カワサキ ヴェルシス1100 SE……209万円(カワサキケアモデル、2025年4月12日発売)



純正アクセサリーを装着していない状態で新旧を比較する。カラー&グラフィックが異なるほか、エンジンの塗色も変わっていることが分かる。なお、2024年モデルは204万6000円(カワサキケア含む)だったので、2025年モデルは4万4000円しかアップしていないことになる。
未舗装路走行を想定していない前後17インチのアドベンチャーツアラー(スポーツツアラー、スポーツクロスオーバーなどメーカーによりジャンルの呼称は異なる)は、世界的に激戦区となっている。直接のライバルになりそうなのはヤマハのトレーサー9 GT+ Y-AMTやスズキのGSX-S1000GXなどで、以下に違いをまとめてみた。

上品さとエキサイトメントが同居する1100エンジン
ヴェルシス1000は、欧米で人気を博していたヴェルシス(650)の上位版として2011年11月に発表され、翌2012年から販売されたアドベンチャーツアラーだ。このカテゴリーでは初めて直4エンジンを搭載したことで話題となり、2015年のモデルチェンジで早くも2代目へ。そして2019年に3代目となり、同年2月に初めて国内の正規ラインナップに加わった。初代、2代目ともブライトを通じて逆輸入されており、筆者は縦2灯フェイスの初代に試乗したことがある。アドベンチャーと言えば、BMWのGSシリーズを筆頭に2気筒エンジンが王道であったが、ヴェルシス1000の直4はシルキーかつトルクの立ち上がりが上質で、ツイン勢よりも親しみやすいと感じたのだ。

今回試乗したヴェルシス1100 SEは、3代目のスタイリングを引き継ぎながら排気量を55cc増やしたモデルだ。同系のエンジンを搭載するニンジャ1000SXシリーズも同じタイミングで1100となったが、ニンジャが最高出力を141PSから136PSへとわずかに減らしたのに対し、ヴェルシスは120PSから135PSへと大幅にパワーアップした。これはメイン市場である欧州において、アウトバーンなどを走る際に高回転域での余裕を持たせるのが狙いとのことだ。

ニンジャ1100SX(STD)よりも車重が24kgも重く、しかも試乗車はパニアケースやトップケースなどをフル装備した状態ではあったが、それを感じさせないほど新型のエンジンは低回転域からトルクフルだ。試乗で多用したのは中間のロードモードで、パワーはフル、トラコンは上から2番目、そして電サスは標準設定となる。体に伝わる脈動感は1000時代から変わらずシルキーで、シートのウレタンが厚いこともあってか、ニンジャ1100SXよりもさらに振動がオブラートに包まれているかのようだ。そして、そうした上品さを見せる一方で、6000rpmから上の領域では明らかにパワフルになり、エキゾーストノートもガッツのある音質へと変化する。開発者曰く、特にサウンドチューニングは行っていないとのこと。だが、優れた防風効果によって排気音が耳に届きやすいのか、ニンジャ1100SXよりもエキサイティングに感じられるのは、ヴェルシスの二面性という点で高く評価したい。

KQS(カワサキ・クイック・シフター)については、使用できる下限の回転数が2500rpmから1500rpmへと引き下げられており、これによる恩恵は非常に大きなものだった。渋滞などでゆっくり流しているようなシーンにおいても、クラッチレバーの操作なしで変速できるので、実際のツーリングでは疲労を大幅に軽減できるはずだ。
イージーさの極みとも言える扱いやすいハンドリング
ヴェルシス1100 SEのハンドリングは、誤解を恐れずに表現するなら“イージー”だ。パニアケースやトップケースをフル装備した姿は、大型ビギナーが引いてしまうほどのボリューム感である。しかし、いざクラッチをつないで走り始めると、まるで800ccクラスのバイクのように軽快に反応してくれるのだ。
ホイールベースが1520mmと長いため、旋回力はそれなりではあるが、前後17インチホイールによる操舵はビッグネイキッドのように自然であり、他のオンロードバイクから乗り換えたとしても違和感は限りなく少ないだろう。ホイールトラベル量はフロント150mm、リヤ152mmとなっており、ニンジャ1100SXの120mm/141mmよりわずかに長い程度だが、セミアクティブサスのおかげで車体の過度なピッチングは抑えられいる。それでいて路面の荒れた峠道では、まるでフランス車の猫足のごとくショックを吸収してくれるので、まさに気を使わずイージーに走れてしまうのだ。



この扱いやすい操縦性は、タンデム+フル積載でもオーバーなアクションなしにワインディングロードをこなせるように狙ったものだろう。加えてこのヴェルシス1100 SEは、エンジンパワーやブレーキ効力を総合的に制御するKCMF(カワサキ・コーナリング・マネジメント・ファンクション)が採用されており、例えばコーナリング中にフロントブレーキを強めにかけたとしても、車体が急に起き上がることなく自然と減速してくれる。そこにお節介な印象は一切なく、スポーツライディングの楽しさを妨げられることがない。KCMF自体は先代から採用されており、もっと注目されてほしいシステムの一つだ。
メーターに搭載されているスマホ連携機能のライディオロジーは、ヘッドセットを通じての音声コマンドに対応した上位仕様だ。ただし、メーター自体が2019年モデルから使われている1世代前のタイプのため、最新のZ900 SEのようにターンバイターンナビを表示させることができない。現状でも十分に便利な機能ではあるが、トレーサー9 GT+ Y-AMTやGSX-S1000GXは地図そのものを表示できることを考えると、決して小さくないディスアドバンテージと言えるだろう。


昨年、GSX-S1000GXを発売したスズキは、Vストローム1050が属するスタンダードアドベンチャーとは別に、クロスオーバータイプが欧州を中心に人気を博しており、それが開発のきっかけになったと説明した。つまり、求められているのは“2輪版SUV”であり、例えばシート高を下げられるなど、未舗装路走行を想定しないことで得られるメリットはいくつもある。カワサキはそこに直4エンジンのヴェルシスを持ち込むことで、オリジナリティを確立したのだ。
スペックや装備面で先に挙げたライバルに一歩譲る点はいくつかあるが、ツアラーとしての基本性能はこのヴェルシス1100 SEも決して負けてはいないというのが正直な感想だ。余談だが、カワサキモータースの欧州販社であるKMEは、今年から2027年までの3年間、サイクルロードレースを主催するA.S.O.と公式サプライヤー契約を締結。世界三大スポーツイベントの一つであるツール・ド・フランスなど、合計22の国際的なロードレースにこのヴェルシス1100を提供することになったので、テレビ中継でその雄姿がバンバン映るはずだ。カワサキはかつて1000GTRと1400GTRでも同様の契約を結んでおり、ヴェルシス1100はそれらに続く第3弾となるわけで、かなり名誉なことと言っていいだろう。

ライディングポジション&足着き性(175cm/68kg)








