コーナリングが組み立てづらい

清本さんと2021年型MT-07。当初はなかなか走行距離が伸びなかったものの、足まわりの改善作業後はグングン距離を伸ばし、現在は2万5000km。

“見通しがいい峠道はすごく楽しいんだけど、普段からよく走っているチマチマした県道とか舗装林道が難しいんだよ。この問題って、サスセッティングで解消できるのかな?” 今から4年ほど前、古くからのツーリング仲間にして、2021年にヤマハMT-07を新車で購入した清本さんから、僕はそんな相談を受けた。

基本的にはノーマル然としたスタイルを維持する清本さんのMT-07だが、シートは欧州市場向け純正アクセサリーのスポーツタイプに変更。スクリーンはMRA。

確かに、2021~2024年に販売された3代目MT-07は、サーキットのような快走路が楽しい一方で、見通しと路面状況がいまひとつな悪路はあまり得意ではなかった。清本さんが言うチマチマした県道や舗装林道では、フロントフォークは戻りが早すぎ、リアサスはストローク感が希薄で、コーナリングが組み立てづらいのである。

右がオザワR&Dの代表を務める小澤正樹さんで、左はメカニックの橘田雅史さん。

そこで、僕の自宅ガレージをベースにしてリアショックのプリロード/伸び側ダンパーやタイヤの空気圧、フロントフォークのオイル粘度などを調整してみたものの、解決には至らず。

清本さんと今後の方針をじっくり相談したうえで、以後の作業は常日頃から僕が何かとお世話になっている、オザワR&Dに依頼することにした。

足まわりに本来の性能を発揮させる

オザワR&Dの作業は、リフトに載せて持ち上げる一方で、天井からタイダウンで吊る形で車体を直立させるのが基本。

というわけで今回から3回に渡って、MT-07の足まわり改善作業をお届けするのだが、第1回目で紹介するのは僕が清本さんにオススメし、サスセッティングの前段階として行った、オザワR&D独自の定番メニューである“新車整備”。

ド新車だけではなく、走行距離が少ない車両も対象としたこの作業の目的は、足まわりに本来の性能を発揮させること。フロントはステアリングステムから先、リアはスイングアームピボットから後ろを完全分解し、入念な清掃やグリスアップを行い、すべてのボルト&ナットを適切なトルク/状態で締めつける。

フロントフォーク/ステアリングステム/フロントアクスルシャフトの直角と平行を意識して、フロントまわりを組み立てているところ。

などと書くと、新車にそんな作業が必要?と疑問を抱く人がいるだろう。まあでも、新車は必ずしも設計者の理想を実現しているわけではないのだ。

公差の範囲内ではあるけれど、ボルト・ナットの締めつけはオーバートルク気味が多いし、グリスの塗布は最小限に抑えられていることが珍しくない。さらに言うなら、圧入されたベアリングがわずかに傾いていたり、フロントフォーク/ステアリングステム/フロントアクスルシャフトが描く“日の字”が微妙に歪んでいたりという事例も存在する。

清本さんのMT-07から取り外したステムベアリング。グリスは適度に塗布されているが、万全とは言い難い。
ステムベアリングに限った話ではないが、、組みつけ時はすべての軸受けにグリスをたっぷり塗布。表面だけではなく、ボール/ローラーの奥にも入り込ませる

もちろん、そういった状況が即座にトラブルにつながるわけではないのだが、過去に何度か取材という形でオザワR&Dの新車整備を体験した僕は、作業前と作業後のライディングフィールに激変‼という印象を抱いた。だからこそ、清本さんに新車整備を勧めたのである。

今回のリアまわりの分解は至ってスムーズに進んだが、ある程度以上の距離を走った車両や年数が経過した車両では、スイングアームピボットシャフトやリンク関連ボルトが固着していることが珍しくないそうだ。

なお新車整備には、長い目で見ると維持費の抑制という美点もある。例えば、新車から数年以上が経過した車両の足まわりを分解すると、いくつかの部品が要交換になるのが通例だが、早い段階で各部に手を入れておけば、ベアリングやシールなどの寿命は大幅に伸びるのだ。

フロントまわりの直角と平行

上側ステムベアリングのアウターレースにはうっすらと打痕がついていたものの、指で触って凹凸を感じるレベルではなかった。

さて、前置きが長くなったけれど、ここからはようやく今回の作業の話。

この時点で約5000kmを走っていた清本さんのMT-07の足まわりを完全分解したところ、ステアリングステムベアリングのレースにうっすらとした打痕、リアサスのリンクを構成するボルトに腐食、前後のホイールベアリングにわずかな歪みが確認できたものの、作業を行ってくれた店主の小澤さんとメカニックの橘田さんによると、ある程度の距離を走った車両なら、このくらいの症状は特に珍しくないとのこと。

ホイールベアリングの状況を確認中。指で動かすとリアは回転が少々渋かったため、ベアリングドライバーを用いて適正な圧入状態に改善。

では作業を終えた後、各部の清掃とグリスアップを行い、すべてのボルト・ナットを適切なトルク/状態で締め付けた後の乗り味がどうなったのかと言うと、まずステアリングの動きがものすごく軽くなった。

スラローム的な走りをしたときの追従性が明らかに機敏だし、車体を傾けた際の舵角もわかりやすい。逆に言うなら、これまでは締まりすぎたステアリングステムナットが、フロントまわりのナチュラルな動きを阻害していたのだろう。

リアサスのリンクを構成するボルトには腐食が発生していたので、ワイヤブラシで除去。組みつけ時は前後アクスルと同じく、シャフト部にグリスを薄く塗布しておく。
リアサスのリンクとコネクティングロッド。いずれの部品も、内部にニードルベアリングが収まっている。

それに加えて、フロントブレーキのコントロール性が良好になったことも特筆したい要素。前述した“日の字”に関して、この車両は露骨に歪んでいたわけではないけれど、作業後はフロントフォーク/ステアリングステム/フロントアクスルシャフトの直角と平行がビシッと出たようで、それがコントロール性の向上につながっている。

また、当初の懸案だったリアサスのストローク感も、多少はわかりやすくなった気がしないでもない。

分解したボルト・ナットの洗浄と脱脂が終わった後は、組みつけ前に座面とネジ山にスレッドコンパウンドを塗布。

ただし一方で、フロントフォークの戻りが早すぎる問題は、“日の字”がビシッとしてストローク時のフリクションが減った結果なのか、作業前より顕著になっていた。

これは意外な展開だったものの、新車整備の後は当初からフロントフォークのモディファイを行う予定だったので、清本さんも僕もマイナス要素とは感じなかった。

主要部品の組み立て時は、すべてのボルト・ナットでダイヤル式トルクレンチを使用。オザワR&Dでは寸法や構造を検証したうえで、サービスマニュアルとは異なる数値とすることもある。