
ロータリーで高出力・高回転を追求

1960年代後半、メルセデス・ベンツは次世代車両の開発を進めていた。その中心にあったのが、ヴァンケル・エンジン、すなわちロータリーエンジンである。
1969年のフランクフルト・モーターショーに登場したイエローのコンセプトカーには、「C111」の名が与えられた。エクステリアデザインを担当したのは、後にW124型ミディアムクラスを手がけた名デザイナー、ブルーノ・サッコだ。

2ドアクーペ、ガルウィングドア、ミッドシップという“スーパーカー”のフォーマットを備えたC111は、大きな反響を呼んだ。しかし、このクルマが市販前提だったのか、それとも純粋な実験車(Experimental Car)だったのか、あるいはモータースポーツ復帰を視野に入れた存在だったのか──その位置づけは公式には明確にされていない。
背景には、1955年のル・マン24時間レースでの300SLRの大事故以降、メルセデス・ベンツがモータースポーツ活動を休止していたという事情もある。
C111は、次世代パワートレーンの実験車として重要な役割を担っていた。


初期型(のちのC111-I)には、M950F型3ローター・ロータリーエンジンを搭載。排気量は1800cc(1ローターあたり600cc)で、最高出力は206kW(280ps)/7000rpmを発生した。
参考までに、1967年にマツダがコスモスポーツに搭載した10A型は、491cc×2ローターである。
オイルショックでディーゼルへ転換

翌1970年のジュネーブ・モーターショーでは、4ローターのM950/4型エンジンを搭載したC111-IIが登場。しかし1973年のオイルショックにより、燃費性能に課題のあったロータリーエンジンの開発は中止される。

その後C111は、ディーゼルエンジンの実験車へと転換。OM617型3.0L直列5気筒ディーゼルターボを搭載したC111-II Dが登場する。



さらに1977年には、速度記録挑戦用のC111-IIIを開発。翌1978年、イタリアのナルド・サーキットで9つの世界速度記録を樹立した。
そして1979年には、4.5L V8ツインターボエンジンを搭載したC111-IVが製作され、最高速度403.978km/hを記録している。
C111が残した技術的遺産とは何か




C111の製作台数は13台とも14台とも16台とも言われており、内訳はロータリーエンジン仕様が13台、ディーゼルが2台、V8仕様が1台(ターボ/NAの仕様違いあり)とされるが、詳細は諸説ある。




C111はスーパーカーでもレーシングカーでもない。結局、市販化されることはなかったものの、C111はディーゼル技術、ターボ技術、エアロダイナミクス、新素材など、「未来のメルセデス技術」を検証するテストベッドとして重要な役割を果たした。
現在、C111はドイツ・シュツットガルトにあるメルセデス・ベンツ・ミュージアムで見ることができる。


