フロントを優先するべき

2021年型ヤマハMT-07の足まわりをオザワR&Dでモディファイするにあたって、オーナーの清本さんと僕が何とかしたいと感じていたのは、チマチマした県道や舗装林道などを走った際に、フロントフォークの戻りが早すぎることと、リアサスのストローク感が希薄なこと。

ショップの前で記念撮影。右がMT07のオーナーである清本さんで、中央がオザワR&Dの代表を務める小澤さん。左はメカニックの橘田さん。

そしてその2点に関して、僕はどちらから着手するか、清本さんはどちらにどのくらいコストをかけるかで迷っていたのだが(予算は前後で20万円以内)、第1回目で紹介した新車整備の後に、この車両を試乗したオザワR&Dの小澤さんの判断はフロント重視だった。

3代目以前のMT-07のフロントフォークはφ41mm正立式で、減衰力発生機構は昔ながらのフリーバルブ式。

「動きとしてはフロントフォークのほうが気になりますから、この車両は順序もコストもフロントを優先するべきだと思います。一方のリアは、ダンパーがなかなかいい仕事をしているし、アジャスターをいじると利き方がそれなりに変化するので、スプリングレートを少し下げれば、問題が解消する可能性がありそうですね」

減衰力発生機構を一新

ノーマルのフロントフォースプリング(実測レートは95N/mm)とカラー。

ちなみに、フロントフォークの戻りが早すぎる原因は、スプリングレートが高すぎるか、伸び側ダンパーの利きが弱すぎるかのいずれかで、小澤さんは後者が主な原因と推察。

そしてダンパーを強化するとなったら、ノーマルをベースにしてオイル粘度のアップやダンパーロッドの加工を行うという手法もあるのだが、小澤さんはアフターマーケット製カートリッジダンパーを推奨。

フロントフォーク内の底部に備わるダンパーロッド。

「MT-07のフロントフォークのダンパーは昔ながらのフリーバルブ式で、この構造で理想の特性を得るのは非常に難しいんです。得られたとしても、オイルへの依存度が高いので、夏と冬ではフィーリングが大きく変わってしまう。そういった事情と前後で20万円以内という予算を考えるなら、10万円前後で市販されているカートッジダンパーを投入するのが得策だと思いますよ」

ビチューボのフロントフォークカートリッジキット。定価は11万1500円。フォークオイルは付属しないので、今回はオザワR&Dが取り扱うシルコリンを使用。

もちろん、清本さんも僕もこの言葉に異論はない。国内外の数社が販売しているMT-07用フロントフォークカートリッジキットの中から、今回は同店が懇意にしているガルーダが輸入元で、セッティングパーツの入手が容易な、イタリアのビチューボ製を選択することにした。

小澤さんの知識欲と気遣い

トップキャップにプリロードとダンパーのアジャスターが備わることは共通だが、ビチューボのカートリッジダンパーは左右で機能が異なる。写真は圧縮:COMP側。

ノーマルのスプリング+ダンパーロッドと入れ替える形で、ビチューボのカートリッジキット(スプリングも含む)を装着するにあたって、僕が興味を惹かれたのは小澤さんの姿勢……と言うか、知識欲と気遣いだった。

ビチューボのスプリングレートは、初代MT-07の数値に近い80・85N/mm。
 
装着前にダンパーのフィーリングを確認するべく、キットからスプリングを取り外す。

基本的にこのカートリッジキットはボルトオンなのだが、小澤さんはまず両者のスプリングレートを計測(ノーマルはミドルネイキッドとしては高めの95N/mmで、左右でレートが異なるビチューボは80・85N/mm)。

ダンパーロッドを手で押した際のフィーリングに微妙な違和感を抱いた小澤さんは、電子体重計を使って圧縮側と伸び側の差異を認識。
圧縮側ダンパーロッドの加圧値を実測すると、0.4kg/㎠だった。

続いて、圧縮と伸びの仕事が左右に分離しているビチューボのダンパーロッドを手で押した際に、反力の差異に微妙な違和感を抱いた小澤さんは、カートリッジを完全分解して圧縮側のみが加圧式であることを把握し(同時にピストン形状とディスクバルブの積み方も確認)、伸び側にも加圧機構を追加。

そういった工程は、オザワR&Dでは普通のことなのかもしれないが、僕自身はそこまでやるのか‼……と、大いに感心してしまったのだ。

現物に合わせて製作した治具を用いて、カートリッジの分解に着手。
カートリッジから抜き出した、ダンパーの発生源となるピストンとディスクバルブ。

「後々のセッティングを考えると、素性は把握しておきたいですからね。逆に言うなら素性を把握していないと、ビチューボの標準セットがいまひとつだった場合に、そこから先の進むべき方向性がわからないでしょう」

ダンパーロッドから取り外したピストンとディスクバルブ。標準セットに問題を感じた場合は、ディスクバルブの外径や厚さ、枚数を変更する。
ガス室とオイル室を仕切るピストン。左はビチューボ製で、右は小澤さんのワンオフ。

理想の特性を獲得‼

もっとも今回の作業では、小澤さんの気遣いは不要だったのかもしれない。と言うのも、ビチューボのカートリッジキットを組んだフロントフォークは標準セットですでに、清本さんと僕にとって理想的と言いたくなる特性を身につけていたのだ。

その主な原因は、単純に利きが強くなっただけではなく、作動感が上質なダンパーだと思うものの、スコスコと動きすぎない穏やかな特性には、レートが低いスプリングも貢献しているのだろう。

フロントフォークの天地を逆にして、カートリッジダンパーをアウターチューブに固定するボルトを組み込んでいるところ。

この作業の後、清本さんと僕は何度か一緒にツーリングに出かけ、見通しと路面状況が悪い県道や舗装林道の走りやすさに大いに感心。

しかもフロントのプリロードと伸圧ダンパー、リアのプリロードと伸び側ダンパーの微調整を行っているうちに、もうひとつの課題だったリアサスのストローク感の希薄さも薄れてきて、僕としてはもうこれでOKじゃないかという気がしたのだが……。

作業完了後に動作確認をする小澤さん。

清本さんの意見は、“フロントフォークをいじってここまで良くなるなら、リアもやってみたい”だった。というわけで次回は、フロントフォークの作業から半年後に行った、リアショックのモディファイを紹介しよう。

ヤマハMT-07、各部の締め付けトルクや潤滑を最適化して、本来の資質を引き出す|足まわり改善策【1/3】

当記事で紹介するのは、オザワR&Dで行ったヤマハMT-07の足まわり改善作業。全3回の第1回目となる今回は、本格的なサスセッティングに着手する前に行った、同店独自の“新車整備”を紹介しよう。 PHOTO&REPORT●中村友彦(NAKAMURA Tomohiko) 協力●オザワR&D http://www.ozaward.jp/