Porsche 911 Targa 4 GTS

クラシックなデザインを電動ルーフで実現

911史上初となるハイブリッドを搭載して話題のGTS。そのバリエーションであるタルガ4 GTSが上陸した。複雑機構のオープンボディとAWDとの組み合わせはいかに。
ナロー時代から964までのタルガのデザインよ蘇らせた。

スーパースポーツカーの中でも随一と言えるバリエーションの豊富さを誇る「911」だが、中でもユニークなのがタルガの存在だ。すでにカブリオレがあるのに、もうひとつオープンモデルの選択肢を用意するのは、逆に言えば2種類のオープンモデルを開発する余裕があり、それに見合うだけの需要があるということ。つまりいかに911の人気が高いかということの証左だと言える(歴史的にはタルガの登場はカブリオレよりも先なのだが)。

現在の911タルガのデザインは、ナロー時代の1966年からタイプ964時代の1993年まで採用されていた、太いロールバーと深い曲率のリヤウインドウが特徴のタルガボディを蘇らせたものだ。これは2014年、先代タイプ991で登場したのだが、このクラシックなデザインと電動ルーフ開閉機構を両立させたことに当時はとても驚いた記憶がある。何とか、かつてのタルガのデザインで電動開閉を実現したい、というポルシェエンジニアたちの執念さえ感じてしまう、まるでトランスフォーマーのようなこの開閉動作は、これだけで立派なエンターテインメントだ。

タイプ992がマイナーチェンジを迎え、各モデルが新型へと切り替わっているが、タルガにはまずGTSが設定された。そう、話題のハイブリッドエンジンである。そのスペックは先に登場した911カレラGTSと同様で、3.6リッターの水平対向6気筒に電動シングルターボを装着。8速PDKには56‌PSを発揮するモーターを内蔵し、トータルでの出力は541PS/610Nmを発揮する。そしてタルガなのでもちろん駆動はAWDだ。車検証を見ると重量は1760kg。911カレラGTSが同じく1630kgなので、タルガボディとなることとAWDシステムで130kg重くなったわけだ。だが0-100km/h加速は3.1秒で911カレラGTSよりわずか0.1秒遅いだけと、意外とその差は小さいが、これはAWDのトラクションの恩恵だろう。

アナログ針がなくなったメーターパネル

Race-Texと呼ばれるアルカンターラ素材をステアリングに採用し、タコメーター周囲はレッドのアクセントカラーが入る。
Race-Texと呼ばれるアルカンターラ素材をステアリングに採用し、タコメーター周囲はレッドのアクセントカラーが入る。

インテリアは他グレードと同様のアップデートが図られ、ついにアナログ針がなくなったメーターとボタン式になったエンジンスターターが目に付く。それでもやや高めの着座位置から見えるインパネ、フロントウインドウ越しの景色はまさしく911のそれで、これだけでクルマに対する信頼が高まるのも事実。外観デザイン同様に「変わらないこと」に意味があるクルマなのだということを実感する。

実は3.6リッターの排気量の復活は、私のような古いポルシェ好きにとってはかなり嬉しいニュース。自然吸気でも気筒あたり600ccあれば中間域からの蹴飛ばすようなトルクが得られるのに、さらに電動ターボにハイブリッドが加わればその力強さは凄まじい。このパワートレインはすでに911カレラGTSで体験済みだが、それよりも少々重くなったタルガでもその速さは少しも鈍らない。何よりも驚くのはパーシャルからアクセルを踏み込んだ際のトルクの立ち上がりの素早さだ。モーターによってタービンを回しておく電動ターボの反応の素早さ、そしてモーターによるアシストのおかげだが、それを乗り手に意識させないのがすごい。

そもそもハイブリッドとはいえEV走行はしないので、街中から高速道路、ワインディングまで完全に純エンジン車の気分で走れる。大型バッテリーの重量増を避けたのだろうが、コアな911ファンはEV走行を求めてはいないだろう、という確信もあったに違いない。

ハイブリッドをまるで意識しない走り

911史上初となるハイブリッドを搭載して話題のGTS。そのバリエーションであるタルガ4 GTSが上陸した。複雑機構のオープンボディとAWDとの組み合わせはいかに。
美しく、楽しく、そして速く。万能GTとしての素質をさらに高めたタルガ4 GTS。

足まわりはかなり硬めてあるが、ワインディングでステアリングを切り込んでもフロントが過敏に反応することはなく、しっかりとグリップの加減を感じながら姿勢を作ることができる。だが、やはり乗員より後ろ側の重量は意識する。後軸重量は1120kgでクーペの911GTSよりも80kg重く、しかもそれがほぼ上部の可動部分に集中しているからだろう。ステアリングの微妙な動きにもほんのわずかな遅れで後ろの上屋が揺れる感覚がある。それがタルガボディの限界といえばそうなのだが、だから不満かといえばそんなことはない。それよりも4輪で路面を掴んだ感じの圧倒的なスタビリティはそのわずかなネガを補って余りある。

そもそも911タルガはサーキットを攻める911ではない。美しく、楽しく、そして速く。日常生活の中で輝く最高の万能GTカーであることこそ、911タルガの役割だろう。つまり電動ターボハイブリッドを得た新型タルガ4GTSは、実に正しい進化を果たしたことになる。

いつもながらポルシェの商品戦略の巧みさよ。その素晴らしさは認めつつ、つい僻みに似た感情さえ抱いてしまう。

REPORT/永田元輔(Gensuke NAGATA)
PHOTO/小林邦寿(Kunihisa KOBAYASHI)
MAGAZINE/GENROQ 2025年8月号

SPECIFICATIONS

ポルシェ911タルガ4 GTS

ボディサイズ:全長4533 全幅1852 全高1299mm
ホイールベース:2450mm
車両重量:1745kg
エンジン:水平対向6気筒DOHCターボ
総排気量:3591cc
エンジン最高出力:357kW(485PS)/7500rpm
エンジン最大トルク:570Nm(58.1kgm)/── rpm
モーター最高出力:41kW
モーター最大トルク:150Nm
システム最高出力:398kW(541PS)
システム最大トルク:610Nm(62.2kgm)
トランスミッション:8速DCT
駆動方式:AWD
サスペンション形式:前マクファーソンストラット 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ(リム幅):前245/35ZR20 後305/30ZR21
0-100km/h加速:3.1秒
最高速度:312km/h
車両本体価格:2747万円

【問い合わせ】
ポルシェ コンタクト
TEL 0120-846-911
https://www.porsche.com/japan/

ポルシェジャパンは、新型「911 カレラ 4S」「911 カレラ 4S カブリオレ」「911 タルガ 4S(写真)」の予約受注をスタートした。

992.2型ポルシェ911に待望の全輪駆動モデルを追加「クーペ、カブリオレ、タルガのラインナップを拡大」

ポルシェジャパンは、新型「911 カレラ 4S」「911 カレラ 4S カブリオレ」「911 タルガ 4S」の予約受注を、2025年7月2日から全国のポルシェ正規販売店においてスタートした。新たに3つのAWDモデルが追加されたことで、911は合計6モデルでAWDが選択できるようになった。