走らせれば力強いのに静か…EVのいいところが全部詰まった印象

eビターラはスズキのBEV(電気自動車)世界戦略車第1弾である。見てのとおりSUVのスタイルをしている。大きな特徴は、国産ブランドのBEVでは唯一のBセグメントに属すること。つまりコンパクト。全長×全幅×全高は4275×1800×1640mmである。ホイールベースは2700mmで、最小回転半径は5.2mだ。

EV専用プラットフォーム「HEARTECT-e」を採用するeビターラ。バッテリーの搭載スペースを確保するためのロングホイールベース(2700mm)が特徴だ。

eビターラの大きな特徴のもうひとつは、このクラスのBEVで4WDの設定があることだ。ラインアップは以下の3つ。グレード、駆動方式、バッテリー総電力量、一充電走行距離、メーカー希望小売価格(税込み)の順に示す。

  • X 2WD 49kWh 433km 399万3000円
  • Z 2WD 61kWh 520km 448万8000円
  • Z 4WD 61kWh 472km 492万8000円

ちなみに、スズキとしてはひとクラス上のBEVと認識している日産リーフのスリーサイズは4360×1810×1550mm。ホイールベースは2690mmで、最小回転半径は5.3mだ。グレード構成と価格は以下のとおり。

  • B5 S 2WD 55kWh 521km 438万9000円
  • B5 X 2WD 55kWh 469km 473万8800円
  • B5 G 2WD 55kWh 469km 564万8500円
  • B7 X 2WD 78kWh 702km 518万8700円
  • B7 G 2WD 78kWh 685km 599万9400円

eビターラはエクステリアもインテリアも、「新しいクルマ感」が満載だ。フロントマスクでは「3ポイント」が特徴的なシグネチャーランプが目を引く。全体にかたまり感、押し出し感の強い印象だ。リヤコンビネーションランプにも「3ポイント」を反復している。リヤのウインカーだけバルブというケチなことはしておらず、灯火類はすべてLEDである。

デザインテーマはハイテック&アドベンチャー。EVの先進感とSUVのタフネスを融合し、冒険心を刺激する力強い存在感を表現している。

インテリアも先進的だ。採用例が増えているため目新しさを失いつつあるが、メーターはアナログではなくフルデジタル。メーターディスプレイのサイズは10.25インチ。センターのタッチディスプレイは10.1インチだ。それぞれレイアウトや表示できる内容を切り換えることができる。バリエーションが豊富なので、自分好みのパターンに落ち着くまでに時間はかかりそうだ。

10.25インチのメーターと10.1インチのセンターディスプレイを同一面上に配置した「インテグレーテッド・ディスプレイ」が特徴。また、インパネセンター部とドアガーニッシュにブラウンを採用し、上質さと力強さを演出している。

ステアリングヒーターは付いているし、フロント席はシートヒーターも付いている。スマホのワイヤレス充電はできるし、USBソケットはフロントだけでなくリヤにもある。ルームランプもLEDだし、12色のアンビエントライトも付いている。付いていてほしい装備はあらかた備わっている。

うれしいことに、シートヒーターとステアリングヒーターは全グレードに標準装備。さらに上級グレードであるZは、運転席がパワーシートとなる。
シートヒーターは3段階の調整機能付き。センターディスプレイで操作する。

走らせてみると、BEVならそうあってほしいと思う反応がクルマから返ってくる。アクセルペダルを踏み込むと、軽々と走り出す。最高出力128kW、最大トルク193NmのX 2WD(車重1790kg)であっても軽々だし、リニアに力が出てスムーズに巡航スピードに達する。アクセルペダルを強く踏み込むと、ちょっと感激するくらい強い加速を披露する。リヤにもモーターを搭載するZ 4WD(車重1890kg)のシステム最高出力は135kW、最大トルクは307Nmとなる。力強さは2WDのワンランク上で、「こんなに?」と驚くくらい鋭い出足を披露する。

モーター、インバーター、減速機をひとつにまとめたeアクスルを採用する。

そして、停車時はむろんのこと、速度域を問わずずっと静かだ。電動車で気になりがちな高周波の音(キーン音)も、タイヤが路面を叩くロードノイズも、空気がボディにあたることで発する風切り音もまったく気にならない程度に抑え込まれている。BEVのいいところが全部詰まった印象だ。それも、BEVにしてはお手頃な価格に抑えながら(クリーンエネルギー自動車導入促進補助金、いわゆるCEV補助金をあてにするともっとお得感は増す)のことである。

タイヤサイズは225/55R18。アルミホイールには空力性能と軽量化を両立させるための樹脂カバーが付いている。

スズキは質を落とさずにコストを抑える工夫を至るところでした。まず、eビターラはインドで作っている。日本だけでなく欧州にも投入するので、生産拠点としてインドのほうが都合は良かったのだという。モーターとインバーター、減速機を組み合わせたeアクスルはBluE Nexusとアイシンとデンソーの開発・生産品。構成する部品のうち、シャフトやギヤなどの機械部品はインドにあるアイシンの拠点が現地で調達し、ユニットに組み上げてeビターラの生産工場があるグジャラート州まで陸送する。これにより一定のコスト削減効果が得られるという。

モーターの最大トルクが193Nmであることは前で触れているが、BEVのモーターとしては比較的数字が小さい。例えば、新型リーフのモーターは最高出力が130kWとeビターラとそう変わらないのに対し、最大トルクは345Nmも発生している。eビターラはあえて193Nmでよしとしたのだ。そのほうがモーターの体格を小さくすることができ、使う銅線やレアアースなど、高価な材料の使用量を減らせるからだ。

そのうえで、駆動力の確保は減速比を大きくすることで対処した。リーフの最終減速比は9.328なのに対し、eビターラは13.925である。最高回転数は17000rpm近辺。スペック上の最高速は150km/hである。モーターはさらに、角型断面の銅線を高密度に巻いてコンパクトで高効率を目指すヘアピン巻きではなく、コンベンショナルな丸線巻きを採用した。ヘアピン巻きを採用すると工程が増えるため新たに設備を設ける必要がある。そのため、コストの観点で丸線巻きを採用したそう。

最新のEVではヘアピン巻線モーターがトレンドだが、コストや信頼性の面では丸線モーターにもメリットがある。

バッテリーは正極材にリン酸鉄リチウムを使用するLFPを採用した。ニッケル、コバルト、マンガンを使う三元系のほうがエネルギー密度は稼げるが、スズキは「BEVを初めてつくる」ので安全性や長寿命であることを重視し、その面で有利なLFPを選択した。BYDのグループ会社が中国で生産したバッテリーをグジャラート工場に送り、車体にセットする。

床下に搭載されるバッテリーにはLFP(リン酸鉄リチウムイオン)電池を採用。三元系(NMC)と比べるとコスト的に有利なほか、熱暴走のリスクが比較的低くて安全性が高い、充放電サイクル寿命が長いというメリットがある。

部品は広いインドのさまざまなルートをたどって北西部にあるグジャラートまでやってくる。道は悪く、クレーターと呼ぶ大きな穴がところどころ口を開けている。パネルに囲われている荷台は50度以上になることもあるという。高温だと電子基板が傷むし、振動で部品が壊れる。でも、傷まないよう、壊れないように品質を担保した。スズキの設計陣が現地までおもむき、状況を現場で確認し、部品の設計変更をしたこともあったという。

2WDモデルのリヤサスペンションまわり。
こちらは4WDモデルのリヤサスペンションまわり。eアクスルはフロント用とリヤ用でケースを共通化しており、コスト低減を実現している(内部のモーターサイズは前後で異なる)。

コスト低減にはことさら力を入れた。しかし、実車に触れてみると、コストを削った跡はみじんも見られない。安っぽさは皆無。先進感満載で、欲しい装備はほとんど付いているし、充分力強くスムースで、とても静かなBEV。それがeビターラである。

スズキ eビターラ(Z 4WD) 主要諸元

■ボディサイズ
全長×全幅×全高:4275×1800×1640mm
ホイールベース:2700mm
室内長×室内幅×室内高:1980×1450×1140(サンシェードを締めた状態)mm
車両重量:1890kg
乗車定員:5名
最小回転半径:5.2m
最低地上高:185mm

■パワートレイン
モーター種類:交流同期電動機
モーター定格出力:フロント 64kW・リヤ 31kW
モーター最高出力:フロント 128kW・リヤ 48kW(合計 135kW)
モーター最大トルク:フロント 193Nm・リヤ 114Nm(合計 307Nm)

■バッテリー
種類:リチウムイオン電池
容量:160Ah
セル電圧:3.18V
セル数:120
総電圧:381V
一充電走行距離(WLTCモード):472km
交流電力量消費率(WLTCモード):144Wh/km

■シャシー系
サスペンション形式:Fストラット・Rマルチリンク
ブレーキ:Fベンチレーテッドディスク・Rベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:225/55R18

■価格
492万8000円