
「田舎」という表現がピッタリの里山風景は、心を癒してくれるものです。そして、そんな里山は意外と身近なところにあります。山間に集落が点在する山梨県上野原市秋山地区は観光とは無縁の場所です。だからこそ昔ながらの里山風景に出会うことができる場所でもあります。県道や林道を走りつないで里山をめぐってみました。
棚田の景色に昔ながらの暮らしを垣間見る
山梨県最東端に位置する秋山村は、神奈川県相模原市に隣接しています。現在は上野原市秋山地区となっていますが、かつての村の風情はそのままの風情ある地域です。秋山川に沿って集落が点在する秋山地区は県道35号線が東西を貫いていて、唯一の幹線道路になっています。山を隔てて北側は国道20号線と中央自動車道、そして南側を国道413号線道志みちが通っています。国道20号線や道志みちに比べて交通量は極めて少ないので、随分前から抜け道として利用してきました。単に通過するエリアだったのです。目立った観光施設や見どころがある場所じゃないので、わざわざ足を止めなかったのかもしれません。
このように観光的な要素がない秋山ですが、裏を返せば村の素朴な情景が残っているエリアともいえます。最たるものが地区のもっとも東に位置する富岡の棚田です。収穫を終えた秋に一度行ったことがあるのですが、改めて訪れてみることにしました。
国道20号線で大垂水峠を越え、中央道相模湖IC入り口交差点の先から県道520号線で勝瀬橋を渡ります。相模湖には何艘ものボートが出ていました。住宅地を抜け県道76号線に突き当たったところをいったん北側に進み、再び西に県道520線を進みます。しばらく行くと右にヘアピンカーブとなって県道は上野原市街方面へと行くのですが、ヘアピンを曲がらずまっすぐに続く道を進んでいきます。一気に狭くなった道は次第に山間部へと入り込みます。倒木や落石が多く気を抜けません。突き当りを左に曲がり、狭くアップダウンのある山道をひたすら進みます。しばらく走ると道は再度突き当り県道35号線に出ます。少し進むとようやく道が広くなり、奥牧野の集落に出ます。この集落を過ぎると山梨県に入ります。秋山の最東端の集落を抜けると秋山川を渡る秋山大橋が南側に分かれています。橋を渡り左折して行くと小さな商店があり、そこを右に曲がり狭い道をたどって行くと視界がパッと開け、目の前に棚田が広がります。ここが秋山富岡の棚田です。
田植えが終わった棚田は緑の稲が風に揺れていて、実に長閑な里山風景を展開していました。農作業がすでに終わっていたのか、人影はまったくありません。ザ田舎という風景が政令指定都市相模原のすぐ隣にあるのですから不思議な感覚になります。そしてそんな風景にスーパーカブはよく似合います。
棚田に続く作業道を走り、風景を見晴らす場所にスーパーカブを止め麦茶でのどを潤していると、爽快な気分になってきます。
日本の原風景をのんびり堪能した後は、林道安寺沢線を進んでいきました。安寺沢川沿いに続く林道は狭いけれど舗装されていて、山間の集落をつないでいます。途中には江戸時代に幕府の命令で全国の村々に設けられた米や雑穀の倉庫である郷倉があったり、廃校になった桜井小学校安寺沢分教場などがあります。林道をさらに進み厳道峠を越えれば道志村へと行くことができます。しかし僕は途中で右に分かれる林道をたどりました。標高を上げていく粗末な舗装林道を走っていくと目の前にトラス橋が現れます。前後には巨大な筒が山を貫いています。「こんな山奥にいったいなんで?」とだれもが不思議に思うはずです。実はこれ、工事が進むリニア中央新幹線の軌道なのです。いまにもクマが出そうな山間に最新の鉄道が通されている状況を目の当たりにすると、別世界に入り込んだような錯覚に陥ります。

クマ出没注意の看板を横目に来た道を戻り、秋山唯一の観光施設といっても過言ではない『新湯治場秋山温泉』へと向かいました。富岡の棚田からほど近い場所にある日帰り温泉施設で、オートキャンプ場のRVパークが隣接しています。また施設内には食事処や屋内外の温水プールなどもあり、この日も家族連れでにぎわっていました。駐輪場には何台ものバイクが止まっていました。
30度越えの蒸し暑い中を走ってきたので、久々に温泉を楽しむことにしました。内風呂やサウナ、露天風呂があり、長い時間過ごすことができそうです。僕はあまり長風呂ではないのですが、内風呂と露天風呂で温泉を満喫し、さっぱりとしたところで県道35号線沿いにある和食屋『あき山』でざるそば(600円)を食べ、里山探訪ツーリングを終えました。
走行距離は105㎞。使用したガソリンは1.61L。入浴料1000円と合わせて1850円でした。


















