電動アシスト自転車の新ジャンルを開拓するクロスコアRV
ヤマハの電動アシスト自転車YPJシリーズに、新たな選択肢が加わった。日本専用モデルとして発表された「クロスコアRV」は、オンロードとオフロードの垣根を取り払い、”日常から気軽な冒険まで”を一台でこなすことを狙った意欲作である。

そもそも電動アシスト自転車は1993年にヤマハが発売した「PAS」が世界初の乗り物であり、YPJシリーズは「移動を楽にする」に「移動を楽しむ」を加えたスポーツ志向のシリーズラインだ。2015年の初代YPJ-R以来、eMTBのYPJ-XCやYPJ-MT Pro、グラベルロードのYPJ-Wabash RT、コネクテッド機能を備えたクロスコアシリーズなど、単なる移動手段にとどまらない“体験型モビリティ”として展開されてきた。2025年にシリーズ10周年を迎えた節目で投入されたのが、このクロスコアRVである。

開発の背景にあったのはユーザーの使い方の変化と本音だ。本来オフロード志向のモデルであっても、実際の利用シーンは街乗りが中心であり、スタンドを後付けするなど日常用途への適応が求められていた。また、惜しまれつつ生産終了となったYPJ-XCの後継的ポジションを望む声も多かったという。そこでヤマハは、SUV的な発想、すなわち舗装路から未舗装路までフィールドを選ばない万能性を電動アシスト自転車で実現することを目指した。


コンセプトは「365日、もっと自分の人生を楽しむ」。通勤時間すら楽しみに変えたい、休日にはそのまま自然の中へ踏み出したいという層を主なターゲットとする。単なるレジャー用ではなく、日常生活から繋がる冒険を支える存在として位置づけられている。
車体構成はクロスコアRCのオンロード性能をベースにしつつ、オフロード対応コンポーネントを組み合わせたものだ。ドライブユニットには小型軽量でパワフルなPWシリーズS2を搭載し、リヤのギヤには10-51Tというワイドレシオを採用。急勾配でも余裕を持って走破できる。ブレーキはフラッグシップMT Proと同系統のマグラ製を採用し、高い制動力とコントロール性を確保した。さらにハンドルのレバー操作でサドルの上下調整が可能なドロッパーシートポストを標準装備し、路面状況に応じたポジション変更を容易にしている。










興味深いのは、本格的なオフロード装備を持ちながらスタンドを標準装備した点である。街中での使い勝手を犠牲にしないという思想が明確に表れている。フェンダーやキャリアなどのアクセサリーも用意され、デイキャンプやツーリングなど用途の拡張性も高い。

「YAMAHA」の大きなロゴが自信を見せているようなデザインのフレーム設計にも、バイクメーカーであるヤマハらしい工夫がある。一見するとオーソドックスなダイヤモンドフレームだが、ダウンチューブ内部は左右に分かれたツインチューブ構造となっており、バッテリーを挟み込む形で高い剛性z軽量化を両立している。モーターサイクルのフレーム設計思想を応用したもので、電動アシスト自転車としてはユニークなアプローチだ。



スタイリング面では“いかにもeMTB”というスポーティ一辺倒から一歩踏み出し、日常の服装にもなじむレトロモダンなカラーリングを採用した。ブラックを基調にベージュのサドルやグリップ、タイヤウォールを組み合わせることで、アウトドアから街乗りまで違和感のない外観としている。高性能モデルでありながら過度な主張を避けたデザインは、まさに日常と非日常の橋渡し役といえる。
ちなみに、このレトロ調なデザインは、日本マーケット専用モデルとしたおかげで実現できたという。欧米では、こういった新製品でレトロを愛でる文化が育っていないようで、日本がトレンドの最先端を行っているのかもしれない。

しかし、使い込んだ色合いのゴムや樹脂の採用はヤマハとしても初めてで、耐久性、耐候性などで厳しい「ヤマハ基準」をクリアするため試行錯誤したという。
YPJシリーズの中での位置づけとしては、街乗り重視のクロスコアRCと本格eMTBのMT Proの中間に位置し、かつてYPJ-XCが担っていたエントリーオフロード領域もカバーする存在となる。言い換えれば、シリーズの空白を埋める“万能型”である。
「まるでアシストしていないみたい…」がヤマハの電動アシスト制御
実際に、アスファルトロードのほか、芝生の地面、そのアップダウンある坂道などで試乗したが、感想が残らないほど自然なアシスト制御には驚いた。
発進時から、グイッとくるようなパワーが伝わることはなく、あくまで自然なアシストがヤマハ電動アシスト自転車の特徴だ。難しく言えば、足から発生させたクランクを回すトルクの増減に対し、寸分の違いも違和感もなくサポートしてくれる。目に見えない「後ろの人」が、いつでも自然に自転車を実に上手に押してくれているようだ。

特に、未舗装路の上り坂では、電動アシスト無しでは立って漕いでも登れないくらいだが、そこを緩い坂のように登ってくれるのには感心した。この坂道が無いかのように感じさせるのではなく、坂道なのにまるで坂が緩いように感じさせるところがまさにヤマハらしい電動アシストの制御だろう。
これを実現させているのが、クランク部分に設置されたあの小さなPWシリーズS2かと思うと恐れ入る。しかも、バッテリーもフレームに隠れており、ぱっと見には普通のMTBかと思うほどで、さらに感心が深まる。

一般的な電動アシスト自転車が、パワーユニットの汎用性を高めコストを抑えるため、チェーンをアシストするのに対し、クロスコア含めYPJシリーズではクランク軸をアシストする。コストアップには繋がってしまうものの、走りの自然さや良さのため、そこは譲れない選択となっているのだ。
ヤマハが発明し普及させた電動アシスト自転車は、今や日常の足、移動手段としてすっかり定着したが、ヤマハは次のステップとしてクロスコアRVによってその枠を超え、日々の移動そのものを遊びに変えることを目指し始めたそのためのモデルである。通勤路の寄り道が小さな冒険に変わり、週末にはそのまま林道へ踏み込める。道路のオンとオフを、また日常のオンとオフをシームレスにつなぐこの一台は、ヤマハがまた発明した新たな乗り物と言えるだろう。

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