「移動診療車」「ライブ配信拠点」「自走する非常用電源」などマルチに活躍

昨2025年9月15日から販売開始されたe-Paletteは、それを手がけるトヨタによれば、“モビリティ社会の実現に向けて、マルチな使い方を通じ新たな移動体験を提供”する、次世代モビリティなのだという。

この原稿を書いている2026年2月現在、実際に納車されたe-Paletteは累計20台弱。納入先は基本的に交通会社。実際、われわれの目に触れているe-Paletteの活用例も、今のところは、ウーブン・シティがある三島市内での定期運行や、東京・台場や神奈川・横浜での公園・施設内の移動サービス(パレットライド)くらい。早い話が、すべてバス事業である。

写真は横浜・山下ふ頭にある美術館「ザ・ムービアム ヨコハマ」で運行されているe-Paletteの様子。バス待合所から建物まで、徒歩だと20分かかるルートを往復している。

しかし、冒頭のキャッチフレーズにもあるように、トヨタはe-Paletteをただの電気自動車(BEV)のバスとしてつくったわけではない。箱型BEVならではの低床かつ広い室内空間、総電力量72.82kWhのリチウムイオン電池の蓄電能力、そして最新のコネクト機能を最大限にいかした多種多様なモビリティ=移動サービスに使われることが、トヨタがe-Paletteで期待する世界線らしい。

実際、トヨタはすでに、e-Paletteを使った様々なサービスを他社との協業で仕込んでいる。今回トヨタが催した取材会では、そんなe-Paletteの活用例がいくつか紹介された。

メディア取材会では、多彩な用途に向けて仕様を整えたe-Paletteが多数用意されていた。

最初の活用例は、災害時などでの電源車で、これはシンプルで分かりやすい。e-Paletteが搭載するリチウムイオン電池の総電力量は、4人家族の一般家庭なら約7日分の消費電力に相当する。そんなe-Paletteなら「平時はコミュニティバスやイベント用の店舗カーなどで使いつつ、災害時にはいち早く避難所にかけつけられる自走電源車」として使えるわけで、トヨタも自治体などに訴求したいようだ。

災害発生時、e-Paletteは「移動できる非常用電源」として避難所等のインフラを支える役割を担う。1台で一般家庭約7日分の電力を供給可能だ。
車両の急速充電口に、市販のV2H(Vehicle to Home/Load)変換器を接続し、コンセントから電力を供給する。また、車内の広い空間に避難用テントや家電製品を積み込み、そのまま避難所を形成・支援することもできる。

クルマであるがゆえの自走機能、BEVならではのエネルギー蓄電機能に加えて、2865×1780×2135mmという広大な車内空間、左右1280mm×上下1900mmという大開口のスライドドア、油圧による昇降機能……などを持つe-Paletteで、アイデアが広がりそうなのが、いわゆる“移動○○”と呼ばれるようなサービスだ。今回の取材会にも、移動診療車、移動パン屋さん、移動アパレルショップ……などの活用例が紹介されていたが、そうした実例を目にすると、こうしたサービスとe-Paletteとの親和性の高さにあらためて感心する。

簡易ベッドを設置した移動診療車は、看護師が運転して現地におもむき、医師がリモートで診察することを想定する。聞けば、BEVは低振動なので精密な医療機器への負荷も少なく、大容量リチウムイオン電池により電力供給にも不安がないとか。なるほど。

病院への通院が困難な高齢者や妊婦、過疎地の住民に対し、看護師と医療機器を載せた車両が直接赴く移動診療を想定したe-Palette。実際の活用シーンのデモが行われた。

また、今回いくつか持ち込まれた移動店舗例は、見ているだけで妄想が広がって楽しい。最近はキッチンカービジネスも盛んというが、見上げるほどの車内空間と広い間口、遠くからでも目立つボディスタイル、充実した給電能力……と、e-Paletteのキッチンカーとしての適性はいかにも高そうだ。ただ、実際にキッチンカーとして営業するなら、スタッフみずからが運転することになるわけで、できれば普通免許で乗れるようになってほしいと思った(現在は8t限定ではない中型免許が必要)。

e-Paletteは単なる移動手段にとどまらず、移動型店舗として活用することを想定。昨年秋より、お台場エリアにおいて「パレットマルシェ」と称した移動型店舗の実証実験が継続されている。具体的には、エリアの特性やイベントによる人流の変化を分析し、最適な場所と時間を選んで出店。例えばトヨタアリーナ東京でバスケットボールの試合がある日には、1万人規模の観客が集まる時間帯や場所のデータを蓄積・活用し、公式グッズの販売場所や商品ラインナップを検討する試みを行なっている。

トヨタがスポンサーとなっているプロバスケットチーム“アルバルク東京”のロゴが光るe-Paletteは、“推し活”サービスを想定した活用例だ。アルバルク東京では昨年、試合後に車内で選手とリモートで交流しながら東京駅まで送るサービスを実施して、大人気を得たとか。そのときに使われた車両はハイエースだったが、さらに静かで広く、コネクト性能も高いe-Paletteなら、このように50インチの大モニターや高性能サウンドシステムを搭載して、より臨場感を高められるという。

「コミュニケーションパレット」と名付けられた、移動体験サービスの提案。移動中の車内と遠隔地を高画質な映像と低遅延の音声で繋ぎ、双方向の交流を可能にするパッケージ型モビリティサービスで、今回はプロバスケットボールチーム「アルバルク東京」の試合後の選手とファンがリアルタイムに会話を楽しむサービスのデモが行われた。

こうしていろいろな業種にe-Paletteを使ってもらうには、ニーズに即した架装が必要だが、それを購入前に確認・検討できるVR技術によるシミュレーターも用意する予定で、それも今回紹介されていた。

e-Paletteの活用提案を支援するMR(複合現実)シミュレーターのデモ風景。VRゴーグルを被ると…
眼の前にはCGのe-Paletteが現れる。実際の風景と合成されて表示され、かなりリアリティが感じられる。
実車と同サイズのグラフィックで表示されるため、什器の種類や配置の場所などを変更した際、そのイメージが掴みやすい。また、複数人が同時にVRゴーグルを用いて同じe-Paletteを前にしながら検討することも可能なのがメリット。

冒頭のように、現在は運転席を備えて、最新ではあるがあくまで一般的なレベル2相当の運転支援システムにとどまるが、将来的には、ドライバーを乗せずに遠隔で集中管理するレベル4相当の自動運転を、e-Paletteは想定している。

自動運転については、トヨタ自身も研究開発しているはずだが、と同時に、地域や車種に応じて、適材適所の他社との協業も進めるのが今のトヨタの特徴である。実際、e-Paletteには開発会社の異なる自動運転システムを標準化された接続形式で搭載できるように“車両制御インターフェース”が組み込まれている。

今回の取材会に持ち込まれた、ティアフォー社によるe-Palette用の自動運転システムも一例ということである。同社担当者によると、2027年度にはレベル4に準拠した自動運転システムの市場導入を目指しているという。

e-Paletteはレベル2相当の自動運転に対応しているが、2027年度にはレベル4を目指して開発中。その実現により、ドライバー不足への対応、ヒューマンエラーによる事故の減少、信号機連携などによる渋滞の緩和とそれに伴う環境負荷の低減といった効果を見込んでいる。車体にはカメラ、LiDAR(ライダー)、レーダーが装着され、事前に作成した「3D地図」によるルート認識と、センサーによる周辺情報のリアルタイム認識を照合することにより、自車位置の特定および障害物を認識する。

……と、なんとも取り留めのない内容になってしまったが、実際、今回の取材会は、e-Paletteで「こんなことをやろうとしてる」、「あんなことができるかも」、あるいは「そんなことを考えることも可能」といった雑多なアイデアがそこかしこに散らばっていた。ただ、これらはあくまで、現時点でトヨタが考えている e-Paletteの活用例にすぎない。このクルマが本当に成功して、新しい世界が開かれるには、思いもしないアイデアでe-Paletteを活用する企業や人が出てくる必要があるだろう。いずれにしても、ちょっと楽しみである。