ジュークの予告編としての役割

コンセプトカーには、そのブランド、モデルの未来像を予告する場合と、市販モデルの完成形につながるカタチをコンセプトカーとして見せる場合がある。つまり、市販モデルのデザインがすでに完成していて、その登場のための“地ならし”的な役割を担うということだ。

2009年のジュネーブ・ショーに日産が出展したQAZANA(カザーナ)は後者だ。2010年に登場するジューク(JUKE)を予告するコンセプトカーというわけだ。
コンパクトクロスオーバーとして登場した初代ジュークのデザインは、個性的なフロントフェイスと相まって当時としても斬新なものだった。カザーナというコンセプトカーなしでいきなり発表したら、その斬新さの衝撃が悪い副作用をもたらすかもしれない。


だから、カザーナで「おおっ! なんだこれは!」という事前情報を与えておいて、ジュークを出すという作戦となったわけだ。
カザーナのデザインは日産デザインヨーロッパ(NDE)が担当した。当時、ムラーノやキャシュカイ(日本名:デュアリス)で確立した日産のクロスオーバーラインアップをさらに後押しするためのコンセプトカーで、ジュネーブ・ショーの時点で2010年の商品化が予告されていた。
個性的なフロントマスクを印象づけるヘッドライトは、大きく湾曲したグリルの下、ラリーカーのフォグランプをイメージしたデザインとなっている。一見ヘッドライトに見える上部のライトはデイタイムランニングライトだ。


カザーナのボディサイズは
全長×全幅×全高:4060mm×1780mm×1570mm
ホイールベース:2530mm
市販されたジューク(2010年)は
全長×全幅×全高:4135mm×1765mm×1565mm
ホイールベース:2530mm
日産Bプラットフォームを使った両車のホイールベースは同一だ。明らかにコンセプトだとわかる、全長4mほどのコンパクトクロスオーバーには大きな20インチタイヤを履き、観音開きのドアを採用したカザーナ。逆に言えば、タイヤサイズとドアの開閉方式を常識的なものに変えるだけで、一気に市販モデル、ジュークになるというわけだ。
ジュークのタイヤサイズは16インチホイール(205/60R16)だった。




リヤランプは、370Z(フェアレディZ)の「ブーメラン」リヤライトテーマのバリエーションを含む、それまでの日産デザイン要素を数多く取り入れている。
インテリアもカザーナは、ジュークの予告編としての役割を十二分に果たした。バイクの燃料タンクとシートから着想を得たセンターコンソールとアームレストの形状は、ジュークにも引き継がれた。






NDEのプロジェクトリードデザイナー、マット・ウィーバー氏によれば、カザーナは洗練されながらも楽しさを追求したデザインだという。
「非常に楽観的な車であり、この困難な時代において悪いことではない。1960年代に誕生していたなら、キャンピングカーやバイク、バギーをライバルと見なしていただろう。その精神を受け継ぎつつ、現代においてこれに匹敵するものは存在しない」

カザーナが予告したジュークの登場は、日欧のマーケットで歓声をもって受け入れられた。初代ジュークは2010年から19年まで生産された。ところが、日本市場には2代目モデルは登場せず、キックスが後継車種と位置づけられた。欧州市場では2代目ジュークが2019年にデビューし、現在も販売されている。




日産は、ジュークもキューブもマーチもティアナもシルフィもフーガもシーマも、国内向けのラインアップから消えてしまった。いまこそ、カザーナ/初代ジュークのような鮮烈で魅力的なモデルが必要なのではないか。
