カワサキ Z900 SE……165万円(カワサキケアモデル、2025年4月12日発売)

小顔になったフロントマスク、ヘアライン仕上げのアルミ製サイドシュラウドなどが新型Z900の特徴だ。日本仕様は欧州仕様よりも座面の高さが20mm低いローシートを標準装着。純正アクセサリーとして欧州仕様と同じ高さのハイシートが用意されており、SE用は2万4750円だ。
車体色はメタリックグラファイトグレー×エボニーの1種類のみ。
Z800の後継として登場したZ900(ZR900B)は2018年4月2日に発売された。当時の車両価格は95万400円で、直近の2024年モデルは127万6000円だ。
Z900(2026年モデル) エボニー×メタリックカーボングレー
Z900 SE(2026年モデル) メタリックマットグラフェンスチールグレー×メタリックマットカーボングレー

今年6月17日、カワサキは早くもZ900の2026年モデルを公開し、7月15日から販売を開始すると発表した。スタンダードモデルのZ900(148万5000円)を追加したほか、上位仕様のZ900 SEはマット基調のカラー&グラフィックへと変更。価格は1万1000円アップの166万1000円へ。どちらも1ヶ月目点検に加え、3年間の定期点検とオイル交換(オイルフィルター含む)が無償で行われる「カワサキケア」が付帯する。

電スロ化でライダーとの意思疎通がより濃密に

1970年代にも「Z900」という呼称が存在したので少々ややこしいが、水冷直4を搭載する現行Z900のルーツは、2003年にミラノショーでデビューしたZ750にある。スーパーネイキッド「Z1000」のスケールダウン版であるZ750は、2004年から2012年まで9年間にわたって販売されたあと、2013年に排気量を拡大した「Z800」へとバトンタッチ。このタイミングで生産拠点が日本からタイへと移行した。Z750とZ800は日本の正規ラインナップに加わることはなかったものの、輸入業者を通じて国内に流通。筆者は2013年モデルのZ800に試乗しており、バランスの良い走りに感激した記憶がある。ちなみに当時のZ800の価格は88万円だった。

Z800の後継である「Z900」は、2016年のミラノショーで発表され、翌2017年から海外での販売がスタート。そして2018年4月、いよいよ日本において正式にリリースされた。1軸2次バランサー付きのエンジンはZ1000をベースとし、Z800からボア径を2.4mm拡大、ストロークを5.1mm伸長して、排気量を806ccから948ccへと増やしている。余談だが、初代Z1000(ZR1000A)のエンジンはNinja ZX-9Rをベースとしており、953cc(φ77.2×50.9mm)から123PSを発揮していた。Z900は、排気量を四捨五入すると1000に達しないことから「Z1000」を名乗れないという、ある意味カワサキの律儀さが表れている車名とも言えるが、パフォーマンス的には同等であることを覚えておくといいだろう。

搭載されている水冷4ストローク並列4気筒は、先々代にあるZ750時代から初代Z1000(ZR1000A)をベースとしている。Z900のストローク量56.0mmは、後のZ1000(ZR1000D)と共通で、ボア径をφ73.4mmとして排気量を948ccに設定している。1軸2次バランサーやアシスト&スリッパークラッチなどを採用。すでに2021年モデルで最新の排ガス規制に対応しており、2025年モデルはハード面での変更はなし。なお、最高出力は125PSから124PSと微減した一方で、定地燃費は24.0km/Lから28.9km/Lへと20%以上も改善されている。

今回試乗した2025年モデルのZ900 SEに関して、エンジンはハード面の変更こそないが、燃料供給方式はワイヤー作動のデュアルスロットルバルブから電制制御スロットルバルブとなり、さらに双方向クイックシフターが標準装備となった。

ワイヤーが不要な電子制御スロットルの採用に伴い、スイッチボックスは左右とも最新タイプへ。ライディングモードはスポーツ/ロード/レインの3種類のほか、パワーとトラコンを任意に設定できるライダーモードを用意。新設されたクルーズコントロールは3速以上かつ32km/h以上で設定可能だ。
新型における大きなアップデートの一つがクイックシフターの標準装備だろう。1500rpm以上であればシフトアップ/ダウンともクラッチ操作が不要だ。ただし、スロットルを閉じている状態でのシフトアップ、開けている状態でのシフトダウンには対応しない。

筆者はこれまでに、2018年型と2022年型のZ900を試乗している。後者は平成32年(令和2年)排出ガス規制適合モデルだが、基本的な印象は大きく変わらない。1軸2次バランサーを採用しながらも、あえて心地良い振動を残したというエンジンは、まるで糸を引くかのようにスムーズに伸び上がる。排気量948ccから120PSオーバーを発揮するので、スロットルを大きく開ければ相当にパワフルだが、その一方で上質とかシルキーなどと表現したくなるほどエンジンフィールが心地良く、これこそがZ900の持ち味だと認識している。

筆者が2022年に試乗したZ900 50th ANNIVERSARY。Z誕生50周年を記念した特別仕様で、1981年登場のZ1100GPを彷彿させるカラーリングが特徴だ。価格は121万円。

今回試乗した新型は、従来からのそうしたZ900の良さを維持しながら、電スロ化によってさらに旨味が増している。具体的には、スロットル操作に対するレスポンスがより緻密になり、ライダーとの意思疎通がさらに図りやすくなっているのだ。一般道においては、5000~6000rpmまでで事足りるほど低中回転域に実用的なトルクがあり、右手を大きく開けた時の鋭い加速感および咆吼とも呼べる吸排気音は実に刺激的だ。それでいて巡航中はシルキーな脈動感が心地良く伝わり、ライダーを決して急かすことがない。Z750時代から数えて20年以上が経過した今、熟成の域に達したこのエンジンはまさに名機と言っても過言ではない。

なお、新設された双方向クイックシフターについては、発進してすぐの1500rpmから使うことができ、変速時のショックはかなり少なめで実用的だ。各社がクラッチレバーレスの技術を競う中、システムとして一世代遅れているのは否めないが、これを標準装備してきた点は大きな一歩と言えるだろう。

扱いやすいだけでなく、その先を秘めたハンドリング

新型Z900 SEのシャシーは、標準装着タイヤの銘柄変更および快適性の向上がテーマだったという。タイヤはダンロップのスポーツマックス・ロードスポーツ2から、その進化形である同Q5Aへ。快適性に関しては、シートのウレタンを厚くして乗り心地を向上。それに伴いシートレールの左右幅を狭めている。

エンジンをストレスメンバーとする高張力鋼トレリスフレームは、ステアリングヘッドの後方にガセットを追加して剛性バランスを最適化。さらにシートレールの左右幅をわずかに狭めることで、シート高10mmアップ(日本仕様の場合)による足着き性の悪化を相殺している。
標準装着タイヤはダンロップの最新銘柄であるスポーツマックスQ5Aだ。フロントフォークはφ41mm倒立式で、伸縮両減衰力およびプリロードが調整可能だ。フロントキャリパーの固定方式はスラストからラジアルマウントへと進化。SEはブレンボ製のM4.32モノブロックキャリパーと、同じくブレンボ製のφ300mmディスクおよびパッドを組み合わせる。
リヤブレーキディスクは、φ250mmという外径はそのままに、ペタルタイプからスタンダードな形状へ。キャリパーはニッシン製のシングルピストンだ。スイングアームはアルミ製。
リヤサスペンションはホリゾンタルバックリンク式のモノショックで、SEはオーリンズ製のS46ガスショックを採用。伸び側減衰力および油圧コントローラーによるプリロードが調整だ。

Z900は、まるで直4ネイキッドのお手本のようなハンドリングを有しており、Uターンのような低速での小回りからハイスピードコーナーまで、どんなシチュエーションでも視線を送った方向へスムーズに向きを変える。その際、特に小難しい操縦は必要ないので、大型二輪免許を取ったばかりのライダーでも、まるでテクニックが上がったかのような錯覚を覚えるだろう。

こう書くと単に扱いやすいだけのバイクかと思われそうだが、実はそうではない。ベテランが正しく荷重を加えると、さらに高い旋回力を引き出せるのだ。直接のライバルとなるであろうヤマハ・MT-09 SPよりも車重は21kgも重いが、マスが集中しているからか走行中はそこまでの重さを感じさせず、スポーツライディングを気持ち良く楽しめるのだ。

SEのサスペンションには、オーリンズ製のリヤショックに加え、STDモデルよりワンランク上のフルアジャスタブル式フロントフォークが採用されている。試乗車が新車だったためか、荒れた路面では作動初期の渋さが目立ったが、これは慣らし運転が進めば解消されるだろう。全体的に動きは上質であり、新型のテーマである快適性も十分以上だと感じた。

ブレンボ製のキャリパーとディスクによるフロントの制動力は、特にスポーツライディングにおいてコントロール性の高さが光っており、SEを選ぶ価値は十分にあろう。なお、ライバルのMT-09 SPがブレンボ製のマスターシリンダー(Z900 SEはニッシン製)や同Stylemaキャリパーを採用しているので、それと比べるとグレード的には下位ではあるが、通常の使用において体感的な差を感じることはあまりないだろう。

さて、新型Z900 SEにおける見逃せないトピックの一つが、スマホ連携機能「ライディオロジー」の進化だ。ヘッドセットを通じて音声コマンドが使えるようになったほか、メーター上にターンバイターンナビを表示させることも可能だ。「ヘイ、カワサキ」と呼び出したあとに「お腹が空いた」と声を掛けると、近くにあるレストランなどを候補地として挙げてくれるのだ。ただし、現状では特定のコマンドのみが利用可能なので、普段からアレクサなどのスマートスピーカーを使いこなしている人からすると、「分かりません」と返されることが多いと感じるかもしれない。さらに、これを使うためには新車購入時に配布されるライセンスが必要であり、2年目以降は有料(価格は未定)となるので、その価格次第でも評価は大きく分かれそうだ。

RIDEOLOGY THE APP MOTORCYCLEのイメージ。2020年のマイナーチェンジの際にTFTカラー液晶を採用し、同時にスマホとの連携機能である「ライディオロジー」が盛り込まれた。新型はそのライディオロジーが進化し、ヘッドセットを通じての音声コマンドにより、ターンバイターンナビを画面に表示させたり、車両情報を呼び出すなどのさまざまな操作が可能となった。
5インチのTFTカラー液晶を採用。ボッシュ製IMUを搭載したことで、エンジンパワーやブレーキ効力を総合的に制御するKCMF(カワサキ・コーナリング・マネジメント・ファンクション)を新採用。また、IMUを得たことで、リーン角/加速度/減速度インジケーターをメーター上に表示させられるようになったのも、大きなアップデートの一つと言えるだろう。

Z900は、ご存じのとおりZ900RSのベースとなったモデルだ。大型バイクの販売台数ランキングにおいて、7年にわたりトップを快走しているZ900RSに対し、Z900は20位圏内に顔を出すことすらめったにないほど人気の差が明白だ。だが、走りに関してはネイキッドの王道と呼べるほど秀逸であり、Z900RSが街中にあふれかえっている今、これを選ぶのも悪くないのではと思っている。

ライディングポジション&足着き性(175cm/68kg)

上半身が軽く前傾する乗車姿勢であり、スポーツライディングにおいて前輪荷重を稼ぎやすい。
シート高は先代から10mmアップして810mmとなったが、ご覧の通り足着き性は良好だ。