第3の道を選んだ“天才タマゴ”
1990年に誕生した初代トヨタ・エスティマ。北米でミニバンブームを巻き起こしたダッジ・キャラバンに対抗する形で開発が進められたが、トヨタはFFベースでもワンボックスでもない“第3の道”を選ぶ。本来は2ストロークエンジン搭載を見据えた先進構想だったが、市販化にあたっては2.4L直4を75度傾けて搭載するという離れ業で実現した。スーパーカーのようなミッドシップを、3列シートのミニバンでやってのける。その発想こそが“天才タマゴ”と呼ばれた所以だ。そしてTCRエスティマ(以下、TCR)といえば、丸みを帯びたモノフォルム。コラムシフトによるウォークスルー。明るく広い室内空間。135psのNAに加え、1994年に追加された160psのスーパーチャージャー仕様の存在も忘れられない。新車販売当時は、爆発的ヒットとはならなかったが、約10年にわたり愛され続けたロングセラーであり、その革新性はいま振り返っても色褪せない。




TCRとカスタム――あの頃の熱量
そんなTCRは、大きなマイナーチェンジを2度受け、前期・中期・後期へと進化した。カスタムシーンで人気を博したのは後期型で、ヘッドライトやテールランプの意匠が洗練化され、より近未来的な表情へとアップデートされた。前期・中期を安価な中古車で手に入れ、後期ライトへ移植するのは定番メニュー。あの頃、夜な夜なヤフオクをチェックした人も多いはずだ。そして足回りも語らずにはいられない。TCRにはリジッドと4輪独立懸架の2種類が存在した。カスタム派の“常識”は圧倒的に4独。ローダウンすると自然にキャンバーが付き、フェンダー内へと吸い込まれるホイール。あの絶妙な寝かせ具合が、TCRのシルエットを何倍も艶っぽく見せた。
「TCRに乗るなら絶対4独」そう言われた時代だった。さらに本気で落とすなら2WD一択。4WDは構造上どうしても車高が下がり切らない。後期+4独+2WD――それが通の選び方だった。
大径メッシュ、深リム、ユーロテイスト、当時流行したエアロブランドのフルキット。TCRはどんな方向性も受け止める懐の深さがあり、今見ても、あの低く構えたワンモーションフォルムはエモーショナルだ。30年以上前のクルマとは思えない未来感。丸いのに鋭い。柔らかいのに攻めている。そのアンバランスさが、たまらなくカッコいい。



専用のカスタムパーツが消えた今こそ、面白い
2000年~2010年頃まではエアロも足回りも選び放題だった。だが現在、多くは廃盤。新品で揃えるのは難しい。それでも乗り続ける人がいる。当時モノのパーツをネットで探し、補修し、再塗装し、リメイクする。ワンオフでバンパーを作る。あるいはあえて最新ホイールを履かせ、ネオクラシックな雰囲気に仕上げる。古いボディに最新の足元。これが驚くほど似合う。TCRは「当時仕様」に縛られなくてもいい。いまの感性で再解釈しても成立するデザインを持っている。だからこそ、令和の今もカスタムベースとして魅力的なのだ。
中古市場のいま
2026年現在、中古市場におけるTCRエスティマの流通台数は多くはない。全国で数十台規模。価格帯はおおよそ30万~120万円前後(編集部調べ)
・走行距離10万~20万km超が中心
・修復歴あり個体も一定数
・後期4独2WDは希少で価格はやや高め
・ノーマル維持車は少なく、何らかのカスタム歴ありが多数
状態の良い後期・4独・2WDは今後さらに減っていく可能性が高い。一方で、ベース車として考えれば前期や中期でも十分に面白い。価格がこなれている今だからこそ、思い切ったリメイクも現実的だ。エンジンや足まわりのリフレッシュは前提になるが、構造がシンプルな分、手を入れる楽しさは大きい。部品探しも含めて“遊び”になるはずだ。
いま、あえてTCRを選ぶという贅沢
もし新型エスティマが本当にEVとして復活したら。静かで上質で、未来的な一台になるだろう。でも、あのミッドシップの鼓動。ローダウンしたときのあの腰の落ち方。深リムが収まった瞬間の高揚感。それはTCRにしかない。中古で手に入れ、自分の理想に仕立て直す。最新のホイールを合わせてもいいし、当時仕様を極めてもいい。仲間と集まり、昔話に花を咲かせながら、また少し車高を詰める。きっと楽しいはずだ。
30年以上前の“天才タマゴ”は、いまもちゃんと輝ける素材だ。だからこそ、いま買ってカスタムするという選択は、最高に贅沢で、最高にエモーショナルな遊びなのかもしれない。そんなTCRはどんなカスタムで楽しまれてきたのか? デビュー当時の1990年代から現代まで、TCRを愛してやまないユーザーたちの愛車を時代を遡ってみてみようと思う。




