Lexus LX700h & GX550
フラッグシップとヘビーデューティー

実質的なブランドエントリーのLBXに始まるレクサスのSUVラインナップにおいて、価格帯的に2トップと位置付けられるのが「LX」と「GX」。この2モデルにはメカニズム的な特徴がある。それはラダーフレーム構造を採る四駆であるということだ。
レクサスの他モデルをはじめとする数多のSUVがモノコック構造をベースとすることで、普通の乗用車と遜色のない乗降性や居住性を実現しているのに対して、堅牢さが特徴となるラダーフレームを採用するSUVといえば、プレミアムセグメントではGクラスやエスカレードくらいのものだろうか。そこに敢えて2つのモデルを展開する理由は、各々の個性を必要とするユーザーが少なからずいらっしゃるからだ。
初代LXが登場したのは1996年、初代GXが登場したのは2002年と、その歴史は相応に長い。その間、2モデルの位置付けは圧倒的フラッグシップか、本格的ヘビーデューティかという区分けがなされてきた。価格帯の差異もあるが、例えばLXは自然環境の厳しい場所でのラグジュアリーサルーンやグランツーリスモ的な役割を果たすこともある一方で、GXはより実生活に根ざした上等な道具としての需要をカバーしていたというわけだ。ユーザーが両車に抱く核心的付加価値は信頼性にあり、そのバックボーンにはアーキテクチャーを同じくするランドクルーザーへの定評も関連しているのだろう。
現行で4代目となるLXは、今年3月に施されたマイナーチェンジで、新たなHEVパワートレインを搭載した700hを追加した。そのメカニズムを知るにつけ、「信頼性もまたプレミアムである」という作り手の想いが伝わってくる。
新開発のハイブリッドシステムを搭載

そのパワートレインは従来グレードの600にも搭載される3.5リッターV6ツインターボと10速ATの間に、エンジンの始動を兼ねる駆動モーターを挟み込み、クラッチで制御する1モーターパラレル式を採用。54PS/290Nmのアウトプットが加わったことで、システム総合出力は463PS/790Nmをマークする。つまりは自然吸気エンジンにして7.0リッター超に相当する最大トルクをマークするというのが700hのグレード名の由来だ。


ハイブリッドが十八番のメーカーでありながらパラレル式を採用した狙いは、副変速機を含めたドライブトレインがそのまま活かせること、高負荷に対応できること、構造がシンプルなことなどが挙げられる。いずれも走破性や信頼性にまつわる重要な項目だ。そのぶん燃費の伸びしろは小さいが、そこは最初から割り切られているところでもある。一方、極所に臨む走破力をもって到達した先で、最大1500Wの給電機能が使えるというのは、望外のオマケとなるかもしれない。




その上で、万一のシステム失陥に備えてエンジンのみでも走行できるように、独立系統のオルタネーターやスターターを搭載していることも700hの特徴だ。ちなみにLXは全グレードで油圧とガス圧を併用する凝ったサスペンションを採用しているが、こちらも万一の抜けに備えて、車体を支持するためのコイルばねを装着している。とにかく不動になることは何が何でも避けようと、そのための備えが半端ではない。
実はエンジンのチューニングも異なる

グローバルでは3代目、日本では初展開となるGXは、このLXとメカニズムを同じくしている。もちろんまるっきり一緒というわけではないが、ラダーフレームや足まわりの基本設計、エンジンやミッションの基本形式に違いはない。ランドクルーザーでいえば300がLXに、250がGXに位置付けられるといえばわかりやすいかもしれないが、当然ならではの設えは随所に施される。
搭載エンジンはLXと同じ3.5リッターのツインターボだが、GXはより低回転からのピックアップを重視し、ラグの小さい小径のタービンを採用。ピークパワーは劣るものの、353PSのパワーをより広いレンジで扱えるようチューニングされている。ドライブトレインは副変速機付きの10速ATと、LXと同仕様だ。


取材車はLXがエグゼクティブ、GXがバージョンLと、共にシティユースも意識したトップグレードだが、両車にはよりアクティブなライフスタイルのユーザーに向けた「オーバートレイル+」も用意されている。いずれも専用の内外装色やエアボリュームの大きい18インチタイヤの採用、前・中・後軸の3デフロックなど、機能面でも悪路走行への適応力がきっちり高められている。
GXはそのオーバートレイルが5人乗り、バージョンLは7人乗りとなり、3列目のシートは電動格納が可能となっている。その3列目の居住性はラダーフレームがゆえ床面が高く、子供でも膝を抱えるように座ることを余儀なくされるのは致し方ないところだ。あくまでエマージェンシーユースと割り切るべきだろう。





よりタフな薫りのするGX

そのぶん……というわけでもないが、背の高い車体から見下ろすように広がる視界はLXにも増してクリアだ。スクエアな形状に加えてベルトラインも低く、側方の見通しも効きやすい。おかげでほぼ5×2mというサイズも気後れなく運転できる。
GXは最もヘビーデューティなレクサスに位置付けられるだけあって、オフロードでは盤石の走破力をみせてくれる。前ダブルウィッシュボーン、後リジットのサス形式もオフローダーの定石だが、ともあれ脚がよく伸び縮みしてくれることもあって、トラクション能力は極めて高い。悪路走破を手助けする電子制御はあくまで黒子、骨格そのものでぐいぐいと凹凸を捉えていくサマが、ドライバーに頼もしさとして伝わってくる。
タフさを売りにするクルマとしてはオンロードの乗り心地も悪くない。波状路などではボディマウントでも抑えきれないリジッドアクスルの癖が短ピッチの横揺れとして露呈することもあるが、それもクロカンらしさと前向きに捉えられる、そこがGXの勘どころといえるかもしれない。思えばGクラスやディフェンダーとも異なるデザインにも独特のラギッド感が漂っている。
両車は目指す地平が異なる

そんなGXに対してのLXの違いは静的質感においても端々にみてとれるものの、やはりドライブフィールにおいてあらたかだ。車台はもとよりディメンションもタイヤサイズも酷似しているが、タウンライドから高速域に至るまで路面アタリはとにかく丸く柔らかだ。前述のリジットアクスルの癖さえ抑えてしまう脚の動きのしなやかさは、件のガス圧+油圧支持の「アクティブハイトコントロールサスペンション」がもたらすところが大きい。
LXが車高調整も容易でオンロードの乗り心地に効くエアサスを用いないのは耐久性もさることながら、空気をパンパンに張った状態で大きな凹凸などを超える際などの快適さに課題があるからだ。車高調整を油圧に担わせるLXは、ストローク量も積極的にコントロールできる上、フルバンプの状態であっても油圧ならではの包容力が上屋をふんわりと支えてくれる。さしずめ古のシトロエンのような……といえば、スポーツカーで思い浮かぶのはマクラーレンのプロアクティブシャシーだが、オフローダーであるLXのキャラクターを決定づけているのは間違いなくこの脚といえるだろう。


700hならではのHEVパワートレインは、転がり始めの駆動伝達の緻密さに加えて、ごく低回転域からの過給の立ち上がりに伴うトルクの変動を線形的に埋め合わせるかのように作用している。そうやって内燃機の癖を埋め合わせつつ、中〜高速域の加速でも600とは一線を画す力感をもたらしてくれた。一方で、燃費的には600に対して大きな改善が望めるわけではない。高速巡航では同形式のエンジンを積むGXと同じ、10km/Lくらいの数字が出れば御の字といったところである。
同等装備での700hと600との価格差は100万円。価格帯やもたらされる利を鑑みれば、納得できるところに設定されていると思う。一方でGXはピュアなオフローダーという軸を利き足としながら、レクサスらしい質感の追求に拘ったモデルだ。乗り味の上質さに関してはLXの側に明確な一線が引かれるものの、GXのデザインやキャラクターは他に代えがたいものがある。選ぶ側には悩ましい2台でもあるわけだ。
REPORT/渡辺敏史(Toshifumi WATANABE)
PHOTO/佐藤亮太(Ryota SATO)
MAGAZINE/GENROQ 2025年8月号
SPECIFICATIONS
レクサスLX700h エグゼクティブ
ボディサイズ:全長5100 全幅1990 全高1895mm
ホイールベース:2850mm
車両重量:2770kg
エンジン:V型6気筒DOHCツインターボ
総排気量:3444cc
最高出力:300kW(408PS)/5200rpm
最大トルク:650Nm(66.3kgm)/2000-3600rpm
モーター最高出力:40kW(54PS)
モーター最大トルク:290Nm(29.5kgm)
トランスミッション:10速AT
駆動方式:AWD
サスペンション:前ダブルウィッシュボーン 後リジッド
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:前後265/50R22
最高速度:209km/h
0→60mph加速:6.4秒
車両本体価格:2100万円
レクサスGX550 バージョンL
ボディサイズ:全長4960 全幅1980 全高1920mm
ホイールベース:2850mm
車両重量:2510kg
エンジン:V型6気筒DOHCツインターボ
総排気量:3444cc
最高出力:260kW(353PS)/4800-5200rpm
最大トルク:650Nm(66.3kgm)/2000-3600rpm
トランスミッション:10速AT
駆動方式:AWD
サスペンション:前ダブルウィッシュボーン 後リジッド
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:前後265/50R22
最高速度:175km/h
0→60mph加速:6.5秒
車両本体価格:1270万円
【問い合わせ】
レクサスインフォメーションデスク
TEL 0800-500-5577
https://www.lexus.jp
