群馬で生産される量産・電気自動車に先行試乗



スバルの電気自動車といえば「ソルテラ」という名前を思い浮かべるだろうが、ご存知のようにソルテラはトヨタbZ4Xの兄弟モデルとして共同開発したモデルであり、スバルの工場で作られてはいない。トヨタがソルテラの生産も行っている。
そして、ここで紹介するスバルの新しい電気自動車「トレイルシーカー」も、ソルテラ/bZ4Xと同じBEVアーキテクチャーに則ったモデルである。通常の感覚であれば、すでに生産設備を整えているトヨタが生産を担いそうなものだが、そうではない。
トレイルシーカーは群馬県に点在するスバルの工場でバッテリーパックや車体の組み立てが行われている。ある意味、スバルが生産する初めての量産・電気自動車といえる記念すべきモデルなのだ。部品についてもeアクスルやバッテリーセルといった電気自動車の主要パーツはトヨタ側から供給を受けるが、モノコックボディやシート、インパネなどの大物パーツはスバル側で用意している。部品点数ベースでいうと、約7割がトヨタから供給され、残りの3割はスバルが地場から調達しているということだ。
文字通り、スバルが作る電気自動車「トレイルシーカー」。それがどんなクルマなのか気になるのは筆者だけではないだろう。今回、ほぼ量産状態といえるプロトタイプに触れる機会を得たので、速報的にお伝えしよう。


駆動で曲がっていく感覚が楽しめる、攻められる電気自動車
あらためてトレイルシーカーのプロフィールを整理しよう。
前述したように、BEVとしての基本アーキテクチャーはソルテラと共有している。エントリーグレードが「ET-SS」でFWDとAWDを設定、上級グレード「ETーHS」はAWDだけの設定となるのもソルテラと共通だ。さらにいえば、最高出力167kWのフロントモーターや、総電力量74.7kWhのリチウムイオンバッテリーといったスペックも共通となっているし、じつはヘッドランプも同じパーツだ。
走りの面では、後輪を駆動するモーターを最高出力167kW(ソルテラのAWDは88kW)へ高めていること。これにより、前後で同じだけの駆動力を発生させることができる上、AWDのシステム最高出力は280kW(ソルテラは252kW)まで高めている。
結果として、0-100km/h加速性能は4.5秒となった。これはソルテラの4.9秒を上回るだけでなく、ボクサーターボを積むWRX STIの5.0秒も大きく引き離す。ドライ路面での加速競争でいえば「スバル史上最速」といえるのがトレイルシーカーなのだ。

「0-100km/h加速に優れるだけの直線番長的な速さなのでは?」と思うかもしれないが、今回雪道で初試乗した印象は、スバルAWDに期待するハンドリング性能を持っているといえるものだった。
そのポイントは、後輪駆動力が増していることと、そのメリットを活かすセッティングにある。
専門用語を使って記せば、タイヤの荷重によって変化する摩擦円に応じた駆動力を、加速時のみならず減速時にも回生ブレーキの強弱によって制御する機能が与えられている。
感覚的に言い直すと、ソルテラでは7:3だった前後駆動配分が、トレイルシーカーでは6:4になっているくらいの違いがある。加減速における後輪の役割が増えており、すなわち後輪の駆動力によって姿勢コントロールする余裕が増している。
そうした味付けは、スリッピーな雪道だからこそ実感できた。アクセルを多めに踏み込んだときに、すぐさまトラクションコントロールのような機能が働くのではなく、スピンモードに入らない範囲で、アグレッシブなドライビングを許容する余地が残っている。
それは、筆者のようなアマチュアドライバーが安心して楽しめるといったレベルにとどまらない。
今回のメディア向け試乗会には、モータースポーツファンにはお馴染みの新井敏弘選手が先導車両のドライバーとして参加していた。プロダクションカー世界ラリー選手権で2度のチャンピオンに輝いた実績を持つ新井選手に、同乗の機会を求めると快諾いただき、その助手席でトレイルシーカーの走りを堪能するという貴重な機会を得ることができた。
新井選手の走りは、スピード域としてはスリリングに思えるものだったが、けっして不安定には感じない。はた目にもプロフェッショナルドライバーがストレスを感じないコントロールを許容する仕上がりになっていることが感じられた。実際、新井選手からは『運転が楽しいし、ターボ車より速い印象』という感想を聞くことができた。
電動化時代にもWRX STIで培ってきたスバルのDNAは、しっかり継承されているといえそうだ。

ソルテラから全長155mm延長、ラゲッジ容量40%増、車重は20kg増

スタイリングにおいて、ソルテラとトレイルシーカーで大きく異なるのはフロントマスクのデザインと、後席から後ろのボディ。具体的にはリアオーバーハングを155mm伸ばすことでラゲッジを広げ、SUVとしての積載能力を高めている。
トレイルシーカーの荷室容量は633L。ソルテラが452Lだから、約40%も広くなっている。かつてのフラッグシップモデル「レガシィアウトバック」が561Lだったから、ラゲッジ性能についてもスバル史上最高レベルにある。
スバル史上最高レベルで速くて、広い…それがトレイルシーカーと理解することもできる。


というわけで、トレイルシーカーというのはソルテラのリアオーバーハングを延長して、フロントマスクをイメージチェンジしたクルマともいえるのだが、ボディ延長のメリットは荷室の拡大だけではない。
リアシートに座ったときも違いを感じることができる。
エンジニア氏に聞くと、後席についてはシートにしてもフロアパネルにしても、ソルテラとトレイルシーカーで同じ設計となっているそうだが、実際に座ってみるとトレイルシーカーは広く、余裕があると感じた。ルーフの形状が若干異なっている点や、ラゲッジスペースが拡大に伴い、開放感が増していることがプラスに影響しているのかもしれない。



後席の印象が予想以上に異なることはトレイルシーカーの美点であり、大人4人で乗る機会の多いユーザーにとって積極的に選ぶ理由となりそうだ。
ちなみに、ホイールベースはソルテラと共通スペックで、最小回転半径も同じ。ボディの延長は、取り回し性能をスポイルしていない。
また、車両重量についてもソルテラの同等グレード比で20kg程度しか重くなっていないという。テールゲートのデザインやリアモーター周りの処理に工夫することで空力性能を高めていることもポジティブ要因となり、満充電での航続可能距離についてもソルテラから誤差レベルで短くなっているのみ。
トレイルシーカーの一充電走行距離の開発目標スペックを紹介すると、18インチタイヤのFWDで734km、18インチタイヤのAWDで690km、20インチタイヤのAWDが627kmとなっている。たっぷりと荷物を積んで、週末のレジャーに出かける余裕をもったSUVの電気自動車に仕上がっている。


一般的にいって、電気自動車のランニングコストは、エンジン車のそれとは比較にならないほど優れている。トレイルシーカーの目標スペックから、電気代を33円/kWh、ガソリン代を150円/Lとして試算すると、なんとエンジン車でいえば40km/Lに相当するコストで走ることができるというから嬉しい。
史上最高レベルで速くて広いうえに、ハイブリッドカーよりもランニングコストを抑えられるスバル車、それがトレイルシーカーなのである。


トレイルシーカー・プロトタイプ開発目標諸元

トレイルシーカーET-HS(プロトタイプ)目標スペック
全長×全幅×全高:4845mm×1860mm×1675mm
ホイールベース:2850mm
最低地上高:210mm
車重:2050kg
駆動方式:AWD
乗車定員:5名
バッテリー種類:リチウムイオン
バッテリー総電力量:74.7kWh
システム最高出力:280kW
フロントモーター最高出力:167kW
フロントモーター最大トルク:268Nm
リアモーター最高出力:167kW
リアモーター最大トルク:268Nm
一充電走行距離(WLTCモード):627km
サスペンション形式:フロント・ストラット/リヤ・ウィッシュボーン
最小回転半径:5.6m
タイヤサイズ:235/50R20
トレイルシーカーET-SS(プロトタイプ)目標スペック
全長×全幅×全高:4845mm×1860mm×1675mm
ホイールベース:2850mm
最低地上高:210mm
車重:1900kg
駆動方式:FWD
乗車定員:5名
バッテリー種類:リチウムイオン
バッテリー総電力量:74.7kWh
システム最高出力:165kW
フロントモーター最高出力:167kW
フロントモーター最大トルク:268Nm
一充電走行距離(WLTCモード):734km
サスペンション形式:フロント・ストラット/リヤ・ウィッシュボーン
最小回転半径:5.6m
タイヤサイズ:235/60R18

