ボクサーパラノイアの桑原さんが語る!
水平対向4気筒に対するフラット6の大きなアドバンテージ
6気筒は完全バランス。その最たる例が水平対向と言える。それに加え、熱で膨張してクリアランスが詰まるピストンを油膜で浮かせることで、まるでモーターのように粛々と回る。

タイムリーな話題として、今季スーパーGTに参戦するBRZ。EG33ツインターボ仕様を搭載することになったが、6気筒エンジンを選択したのは必然だった。というのも、排気量を稼ぐのに4気筒ではすでに限界を迎えていたからだ。
例えばEJ20。排気量2.0L(ボア径92.0φ×ストローク量75.0mm)のまま60kgm以上のトルクを狙うとしよう。すると、ノーマルブロックでは6000rpm以上の回転域がキツくなり、ブースト圧を上げたとしても8000rpmまでやっと辿り着くような回り方しかしなくなる。これはブロック剛性が明らかに不足していて、クランクシャフトに揉まれるようにブロックが変形するからだ。2.0Lでもそうだから、ボアアップした際は推して知るべしだろう。
その対策がブロック合わせ面に施すダウエルピン加工。昨年までスーパーGTのBRZに搭載されていたエンジンではもちろん、ポルシェでも昔からレース用エンジンで当然のように見られる手法だ。

ウチでも99φ以上のピストンを使う時には2~4番シリンダーの合わせ口にダウエルピンを打ち、併せてメインボルトも強化品に交換する。こうしてブロック剛性を確保すれば、8000rpmオーバーまでフリクションを感じずに回るようになるし、2.0キロのブースト圧にも余裕で耐えられる。
4気筒ではそういった対策が求められるところ、より動的バランスに優れ、ブロック剛性も高い6気筒になると、おしなべてその領域ではノーフリクションで回り切る。また、GTマシンのBRZではハイブーストによる高トルク化が4気筒よりも有効な手段として見えてくる。
さらに、排気量とブロック剛性の相関関係からすると、4気筒は2.5~2.7Lが限界。対する6気筒は初めから3.0L。この差はとてつもなく大きい。しかも、6気筒の3.0Lは鋳込みシリンダーで得られるが、4気筒で2.5~2.7Lとなると、ダグタイル鋳鉄など粘り強い材質のシリンダーライナーを後加工で装備しなければならない。あるいは、摩耗を意識するなら、FC鋳鉄との中間的な硬さのライナーをオーダーする必要がある。フルパワーを求めるのであれば、それがマストだ。
クランクシャフトについても話をしよう。ボクサーエンジンのそれは、片側をバイスに固定してもう一方をプラハンマーで叩くと、バヨ~ン…と、しばらく反響音を出し続けるほど実際は柔らかい。これは低フリクション化のため、塩浴窒化処理によって表面硬度のみを高めているから。エンジン全体の考え方としては、剛性を確保したブロックでしなやかなクランクシャフトを保持する。こうすることで、クランクシャフト自体のトラブルや、オイルポンプの割れなどを回避しやすくなる。
ブロック剛性の高さと得られる排気量。それに加えて、6気筒は偶力振動が出にくく、回転中のトルク変動が細かい。それから、1気筒あたりのトルク発生を細分化できるという点でも非常に有利。つまり、『6気筒はボクサーエンジンの理想の形態』と言えるのだ。

そこで、ポルシェのボクサー6気筒。空冷時代の3.6Lから、991の500psを発生するGT3用水冷4.0Lまで、世代を問わず品良くヒュンヒュンと回ってくれる。991のGT3に至っては、何事もなく9000rpmに到達する。いずれもトルクの出方に尖ったところはなく、そのレンジもワイド。かつ、軽快な吹け上がりはスポーツカー用エンジンとして扱いやすく、まさにドライバーのために誂えられたかのようなマナーを示す。
面白いのは、リッター当たり70psしかない空冷3.6Lでもエンジンの躾が行き届いていて、サーキットでのラップタイムはカタログ値280psを謳う初期型GDBといい勝負という事実。たった250psでもトルクの出し方や、加速からエンブレでの減速に至るまで、スポーツカーを知り抜いたポルシェのエンジンの作り込みは見事と感じた。

もう一つ付け加えると、全てのポルシェは無用な事故を防ぐため、ノーマルのサスペンションやタイヤに関してぬるく感じる。しかし、6割程度のペースから全開にかけての領域では、教科書に沿った走らせ方をしていれば、非常に気持ち良くドライバーの意思に追従してくれる。そのあたりは空冷のカレラから現行GT3まで、スポーツカーの手本として天晴。同時にポルシェはいつの時代だって、チューニングカーが目指すべき存在でもある。

話をスバルに戻す。それをフロントに搭載するメリット、デメリットは確かに存在すると思うが、スムーズさや静粛性を狙ったものではなく、成熟したスポーツカー用エンジンとして、もしスバルが6気筒を出してくれたらと思う。仮にトランスアクスルのBRZなど。それも911のように、ターボエンジンとワイドなターボボディを有したものが、この日本にあってもいいのではないか?
となれば、チューニング屋としてはさらに難しいことを要求されるに違いないのだが、一方で高度なベースモデルに鍛えられることも確か。そんな妄想を抱きつつ、限られたユーザーのために汗を流してもいい…などと思うのである。
⚫︎取材協力:ボクサーパラノア 群馬県前橋市力丸町187-3
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