、アルファード、ヴェルファイア、アイシス、ヴォクシー。

そのようなラインナップから、トヨタが2004年9月にスライドドアのロールーフミニバンとしてリリースしたブランニューモデルであるアイシスを振り返る。

トヨタ・アイシス(『モーターファン別冊ニューモデル速報第346弾 TOYOTAアイシスのすべて』より)

ロールーフ×スライドドア+パノラマオープンドア

当時のミニバンはまだスライドドアだけでなくスイングドアも健在だった。また、ハイト系だけでなくホンダ・オデッセイに代表されるロールーフのモデルもまだまだ人気があり、これらの組み合わせで多様な車種が存在した。

トヨタのロールーフ×スイングドアミニバン、ウィッシュ。2003年に登場し、2009年に写真の2代目に移行した。

例えば、
ロールーフ×スイングドア:オデッセイ、ストリーム、ウィッシュなど
ロールーフ×スライドドア:アイシス、プレーリー、MPVなど
ハイト系×スイングドア:イプサム、トラヴィックなど
ハイト系×スライドドア:ノア/ヴォクシー、セレナ、ステップワゴンなど
と、実に多彩。

自社にミニバンを持たないスバルがなんとかミニバンブームに乗ろうと、当時資本関係にあったGMグループからオペル・ザフィーラのOEM供給を受けて販売したのがトラヴィック。スバル独自のセッティングや、ザフィーラよりも割安で、評価自体は高かったものの、4WDの設定がないことがスバルユーザーには不評で販売は伸び悩んだ。2001年発売、2005年販売終了。これまた1代限りの車名となった。

アイシスは中でもロールーフのスライドドア車として誕生。ボディサイズは5ナンバーいっぱい、排気量は1.8L〜2.0Lのミドルクラス。ハイト系スライドドアのノア/ヴォクシーと、ロールーフ×スイングドアのウィッシュの間を狙ったモデルと言えるだろう。

写真は2011年12月に設定された特別仕様車、特別仕様車「プラタナ“V-SELECTION・White Interior Package」(1.8L・FF・オプション装着車)

そして、アイシスを特徴付けたのが左側のスライドドアをピラーレスとした「パノラマオープンドア」だ。センターピラーレスの大開口スライドドアは1982年に登場した初代日産プレーリーが嚆矢とされる。その後しばらくフォロワーは生まれなかったが、トヨタが2003年に発売した2代目ラウムで21年ぶりに採用。アイシスがそれに続く形となった。

アイシスのパノラマオープンドア。開口幅は1890mmだ。(『モーターファン別冊ニューモデル速報第346弾 TOYOTAアイシスのすべて』より)
日産プレーリー(初代=M10型/1982年)
初代プレーリーのインテリア。フロントドアとスライドドアの間のセンターピラーが存在しない。
トヨタ・ラウム(2代目/2003年)
2代目ラウムのパノラマオープンドア。

現在でもダイハツ・タントが2007年登場の2代目モデルから採用している「ミラクルオープンドア」があるくらいで、非常に珍しい機構ではある。(センターピラーレスの観音開きドアは度々出てくるが)

2003年にデビューした軽スーパーハイトワゴン、ダイハツ・タントは2007年のフルモデルチェンジで「ミラクルオープンドア」を採用。助手席側はフロントドアとスライドドアの間のセンターピラーをスライドドア内部埋め込むことで大開口を実現した。

トヨタらしい全方位でソツのないつくり

5ナンバーサイズながら7名乗れるスペースと、パノラマオープンドアによる優れた乗降性はもちろん、多彩なシートアレンジが可能なユーティリティ性も兼ね備えている。とはいえ、当時のレビューを見るに、やはり5ナンバーサイズで7名乗りとなると、3列目席の居住性は”快適”とまではいかなかったようだ。

アイシスのインテリア(写真は2013年の一部改良モデル)。助手席はタンブル格納、 2列目シートは座面チップアップ、3列目シートは床下格納が可能と、アレンジは多彩。

パワートレインは1ZZ-FE型1.8L直列4気筒DOHCエンジン+4速AT(スーパーECT)と1AZ-FSE型2.0L直列4気筒DOHC直噴(D-4)+CVT(スーパーCVT-i)を設定。CVTはマニュアル操作可能な7速シーケンシャルシフトマチックとなっており、2.0Lモデルは4WDも用意された。
グレードは1.8Lモデルが3グレード、2.0Lモデルが5グレードとなり、価格も178万5000円(1.8L/FF)〜273万円(2.0L/4WD)と幅広くユーザーのニーズに応えるラインナップだ。

アイシスのインテリア。インストゥルメントパネルは曲線貴重の独特なデザイン(写真は2013年の一部改良モデル)。

今でこそ進化したミニバンの走りに不満の無いレベルになってきているが、当時はまだ背が高い上に重く大きなスライドドアを備えたハイト系ミニバンの走りは満足いくものではなかった。そのため、走りを諦めずに済むロールーフ×スイングドアのミニバンの需要も高かった。

トヨタ・アイシス(『モーターファン別冊ニューモデル速報第346弾 TOYOTAアイシスのすべて』より)

アイシスはそのちょうど中間。スライドドアの利便性を備えつつ、乗用車的乗り味を残す絶妙な塩梅に仕立てられていたようで、インプレッションは良い意味で”普通”と評されていた。

エジプトの女神がまさかの風評被害?

アイシスの欧文スペルは「ISIS」。トヨタのオフィシャルサイトによると、この車名は古代エジプトの豊穣を司る女神が由来で「乗る人全ての心を豊かにする車という」意味が込められているという。車名の「アイシス」よりも「イシス」の読み方の方が一般的かもしれない。

トヨタ・アイシス(写真は2013年の一部改良モデル)。横から見ると、助手席側スライドドア(パノラマオープンドア)がかなり大きいことがわかる。

しかし、アイシスのモデル後半生、中東で活動するイスラム過激派が「イスラム国(Isramic State=IS)」を呼称。その活動範囲がイラクやシリアに及ぶや「イラクとシリアのイスラム国(Islamic State of Iraq and Syria)」、つまり「ISIS」と呼称されるに至ったのが2013年頃から。特にその活動が活発だった2015年頃はニュースでしきりにその名を見聞きすることになった。

トヨタ・アイシスのリヤまわり。

これがモデル末期とはいえトヨタのアイシスとスペルも読みも同じという不運に見舞われた。実際、この風評被害に実害があったのかは定かではないが、当時のニュースを振り返るとトヨタ・アイシスとはほぼ無関係に「なぜ(ISを含む)イスラム過激派はトヨタ車を愛用するのか?」といった話題が多数掲載されたようだ。(それについてはアイシスとは関係ないので割愛するが)

モデルライフは13年!乗用車では最長クラス

アイシスは2017年12月、その13年にも及ぶモデルライフを全う。フルモデルチェンジすることなく1世代でその名跡は途絶えた。

2016年4月に最後となる改良が行われた。1.8L車FFモデルの燃費を向上させたほか、シート素材の変更に加え機能性が向上したリモコンドアミラーとUVカットガラスが設定された。
シート表皮と意匠が変更され、シートのメイン材には車内の様々な臭いを短時間で吸収・分解する消臭機能(イノドールクイック瞬感消臭)が採用された。

とはいえ、2010年代後半のミニバン市場は完全な成熟市場と化しており、売れるているのはスモールクラスからラージクラスまでハイト系スライドドアモデルばかりで、ロールーフやスイングドアのミニバンはほとんど売れなくなっていた。そのため、トヨタでもかつてのヒットモデルであるウィッシュもアイシスとともに販売終了しているほか、ロールーフ×スライドドアのライバル車も同時期に販売が終了している。

マツダのロールーフ×スライドドアミニバン、MPV。写真の3代目は2006年デビューとアイシスとほぼ同期で、2016年に販売終了した。
MPVよりひとクラス下となるプレマシーは、3代目が2018年に販売終了。ちなみに2代目が2005年〜2010年とアイシスの販売期間内にフルモデルチェンジしている。
日産プレーリーの後継モデルであるラフェスタは初代が2004年に登場。2011年に画像の2代目にモデルチェンジし、2018年に販売終了した。

トヨタ車の中で1世代で13年というモデルライフは、ハイエースやタウンエース、サクシード/プロボックスといった商用車や、特別なクルマであるセンチュリー、ランドクルーザーを除けば異例のことであった。他にはカローラアクシオ(2代目)、カローラフィールダー(3代目)が同じく13年。プレミオ(2代目)/アリオン(3代目)が14年となっている。

トヨタ・プレミオ。2001年にコロナのサブネームから独立(コロナが消滅)。2007年の2代目プレミオは2021年まで14年間販売された。カリーナの後継モデルであるアリオンは兄弟車で、プレミオ/アリオンと併記されるケースも多い。

そもそもロールーフ×スライドドアミニバンという車種が消滅した以上、アイシスの車名が受け継がれる必然性は無いわけだが、13年も販売された車名もあっけなく消えていくことに諸行無常を強く感じざるを得ない。

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