Land Rover Range Rover Sport SV
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BMW Alpina XB7
柔と剛の競演

史上最速のレンジローバーとして、先代「SVR」の後を継いだレンジローバースポーツ「SV」。2023年に登場したエディション1は、世界限定2500台のうちの、日本割り当て75台が即完売する盛況ぶりだった。
そしてこの度めでたくエディション2が、95台の割り当てで日本市場に再登場することとなった。
そんなレンジローバースポーツSVの魅力はなんと言っても、レンジローバーが持つ英国流ハイエンドSUVの動的質感と性能を、極限にまで高めたことにある。そして今回はその物差しとして、アルピナXB7をマッチメークしたというのだから、これは非常に興味深い比較となった。
さてレンジローバースポーツSVのハイライトは、そのパワーユニットがフォード/ジャガー由来の5.0リッターV8スーパーチャージャーから、BMW製4.4リッターV8ツインターボ(MHEV)へと改められたことだ。そう、これは今回相対峙するアルピナXB7とまったく同じ「S68B44」ユニットなのである。



面白いのはアルピナが最高出力621PS/5500〜6500rpm、最大トルク800Nm/1800〜5400rpmの出力を発揮するのに対して、レンジローバースポーツSVはその最高出力が635PS/6000〜7000rpmで、最大トルクは750Nm/1800〜5855rpmと、互いに出力特性が若干だが異なっていることだ。あくまで数値上だがアルピナがトルク重視で、レンジローバーがパワーを追い求めている姿勢は、両ブランドのイメージからして意外だった。



ちなみに0-100km/h加速は2660kgのアルピナが4.2秒で、2560kgのレンジローバースポーツSVは3.8秒。レンジローバースポーツSVの加速が勝るのは、見た目によらず約100kgほど軽い車重が大きく影響しているからだろう。
これを仕立てるSVO(スペシャル・ビークル・オペレーションズ)は、そのボンネットやサイドスカート、リヤスポイラーといったボディパーツに、ふんだんにカーボン素材を盛り込んだ。特筆すべきは23インチのカーボンホイールで、フロントこそ強度の関係だろうハブからスポークにかけてアルミ鋳造らしき骨格を与えているものの、その重量は同じサイズの鍛造ホイールと比べて4本で約36kgの軽量化を実現。そしてさらにその内側には、フロントでは440mmにもなるカーボンセラミックローターを与えて、4輪で34kgもバネ下重量を軽減している。


より攻めたドライビングが可能なアルピナ

しかしいざ走らせてみると、こうしたアグレッシブなモディファイが与えられながらも、レンジローバースポーツSVの方がコンサバなシャシーセッティングを与えられていたことは意外だった。基本的な乗り味は、どちらも超高級SUVに相応しい快適性を持っている。しかし一歩踏み込めば明らかに、よりナローで背の高いアルピナXB7の方が、積極的にコーナーへと挑むのだ。
その最も大きな要因となるのは、レンジローバースポーツSVがオールシーズンタイヤを装着しているからだろう。レンジローバーがあくまでオフローダーとしてのキャラクターを貫く姿勢には感服するが、それゆえに低荷重なオープンロードでは、動きがややビジーでセンシティブだ。車体の重さとコーナリング性能の高さに対して、若干タイヤが追従してこない印象がある。
筆者はこの試乗に先んじてレンジローバースポーツSVを富士スピードウェイのショートコースで走らせているが、限界領域で走らせてもやはりそのシャシーセッティングはかなりの安全志向だった。エアサスと可変ダンパーを協調制御する6Dダイナミックサスペンションシステムは、英国車ならではのストロークを活かしてその巨体をコントロールしてくれる。縁石をまたいでも跳ねることなく姿勢を保ち、後輪操舵はノーズにV8を搭載していることを忘れるくらい素直にノーズを回し込んで行く。圧巻はそのブレーキ性能で、怒涛の加速を何度受け止めても、ペダルタッチにフェードの兆候すらなかった。またリリース時のタッチも良好で、車両姿勢を積極的に作り出すことができた。
しかしいざ挙動がターンインでオーバーステアに転じると、スポーツモードは解除されてしまう。もちろんスロットルをバランスさせてニュートラルステアに留めれば制御は働かないが、どこかお預けを食らった気分になる。
恐らくレンジローバースポーツSVにとってはコースが狭すぎたせいもあるだろう。もっと広いコースならそのダイナミックバランスを楽しめたのではないかと思う。
そしてSVOがこうした極めて安定志向な制御を与えるのも、もっともだと頷ける。これだけのスピード(と重量)を持つSUVを顧客にデリバリーする上で、やり過ぎなくらいに慎重を期すのは当たり前だ。
しかし一方で純然たるスポーツタイヤが装着されていたら恐らくその閾値も上がり、このクルマが持つハンドリングの奥深さが発揮できたのではないかと思う。そしてこれをやっているのが、実はアルピナXB7なのだ。
2台の優劣に意味はないけれど

“アルピナマジック”と呼ばれる足まわりは、すべてにわたってBMWの純正パーツを使いながらも、ブッシュに至るまで細かく全グレードから適したものを選別して組み立てられている。またパワステやダンピングロジック、そして後輪操舵に至るまで、制御系はアルピナ流にリセッティングされているという。そして最後に路面を捉えるピレリ Pゼロが、驚くほどにいい仕事をする。サイドウォールの「ALP」の文字を見ればわかる通りそれは、アルピナとピレリの共同開発タイヤだ。
そんなアルピナXB7の、ブレーキングからターンインにかけての挙動は恐ろしく自然だ。きっと普通過ぎて面白みがないと感じるドライバーがいるだろうと思えるくらい、そこに派手さは一切ない。ターンミドルでも、後輪操舵の存在は意識されない。しかしきっちりと、巨体を狭いカーブで回し込む。クルマの乗り心地は足まわりやボディが担うと思いがちだが、きっとこの後輪操舵のステア捌きも、動的質感に大きく作用しているはずだ。
そしてこのすべてが滑らかにつながる体捌きに対しては、やはりBMW製ユニットのアウトプットが抜群に合うのである。つま先の動きにぴたりと追従し、踏み込んでもリニアなトルクカーブで圧倒的なパワーを爆発させるパワーの出方と、アルピナのシャシーワークが、これ以上ないくらいにマッチするのだ。





そういう意味ではやはり、レンジローバーにはあの荒々しく五感を震わす5.0リッターV8スーパーチャージャーが個人的にはベストマッチだった。洗練されたBMWユニットの性能と環境性能に文句の付けようはないけれど、紳士的な振る舞いの奥に秘められた野性味こそが、イギリス車の個性であり本質だと、古いタイプの筆者は思うからだ。
総じて一見派手に見えるレンジローバースポーツSVが実は良識派であり、アルピナの方が遙かに不良なのだと筆者は思う。アウトバーンを持つ国で生まれたという建前はあるが、普段から当たり前のように高いアベレージで愛車を走らせる、酸いも甘いもかみ分けた経験豊富な大人が、XB7に限らずアルピナを選ぶ。
だからこそ、その一見してノーマルのX7と変わらない、コンサバなルックスが必要なのだ。そういう不良たちは、目立つことを嫌うから。
対してレンジローバースポーツSVを選べば、わかりやすく今風に自己アピールができる。なおかつそこにはレンジローバーという確固たるブランドがあるから、知性的な自分をも演出できてしまうだろう。




そして両者を比べたとき、どちらが優れているという話にはあまり意味がないと筆者は感じた。双方ともにアベレージを遙かに超えた快適性と、高い動力性能を発揮する。むしろ猫も杓子もGクラスを選ぶ世の中で、レンジローバースポーツSVはオフロードテイストのSUVとしてアナタに新しい価値観を与えてくれるはずだ。そしてポルシェ・カイエンじゃなくても走りの奥深さを持つSUVがあることを、アルピナXB7を通して知ることができると思う。
ひと言付け加えれば、そのアルピナがBMW傘下に入ってどう変わってしまうかだけが少し不安である。
REPORT/山田弘樹(Kouki YAMADA)
PHOTO/佐藤亮太(Ryota SATO)
MAGAZINE/GENROQ 2025年7月号
SPECIFICATIONS
ランドローバー・レンジローバースポーツSV エディション2
ボディサイズ:全長4970 全幅2025 全高1815mm
ホイールベース:3000mm
車両重量:2560kg
エンジン:V型8気筒DOHCツインターボ
総排気量:4394cc
最高出力:467kW(635PS)/6000-7000rpm
最大トルク:750Nm(76.5kgm)/1800-5855rpm
モーター最高出力:14kW(19PS)/800-2000rpm
モーター最大トルク:200Nm(20.4kgm)/250rpm
トランスミッション:8速AT
駆動方式:AWD
サスペンション:前ダブルウィッシュボーン 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:前285/45R22 後305/40R22
最高速度:290km/h
0-100km/h加速:3.8秒
車両本体価格:2474万円
BMWアルピナ XB7
ボディサイズ:全長5180 全幅2000 全高1835mm
ホイールベース:3105mm
車両重量:2660kg
エンジン:V型8気筒DOHCツインターボ
総排気量:4394cc
最高出力:457kW(621PS)/5500-6500rpm
最大トルク: 800Nm(81.6kgm)/1800-5400rpm
モーター最高出力:9kW(12PS)/2000rpm
モーター最大トルク:200Nm(20.4kgm)/0-300rpm
トランスミッション:8速AT
駆動方式:AWD
サスペンション:前ダブルウィッシュボーン 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:前285/45R21 後285/45R21
最高速度:290km/h
0-100km/h加速:4.2秒
車両本体価格:2950万円(XB7マヌファクトゥーア)
【問い合わせ】
ランドローバーコール
TEL 0120-18-5568
https://www.landrover.co.jp/
ALPINA CALL
TEL 0120-866-250
https://www.alpina.co.jp/
