国産メーカーとしては唯一、世界でも稀なエンジンの系譜
4気筒を知らずして、6気筒は語れない

2026年はスバルにとってメモリアルイヤーと言っていい。なぜなら、量産車に水平対向エンジンを搭載してから、ちょうど60年を迎えるからだ。それもあって本題の6気筒に入る前に、ベースとなった4気筒の流れにぜひ触れておきたい。その第一弾が1966年登場のスバル1000。エンジンは排気量1.0L(ボア×ストローク:72φ×60mm)のEA52だった。
以降、EA52の高圧縮化&ツインキャブ仕様となるEA53、ff-1スポーツセダンに搭載された1.1L(同76φ×60mm)のEA61/61S、1970年代に入るとボアアップで排気量を1.3L(同82φ×60mm)に拡大したEA62/62Sが登場。
さらに、1.4L(同85φ×60mm)のEA63/63Sと1.2L(同79φ×60mm)のEA64が初代レオーネの主力エンジンに据えられ、二代目レオーネには1.3L(同83φ×60mm)のEA65が開発された。
初のビッグマイナーを経て近代化が図られた
転機が訪れたのは1976年。大幅なボア径拡大による排気量アップを実現するため、ボアピッチを見直したクランクケース(シリンダーブロック)が新たに設計された。そうして誕生したのがEA71だった。ボア径は、それまで最大だったEA63/63Sを7mmも上回る92φ。ストローク量は相変わらず60mmのままとされていたが、排気量は1.6Lに達した。
また、それをベースにストロークを67mmまで延長したのが1.8LのEA81/81Sで、MPI(電子燃料噴射)採用のターボ仕様も設定された。ちなみに、ここまでのエンジンのカム駆動方式は全てOHVだ。
そんなEA系エンジンの最終進化形が1984年に登場したEA82。腰下はEA81と変わらないが、遂にSOHC化されたのが最大のトピックだった。
ちょっと話が長くなり過ぎたスバル水平対向4気筒の歴史。内容的には非常にざっくりしたものだけど、その流れを踏まえた上で、本題となる6気筒の話に進んでいこう。
バブル景気に向かう日本で遂に水平対向6気筒が

1987年に登場したスバル初の水平対向6気筒ER27。設計的にはEA82に2気筒を加えたエンジンだった。気筒数が1.5倍ということは当然、排気量も1.8L(1781cc)×1.5=2.7L(2672cc)となる。

エンジン型式こそ『ER』に改められたが、その生い立ちと踏襲されたメカニズムを知れば、それは20年以上生産され続けてきた『EA』系エンジンの集大成以外の何物でもなかった。スバルにとっては“レガシィ前夜”の意欲作だったが、直線基調の独創的なスタイリングが良くも悪くも話題となった2ドアスペシャリティクーペのアルシオーネに搭載され、スペック的にも150ps&21.5kgmと平凡だったことで評価がいま一つだったER27。
それでも、スバル初であると同時に日本初であり、さらに言えば、水冷エンジンとしては世界初となる水平対向6気筒(当時のポルシェはまだ空冷。水冷化は1997年)だったことも揺るぎない事実。スバルの歴史に大きな足跡を残したエンジンであることは間違いない。
新世代のパワーユニットはアルシオーネSVXと共に

その後、1991年にER27と入れ替わるように出てきた水平対向6気筒がアルシオーネSVXに搭載されたEG33だ。当時、すでにスバルの主力エンジンとなっていたEJ系(EJ22)をベースに2気筒を追加したものだった。その設計手法はEAベースで誕生したER27に倣ったものと言っていい。
ボア×ストロークは96.9φ×75.0mmで排気量3.3L。ヘッドには4バルブDOHCが与えられ、2バルブSOHCだったER27から大幅な進化を遂げ、カタログスペックも240ps&31.5kgmを誇った。

『500 miles a day』、直訳すると「一日に500マイル=800km(走る)」をキャッチフレーズとしたアルシオーネSVXはアルシオーネと同じく2ドアスペシャリティクーペとして誕生し、新開発された不等&可変トルクスプリット(VTD)4WDや4WSも搭載。今でも、ユーノスコスモと双璧を成す“バブル期を代表する2ドアスペシャリティ”として語られ、ラグジュアリーなGTカーとしての性格を強く前面に押し出していた。そのため、組み合わされたミッションはアルシオーネ同様、4速ATのみだった。
新たな設計思想に基づき、4気筒派生モデルから脱却

そんなEG33に続いたのがEZ30。BE/BH系レガシィに搭載され、2000年に登場した。それまでのER27やEG33と決定的に違うのは、“4気筒ベースで2気筒プラス”なのではなく、初めから6気筒として専用設計された点にある。
それまでの水平対向エンジンはエンジン幅を抑えるためにショートストローク設計が基本だった。が、6気筒は4気筒に対して2気筒が加わる分、必然的にエンジンが前後方向に長くなる。それは、ミッションとフロントデフの位置を大幅に変えられないパッケージングを考えると、フロントオーバーハングの重量増に直結する。運動性能やハンドリング特性においては不利な方向に働くわけだ。
そこでEZ30はエンジン全長のショート化を目的にボアピッチを見直し。EG33の113mmから98.4mmへと短縮した。ボア径89.2φ、ストローク量80.0mm。排気量は3.0Lとなる。


また、EZ30には改良モデルも用意された。2003年、BL/BH系レガシィに載せられた、俗にEZ30-Rと呼ばれるエンジンだ。EZ30からの変更点は、吸気側への連続可変バルタイ(AVCS)と可変バルブリフト機構の採用。これにより、最高出力は220psから250psに、最大トルクも29.5kgmから31.0kgmへと向上した。また、EZ30-RではATの5速化が図られ、待望の6速MTも設定。いまだにコアなファンから支持されるマニアな一台となった。
排気量2割アップを達成したEZシリーズの終着点

2007年、EZ30の排気量拡大版が登場した。それが、EZ30に対してボア径は2.8mmアップの92.0φ、ストローク量は11mm延長の91.0mmに設定し、ほぼスクエアストローク型とされたEZ36だ。これで排気量は3.6Lとなり、スペックも260ps&34.2kgmと、スバル歴代の水平対向6気筒の中で最も高い数値を実現した。

搭載モデルはBM/BR系レガシィと、欧米で販売されたB9トライベッカ。日本国内へはBRFレガシィアウトバックのみが2009年に導入された。
続くBS系レガシィにもEZ36は搭載されたが、海外仕様のアウトバックだけ。日本ではBRFレガシィアウトバックを最後に、2014年をもってEZ36搭載モデルが途絶えることになり、2019年に行なわれたレガシィシリーズのフルモデルチェンジを機に海外モデルを含め、EZ36は完全に姿を消した。ここに19年続いてきたEZ系エンジンは終焉を迎え、スバル水平対向6気筒の系譜にも終止符が打たれることになった。
スバルファンが色めき立つレース用エンジンでの復活
スバルの水平対向6気筒エンジンが、思わぬ形で再び表舞台に出ることになった。今年の東京オートサロン、スバルSTIブースに並んだ今シーズンのスーパーGTを戦うBRZ GT300マシン。これまで使われてきたEJ20は昨シーズンをもって現役を退くことがすでにアナウンスされていたが、それに代わるパワーユニットとして、なんとEG33を搭載することが正式に発表されたのだ。

これにスバルファンは歓喜しただろうが、一方で多くのクルマ好きが、「なんで今さら35年前に登場したEG33を!?」と思ったはず。ただ、内容を見てみるとボア、ストロークの全面的な見直しで排気量を3.0Lにスケールダウンし、ツインターボ化も図られるなど、アルシオーネSVXのEG33とはまるで設計が異なる。そこに共通点を見出すなら113mmというボアピッチで、それが『EG33』を名乗る最大の理由だと推測する。
また、「EJ20からEG33への変更は耐久性とドライバビリティの向上が目的」とはSTIのコメント。1.5倍の排気量とマルチシリンダー化により昨シーズン以上のパフォーマンスを目指したわけで、すでに行なわれた実走テストではドライバーの評価も高かったという。
スーパーGTという限定的なレースの世界ではあるが、スバルの水平対向6気筒エンジンが再び目の前に現れたことは喜ばしいことだし、その戦いぶりも当然気になる。あとは、「もう一度、市販車にも…」。そんな願いを抱かずにはいられない。
