連載

特集「天才タマゴ」TCRエスティマをいま再解釈する

第3の道を選んだ“天才タマゴ”

1990年に誕生した初代トヨタ・エスティマ。北米でミニバンブームを巻き起こしたダッジ・キャラバンに対抗する形で開発が進められたが、トヨタはFFベースでもワンボックスでもない“第3の道”を選ぶ。本来は2ストロークエンジン搭載を見据えた先進構想だったが、市販化にあたっては2.4L直4を75度傾けて搭載するという離れ業で実現した。スーパーカーのようなミッドシップを、3列シートのミニバンでやってのける。その発想こそが“天才タマゴ”と呼ばれた所以だ。そしてTCRエスティマ(以下、TCR)といえば、丸みを帯びたモノフォルム。コラムシフトによるウォークスルー。明るく広い室内空間。135psのNAに加え、1994年に追加された160psのスーパーチャージャー仕様の存在も忘れられない。新車販売当時は、爆発的ヒットとはならなかったが、約10年にわたり愛され続けたロングセラーであり、その革新性はいま振り返っても色褪せない。

丸みを帯び、近未来感漂うワンモーションフォルムから「天才タマゴ」と謳われた初代エスティマ。
専用エンジンをフロア下へ搭載したミッドシップレイアウトを採用したのも、当時は革新的だった。
2列目キャプテンシートの7人乗りの他、1993年には8人乗りの新グレードも登場した。
エスティマの弟分として誕生したのが、5ナンバーサイズに縮小された、トヨタ・エスティマ ルシーダ/エミーナ。カスタムシーンにおいても注目を集めた存在だ。

TCRとカスタム――あの頃の熱量

そんなTCRは、大きなマイナーチェンジを2度受け、前期・中期・後期へと進化した。カスタムシーンで人気を博したのは後期型で、ヘッドライトやテールランプの意匠が洗練化され、より近未来的な表情へとアップデートされた。前期・中期を安価な中古車で手に入れ、後期ライトへ移植するのは定番メニュー。あの頃、夜な夜なヤフオクをチェックした人も多いはずだ。そして足回りも語らずにはいられない。TCRにはリジッドと4輪独立懸架の2種類が存在した。カスタム派の“常識”は圧倒的に4独。ローダウンすると自然にキャンバーが付き、フェンダー内へと吸い込まれるホイール。あの絶妙な寝かせ具合が、TCRのシルエットを何倍も艶っぽく見せた。

「TCRに乗るなら絶対4独」そう言われた時代だった。さらに本気で落とすなら2WD一択。4WDは構造上どうしても車高が下がり切らない。後期+4独+2WD――それが通の選び方だった。

大径メッシュ、深リム、ユーロテイスト、当時流行したエアロブランドのフルキット。TCRはどんな方向性も受け止める懐の深さがあり、今見ても、あの低く構えたワンモーションフォルムはエモーショナルだ。30年以上前のクルマとは思えない未来感。丸いのに鋭い。柔らかいのに攻めている。そのアンバランスさが、たまらなくカッコいい。

30年以上前のクルマとは思えない未来感あるスタイルが多くのカスタムファンを虜にした。写真は2010年頃。ドレナビでは、スタイルワゴンやスタイルワゴンクラブの誌面を飾ったTCRエスエィマを今後改めて紹介していく予定だ。
カスタムシーンで人気だったのが前期・中期ベースの車両へ、後期純正ヘッドライトやテールランプの移植技。レンズ本体のクリア感がまし、未来的な印象へアップデートできた。
こちらが後期純正のテールランプ。冒頭で紹介しているデビュー当初のテールレンズとは印象がまるで違い、引き締まった感をアピールできる。

専用のカスタムパーツが消えた今こそ、面白い

2000年~2010年頃まではエアロも足回りも選び放題だった。だが現在、多くは廃盤。新品で揃えるのは難しい。それでも乗り続ける人がいる。当時モノのパーツをネットで探し、補修し、再塗装し、リメイクする。ワンオフでバンパーを作る。あるいはあえて最新ホイールを履かせ、ネオクラシックな雰囲気に仕上げる。古いボディに最新の足元。これが驚くほど似合う。TCRは「当時仕様」に縛られなくてもいい。いまの感性で再解釈しても成立するデザインを持っている。だからこそ、令和の今もカスタムベースとして魅力的なのだ。

中古市場のいま

2026年現在、中古市場におけるTCRエスティマの流通台数は多くはない。全国で数十台規模。価格帯はおおよそ30万~120万円前後(編集部調べ)

・走行距離10万~20万km超が中心
・修復歴あり個体も一定数
・後期4独2WDは希少で価格はやや高め
・ノーマル維持車は少なく、何らかのカスタム歴ありが多数

状態の良い後期・4独・2WDは今後さらに減っていく可能性が高い。一方で、ベース車として考えれば前期や中期でも十分に面白い。価格がこなれている今だからこそ、思い切ったリメイクも現実的だ。エンジンや足まわりのリフレッシュは前提になるが、構造がシンプルな分、手を入れる楽しさは大きい。部品探しも含めて“遊び”になるはずだ。

いま、あえてTCRを選ぶという贅沢

もし新型エスティマが本当にEVとして復活したら。静かで上質で、未来的な一台になるだろう。でも、あのミッドシップの鼓動。ローダウンしたときのあの腰の落ち方。深リムが収まった瞬間の高揚感。それはTCRにしかない。中古で手に入れ、自分の理想に仕立て直す。最新のホイールを合わせてもいいし、当時仕様を極めてもいい。仲間と集まり、昔話に花を咲かせながら、また少し車高を詰める。きっと楽しいはずだ。

30年以上前の“天才タマゴ”は、いまもちゃんと輝ける素材だ。だからこそ、いま買ってカスタムするという選択は、最高に贅沢で、最高にエモーショナルな遊びなのかもしれない。そんなTCRはどんなカスタムで楽しまれてきたのか? デビュー当時の1990年代から現代まで、TCRを愛してやまないユーザーたちの愛車を時代を遡ってみてみようと思う。

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