カワサキ Z900 SE……165万円(カワサキケアモデル、2025年4月12日発売)




今年6月17日、カワサキは早くもZ900の2026年モデルを公開し、7月15日から販売を開始すると発表した。スタンダードモデルのZ900(148万5000円)を追加したほか、上位仕様のZ900 SEはマット基調のカラー&グラフィックへと変更。価格は1万1000円アップの166万1000円へ。どちらも1ヶ月目点検に加え、3年間の定期点検とオイル交換(オイルフィルター含む)が無償で行われる「カワサキケア」が付帯する。
電スロ化でライダーとの意思疎通がより濃密に

1970年代にも「Z900」という呼称が存在したので少々ややこしいが、水冷直4を搭載する現行Z900のルーツは、2003年にミラノショーでデビューしたZ750にある。スーパーネイキッド「Z1000」のスケールダウン版であるZ750は、2004年から2012年まで9年間にわたって販売されたあと、2013年に排気量を拡大した「Z800」へとバトンタッチ。このタイミングで生産拠点が日本からタイへと移行した。Z750とZ800は日本の正規ラインナップに加わることはなかったものの、輸入業者を通じて国内に流通。筆者は2013年モデルのZ800に試乗しており、バランスの良い走りに感激した記憶がある。ちなみに当時のZ800の価格は88万円だった。
Z800の後継である「Z900」は、2016年のミラノショーで発表され、翌2017年から海外での販売がスタート。そして2018年4月、いよいよ日本において正式にリリースされた。1軸2次バランサー付きのエンジンはZ1000をベースとし、Z800からボア径を2.4mm拡大、ストロークを5.1mm伸長して、排気量を806ccから948ccへと増やしている。余談だが、初代Z1000(ZR1000A)のエンジンはNinja ZX-9Rをベースとしており、953cc(φ77.2×50.9mm)から123PSを発揮していた。Z900は、排気量を四捨五入すると1000に達しないことから「Z1000」を名乗れないという、ある意味カワサキの律儀さが表れている車名とも言えるが、パフォーマンス的には同等であることを覚えておくといいだろう。

今回試乗した2025年モデルのZ900 SEに関して、エンジンはハード面の変更こそないが、燃料供給方式はワイヤー作動のデュアルスロットルバルブから電制制御スロットルバルブとなり、さらに双方向クイックシフターが標準装備となった。


筆者はこれまでに、2018年型と2022年型のZ900を試乗している。後者は平成32年(令和2年)排出ガス規制適合モデルだが、基本的な印象は大きく変わらない。1軸2次バランサーを採用しながらも、あえて心地良い振動を残したというエンジンは、まるで糸を引くかのようにスムーズに伸び上がる。排気量948ccから120PSオーバーを発揮するので、スロットルを大きく開ければ相当にパワフルだが、その一方で上質とかシルキーなどと表現したくなるほどエンジンフィールが心地良く、これこそがZ900の持ち味だと認識している。

今回試乗した新型は、従来からのそうしたZ900の良さを維持しながら、電スロ化によってさらに旨味が増している。具体的には、スロットル操作に対するレスポンスがより緻密になり、ライダーとの意思疎通がさらに図りやすくなっているのだ。一般道においては、5000~6000rpmまでで事足りるほど低中回転域に実用的なトルクがあり、右手を大きく開けた時の鋭い加速感および咆吼とも呼べる吸排気音は実に刺激的だ。それでいて巡航中はシルキーな脈動感が心地良く伝わり、ライダーを決して急かすことがない。Z750時代から数えて20年以上が経過した今、熟成の域に達したこのエンジンはまさに名機と言っても過言ではない。
なお、新設された双方向クイックシフターについては、発進してすぐの1500rpmから使うことができ、変速時のショックはかなり少なめで実用的だ。各社がクラッチレバーレスの技術を競う中、システムとして一世代遅れているのは否めないが、これを標準装備してきた点は大きな一歩と言えるだろう。
扱いやすいだけでなく、その先を秘めたハンドリング

新型Z900 SEのシャシーは、標準装着タイヤの銘柄変更および快適性の向上がテーマだったという。タイヤはダンロップのスポーツマックス・ロードスポーツ2から、その進化形である同Q5Aへ。快適性に関しては、シートのウレタンを厚くして乗り心地を向上。それに伴いシートレールの左右幅を狭めている。




Z900は、まるで直4ネイキッドのお手本のようなハンドリングを有しており、Uターンのような低速での小回りからハイスピードコーナーまで、どんなシチュエーションでも視線を送った方向へスムーズに向きを変える。その際、特に小難しい操縦は必要ないので、大型二輪免許を取ったばかりのライダーでも、まるでテクニックが上がったかのような錯覚を覚えるだろう。
こう書くと単に扱いやすいだけのバイクかと思われそうだが、実はそうではない。ベテランが正しく荷重を加えると、さらに高い旋回力を引き出せるのだ。直接のライバルとなるであろうヤマハ・MT-09 SPよりも車重は21kgも重いが、マスが集中しているからか走行中はそこまでの重さを感じさせず、スポーツライディングを気持ち良く楽しめるのだ。
SEのサスペンションには、オーリンズ製のリヤショックに加え、STDモデルよりワンランク上のフルアジャスタブル式フロントフォークが採用されている。試乗車が新車だったためか、荒れた路面では作動初期の渋さが目立ったが、これは慣らし運転が進めば解消されるだろう。全体的に動きは上質であり、新型のテーマである快適性も十分以上だと感じた。
ブレンボ製のキャリパーとディスクによるフロントの制動力は、特にスポーツライディングにおいてコントロール性の高さが光っており、SEを選ぶ価値は十分にあろう。なお、ライバルのMT-09 SPがブレンボ製のマスターシリンダー(Z900 SEはニッシン製)や同Stylemaキャリパーを採用しているので、それと比べるとグレード的には下位ではあるが、通常の使用において体感的な差を感じることはあまりないだろう。
さて、新型Z900 SEにおける見逃せないトピックの一つが、スマホ連携機能「ライディオロジー」の進化だ。ヘッドセットを通じて音声コマンドが使えるようになったほか、メーター上にターンバイターンナビを表示させることも可能だ。「ヘイ、カワサキ」と呼び出したあとに「お腹が空いた」と声を掛けると、近くにあるレストランなどを候補地として挙げてくれるのだ。ただし、現状では特定のコマンドのみが利用可能なので、普段からアレクサなどのスマートスピーカーを使いこなしている人からすると、「分かりません」と返されることが多いと感じるかもしれない。さらに、これを使うためには新車購入時に配布されるライセンスが必要であり、2年目以降は有料(価格は未定)となるので、その価格次第でも評価は大きく分かれそうだ。


Z900は、ご存じのとおりZ900RSのベースとなったモデルだ。大型バイクの販売台数ランキングにおいて、7年にわたりトップを快走しているZ900RSに対し、Z900は20位圏内に顔を出すことすらめったにないほど人気の差が明白だ。だが、走りに関してはネイキッドの王道と呼べるほど秀逸であり、Z900RSが街中にあふれかえっている今、これを選ぶのも悪くないのではと思っている。
ライディングポジション&足着き性(175cm/68kg)








