Ferrari 849 Testarossa
レジェンドモデルを思わせるデザインを採用



4.0リッターのV8エンジンをミッドに搭載し、トランスミッションとの間に1基、フロントには2基の計3基のモーターを搭載したPHV、というスペックを聞くと、フェラーリに少し詳しい方は「SF90 ストラダーレ」(以下、SF90)を思い浮かべることだろう。その通り、この「849 テスタロッサ」はフェラーリ初のPHVスーパースポーツであったSF90の後継モデルだ。実質はビッグマイナーチェンジでウインドウ周りはSF90のものを引き継いでいるが、ボディパネルはすべて刷新されており、まったく新しいイメージを打ち出している。
そのデザインテーマはクラシックへの回帰と言ってもいいものだ。直線基調となったフロントは左右ヘッドライトをブラックのパネルでつなぎ、その下には大きなスポイラーを張り出させる。プレゼンテーションでは1980年代のリトラクタブルヘッドライトのスーパーカーをイメージしたという説明があったが、それも納得。個人的には「365」&「512BB」を思い出してしまった。後ろに回ると左右の両端だけリヤスポイラーが迫り出すようなデザインで、これも1970年代のスポーツプロトタイプ「512S」をイメージしているのだという。「12チリンドリ」といい、最近のフェラーリはヘリテージモデルをオマージュしたデザインへとシフトしているようだ。そういえば「296」シリーズもクラシックデザインを現代流に解釈したものだった。
V8ツインターボとモーターで1050PSを達成

クラシックテイストなデザインといってもエアロダイナミクスはしっかりと追求されており、ダウンフォースは250km/hの時に415kgを発生する。これはSF90よりも25kg大きい数字だ。リヤ中央部には可動式のスポイラーが内蔵されているのだが、この415kgのダウンフォースはこれが上昇した時の数字。ちなみに可動式リヤスポイラーが生み出すダウンフォースは100kgということだ。
リヤのエンジンフードを開けると「エンジン地面に置いてある?」と思うほど低い位置に搭載されたV8ツインターボエンジンが見える。言わずと知れた名機F154だが、SF90のものから大幅な改良を施されている。エンジン内部はもちろんのこと、ターボチャージャーはSF90よりも10%大型化し、さらに低摩擦ベアリングなどの採用によってSF90と同等のレスポンスを実現。結果としてエンジン単体のパワーは830PS、842Nmを実現しているのだが、これはSF90よりも50PS、42Nmのアップとなる。これに組み合わされる3基のモーターのパワーは220PS。つまり849テスタロッサのトータルパワーは1050PSという途方もない数字となる。
1000PS超えのパワーを秘めているとは信じられないほど、849テスタロッサの走りだしはジェントルだ。ステアリング上のスタートボタンを押して右側のパドルを引き、アクセルを踏むとかすかな電子音とともにスルスルと動き出す。ドライブモードセレクトであるeマネッティーノが「eDrive」か「Hybrid」に選択されていると、849テスタロッサはEVとなる。環境に優しいとか燃費がいいとかいうメリットはもちろんあるが、オーナーとして一番嬉しいのはクルマの出し入れの際にご近所に迷惑をかけないことだろう。それだけでPHVスーパースポーツに乗る意味がある、と思ってしまうほどだ。
エンジンと3基のモーターの見事な協調


バッテリーの容量はSF90と同じ7.45kWhで、約25kmのEV走行が可能というのもSF90と同じ。しかも約130km/hまでEV走行でいけてしまうので、そのまま街中を他のクルマの流れに合わせて走っていても、一向にエンジンは始動しない。ちなみにEV走行はフロントのモーターが行うので、この状態の849テスタロッサはFFということになる。ワインディングに入り、少し強めにアクセルを踏んで加速すると、フォン!とV8が背後で目覚める。そのレスポンスの素晴らしさは、出来のいいNAエンジンさえも凌駕するほどで、右足の動きに直結したように回転が上下し、トルクとパワーが切れ目なく湧き上がる。そこにはモーターによるアシストも多分に効果を発揮しているのだろう、シフトアップ時のパワー息継ぎなどもほぼ皆無だ。
ハイブリッドモードでは負荷が下がるとすぐEVモードとなり、再びアクセルを踏むとエンジンが始動する。その連携は極めて自然で不快な振動などもまったく、それでいて必要なパワーを提供してくれるが、やはりワインディングでは「パフォーマンス」モードの選択がおすすめだ。このモードは常にエンジンが始動しているので、私のような昭和のクルマ好きの脳内を幸福のアドレナリンで満たしてくれる。コーナー手前でブレーキングしてステアリングを切り込んでいくと、クルマはごく自然にインを向き、そこから加速に移ると理想のラインを辿ることが可能だ。多少のオーバースピードでも破綻する気配も見せないのは、フロントのモーターによるアシストの恩恵だが、その動きはトルクベクタリングを強調している感さえあったSF90よりも自然なフィールで、むしろ出来のいいMRを操っているような感覚に陥る。
恐ろしいほどの速さと優れたスタビリティコントロール


それはステージをサーキットに移しても同様だ。ステアリングを切り込んでエイペックスを目指す際の挙動や、じわじわとアクセルを開けていく時のヒリヒリとする緊張感は、ややアナログなスーパーカーを思わせる。ただ、それはそう思わせているだけで、実際はFIVE(フェラーリ・インテグレーテッド・ビークル・エスティメーター)がクルマの動きを推定してあらゆる電子システムを制御しているのだ。1050PSを自由自在に御するほどのテクニックはなくとも、SF90よりもあらゆる局面で速く、そしてクルマを自分で操っている感覚を存分に堪能できる。シフトアップ時に適度なショックがあるのも、むしろ好ましく感じた。
それにしても、この速さは凄まじい。モンテブランコ・サーキットの最終コーナーを100km/hほどで立ち上がった後の加速では8000rpmまでエンジンは一気に吹け上がり、10秒もたたないうちに速度は260km/hを超えている。今回は早めにブレーキをかけたが、200m看板まで踏んでいったら270km/hを超えただろう。そう思えたのは天井知らずのエンジンパワーだけでなく、ピタリとした安定性を生む圧倒的なダウンフォースと、路面に張り付くように速度を調整できるブレーキのおかげだ。
このクルマの実力を最も実感するのは、SF90のオーナーに違いない。もはやスーパースポーツの概念を変えたと思えたSF90だが、進化の余地はまだあったのだ。興隆するPHVスーパースポーツの世界にフェラーリが新たに投じた一石、そのインパクトはとてつもなく強烈だった。
PHOTO/Ferrari S.P.A.
SPECIFICATIONS
フェラーリ 849 テスタロッサ
ボディサイズ:全長4718×全幅2304×全高1225mm
ホイールベース:2650mm
車両重量:1570kg
エンジン:V型8気筒DOHCツインターボ
総排気量:3990cc
エンジン最高出力:386kW(830PS)/7500rpm
エンジン最大トルク:842Nm(47.4kgm)/6500rpm
システム最高出力:1050PS
トランスミッション:8速DCT
駆動方式:AWD
ブレーキ:F&Rベンチレーテッドディスク(カーボンセラミック)
タイヤサイズ(リム幅):F265/35ZR20(9.5J) R325/30ZR20(11.5J)
最高速度:330km/h
0→100km/h加速:2.3秒
車両本体価格:6465万円
