同じ心臓、異なる進化。

700馬力の現実と、1000馬力の理想

いまだに2JZチューンの依頼が多く、実はお客さんの大半を占めているという“エスプリ”。今回紹介するマシンのオーナーである杉森さんは、かつてJZA70の2JZ換装仕様に乗り、JZA80に乗り替えてからサーキットアタックを本格化。20年以上にわたって、そのチューニングをエスプリが手掛けてきた。

ここで取り上げるJZA80は、鈴鹿サーキットをホームコースとするタイムアタック専用マシンの1号機と、ナンバー付きでストリートからサーキットまでオールラウンドに走れる2号機となる。いずれも速さを求めたリアルチューンド。その内容を見ていこう。

数年前に鈴鹿サーキットのスポーツ走行枠の規定が見直された。走行が認められるのは、“車検取得が可能な状態にある車両のみ”と。タイムを追求するあまり、見た目も中身も大きく変わってしまった1号機は当然、車検には対応していない。そこで、スポーツ走行枠でも走れるようにと製作されたのが、この2号機となる。

オーナーの杉森さんが言う。「車検に通る仕様なら、鈴鹿を走るだけでなく、ナンバーを取って街乗りや休日のドライブも楽しみたい。エスプリにはそういうリクエストを出しました」。

エンジンは排気量3.0Lのまま、HKS製ピストンとコンロッドで腰下を強化。カムシャフトもHKS製でインテーク側に256度、エキゾースト側に264度が組まれる。タービンはHKS GTIII-4R。最大ブースト圧は1.5キロの設定だ。

「最初に目標馬力を700psと決めてな。今はタービン自体の性能が良くなっとるもんで、2JZなら、それくらいのパワーはカムに頼らんでも出せる。だから、数字(作用角)だけ見ればおとなしめ。これなら低速トルクも犠牲にならんし、乗りやすいから街乗りも普通にできるわけや」と前川さん。

吸気系は純正サージタンクに80φスロットルを組み合わせ、排気系はメインパイプ径80φのマフラーを装着する。前川さんいわく、「例えばスロットル。90~100φを付けたくなるんやけど、700psなら80φで十分。サージタンクも同じ。容量的には純正で足りとるからな。それ以上はいらんし、わざわざ余計なもんに手を出さんでいい」とのこと。

また、ミッションは純正ゲトラグ6速MTで、クラッチにはATS製カーボンツインを装着する。これはミッション保護のため。滑りながら繋がるカーボンディスクであれば、大幅に高まったパワーやトルクの瞬間的な入力を緩和してくれるから、結果としてミッションブローの可能性を抑えられる。エンジンにしろ駆動系にしろパーツ選択に関しては、これまで様々な仕様の2JZを組み上げてきたエスプリの経験とノウハウが活かされているわけだ。

ストリートまで視野に入れているナンバー付きの2号機は軽量化も一切なし。ステアリングホイールはMOMOレースに交換。センターコンソール下部のオーディオスペースにEVC-VIIと油温計が並ぶくらいで、ダッシュボード周りは基本ノーマルだ。

また、前席はブリッドジータIVを装着。後席の生地も張り替えられ、フルブリッド仕様となる。

トランクルームには前方にコレクタータンクと2基のサード燃料ポンプをセット。「鈴鹿は高速コーナーが多く、横Gも大きいんでコレクタータンクは必須やな」と前川さん。

車高調はHKSハイパーマックスRを装着。バネレートはフロント27kg/mm、リヤ24kg/mmと標準より高められる。また、フロントアッパーにはロベルタカップを追加し、街乗りでの使い勝手を向上させている。

ブレーキはワンオフブラケットを介して、前後エンドレスレーシング6キャリパーで強化。低く構えた車高と日常域での使い勝手を両立するため、フロントサスにはスイッチ操作で素早く車高を上げ下げできるロベルタカップが追加される。

フロントバンパー、サイドステップ、前後ワイドフェンダーはエスプリオリジナル。ワンオフリヤウイングも保安基準に適合したものとなる。ホイールはAMEトレーサーGT-Vの18インチ。前後295/35サイズのアドバンA050が組み合わされる。

保安基準に適合し、街乗りを快適にこなせる仕様を実現。一方で、本格的なサーキットアタックにも完全対応。杉森さんのリクエストをもれなく実現した、エスプリ渾身のチューンドカーと言っていい。

そして、完全なるタイムアタックスペシャルとして進化を続けているのがこの1号機。杉森さん自身のドライブによる鈴鹿フルコースのベストタイムは2分0秒06。それが2021年のことだった。FRチューンドとしてすでに驚異的なタイムを残している、そんなJZA80の1号機は鈴鹿2分切りを目指して大幅なアップデートが図られた。その核となるのが空力性能の全面的な見直しだ。

「フロア下をドライカーボンパネルで完全に覆い、リヤをディフューザー化。フロントのアンダーパネルやリヤウイングも一新しました。いずれもアンダー鈴木に設計、製作してもらったものです」と杉森さん。

残念ながら撮影NGで全貌を見せることはできないが、デフ周辺を絶妙な形状でうまくかわしつつ、リヤエンドに向かって切れ上がるドライカーボン製アンダーパネルは、「市販車ベースでここまでできるのか!!」と思わずにはいられない見事な出来栄え。機能性を追求した末に辿り着いた造形美と言う他にない。

それを実現するため、まずフロア下で邪魔になるマフラー(とウエストゲートパイプ)はタービン直後でボンネットから突き出すようにレイアウトを変更。さらには、リヤサスもダブルウィッシュボーン式を維持したまま、アーム類の形状や取り付け位置を見直すなど、何よりも空力性能の向上を最優先した大胆かつ独創的なメイキングが施されるのだ。

一方のエンジンはHKSキャパシティアップキットで排気量を3.4Lに拡大しつつ、十分な耐久性も確保。タービンはHKS GTIII-5Rを組み合わせる。最大ブースト圧は2.0キロに設定。これでピークパワーは1000psに達する。

さらに、大きな見どころはエンジン自体をノーマルに対して100mm後方に搭載していること。エスプリ前川さんが言う。「コーナリングやブレーキングを考えたら、重いエンジンは少しでも後ろに載せたいやろ。それでコーナーウエイトを量ったら、思った以上に前後重量配分が良くなっとったよ」。

また、ミッションはホリンジャー6速シーケンシャルを搭載。エンジンと共に後退した分は、途中にユニバーサルジョイントを持たない一本モノのクロモリ製ワンオフプロペラシャフトで帳尻を合わせている。

ドライカーボンで作り直されたダッシュパネルに必要最低限のスイッチを機能的に配置。メインメーターはデフィスポーツディスプレイFで、左側にブースト計もセットされる。また、リンクを介してシフトレバー位置も最適化。

シートはブリッドジータIIIを装着する。全面をカーボンパネルで覆い、Bピラー以降を見えないように仕上げているのがエスプリの美学。

助手席側フロア部に設置されるのは、流用したZZW30純正電動油圧パワステのポンプとNOSボンベ。NOSは鈴鹿のヘアピンやシケインなどエンジン回転数が落ち込むところで使用。3500rpm&アクセル開度95%以上で噴射し、エンジン回転の上昇に伴って徐々に絞り込まれる。

リヤウイングはもちろん、ルーフやリヤゲート、クォーターウインドウに代えて装着されるパネルもドライカーボン製。徹底した軽量化により、車重は1200kg以下にまで絞り込まれる。

「楽しく走れればいい」から始まったサーキット走行だったが、速さを求め、タイムを意識しだすと同時にチューニングもエスカレート。そうして15年以上も進化し続け今の姿になった。

1200kgを下回る車重に1000psものパワー。そこに大幅な空力的モディファイが加えられたとなれば、タイムアップは確実。鈴鹿2分切りは、もう時間の問題でしかないのだ。

●取材協力:エスプリ TEL:0593-70-8080

「R31型GTS-Rの遺伝子は消えない!」ブルーブラックのER34スカイラインが見せるFR最終進化形

R31 GTS-Rを愛したオーナーが次に選んだのは、GT-RではなくER34。RB26改2.8L+TO4Rで650psを発揮しながら、FRの軽快さを守り抜く。ブルーブラックのボディが語るのは、単なる再現ではない“進化した続編”だ。

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