
最強ボクサーを抱いたハイテクマシン
BMW伝統の水平対向エンジンを心臓部に、大型スクリーンとパニアケースを標準装備した新型「R1300RT」が登場。前モデルR1250RTから6年ぶりとなるフルモデルチェンジだ。
パワーユニットには先にデビューした主力アドベンチャー、「R1300GS」と共通の水冷ボクサーツインを搭載。Rシリーズ史上最強となる最高出力145psを発揮し、ツアラーとは思えぬ力強い走りを実現している。さらに新設計のフレーム、進化した前後サスペンション、軽量ホイールを組み合わせることで動的性能も大幅にブラッシュアップした。
快適装備も抜かりない。電動スクリーンに可変式ラゲッジシステムに加え、クラッチ&シフトを自動化したオートマチック・シフト・アシスト(ASA)や前走車を自動で追尾するアクティブ・クルーズ・コントロール(ACC)をオプションで設定。空力面では新たに可変式サイドディフレクターと新設計ウインド&ウェザーガードを導入し、どんな天候でも快適なライディングを実現する。また、ライディングモードは「ロード」「レイン」「エコ」に加え、オプションで「PRO」モードも選択可能。電子制御サスペンションや前後衝突警告、レーンチェンジ警告といったアシスタンス機能も組み合わせることで安全性も一段と高められている。
そして特筆すべきは、最新技術「ダイナミック・シャシー・アダプション(DCA)」の存在だ。走行モードに応じて車高やサスペンション設定が自動で最適化され、まるで異なるバイクに乗り換えたかのような変化をもたらす。さらに「オーディオプロ・サウンドシステム」が旅の時間を豊かに演出し、迫力のあるサウンドが心を満たす。“旅するバイク”に求められるすべてが凝縮された、まさに究極のグランドツアラーと言えるだろう。
200km/hクルーズの静かな時間
新型R1300RTは従来の重厚感のあるフォルムから一新。スリムで鋭く直線的な“塊感”のあるデザインへと進化した。R1300GSAにも共通する新しさがあり、都会的に洗練されたスタイルと機能の両立を狙った意匠が随所に光る。
実は今回、同じエンジンを積むネイキッドタイプのR1300Rも同時に試乗したのだが、史上最強の水冷ボクサーツインの怒涛のトルクは共通だが、RTでは出力特性がいくぶん穏やかでスムーズに感じられた。BMWによればエンジンマップ自体は共通ながら、駆動系のセッティングは車種ごとに最適化されているとか。従来型よりも10kg軽くなったとはいえ、車重280kgのヘビー級なだけに、RTは“余裕ある加速”という印象だ。速さを意識せずとも、自然とペースが上がっていく感覚はまさにツアラー向け。
試乗車にはクラッチ操作を不要とする「オートマチック・シフト・アシスト(ASA)」が搭載され、アクセル操作だけで発進・停止・変速が可能。4輪のオートマ感覚と同じで、これは本当に快適。混雑した市街地から郊外まで、ロングライドのストレスを大幅に軽減してくれた。また、スリムになった電動スクリーンは、最大まで上げるとライダーを風の圧力からしっかりと守りつつ、驚くほど静かな空間を生み出す。新設された可変式サイドディフレクターも空気の流れを的確にコントロールし横風対策も万全だ。この図抜けた動力&空力性能が、アウトバーンでの200km/h巡行を日常にしてしまう。4輪では「道がクルマを作る」という言葉があるそうだが、まさにドイツ生まれの血統を感じるシーンであった。
DCAが解き放つ新次元のコーナリング
そして、初搭載された「ダイナミック・シャシー・アダプション(DCA)」。選んだ走行モードに応じてサスペンション設定だけでなく、車高や前後の姿勢までもが変化する高度な制御システムだ。コンフォート寄りの「ロード」「レイン」「エコ」では安定性と乗り心地を重視したフラットな車体姿勢で、まさにフカフカの空飛ぶ絨毯の様。対する「ダイナミック」「ダイナミックPRO」では前後サスペンションが引き締まり、車高が上がって前傾した戦闘態勢になる。結果、車体のレスポンスは鋭くフロント接地感も増して、高速コーナーでもしっかり踏ん張る走りが楽しめる。まるで2つの別キャラクターが1台のマシンら同居して感じで表情がガラっと変わるのが面白い。その意味で、新型はよりスポーツツアラーに寄せてきたとも言える。
そして、ACCや前後からの衝突警告、車線変更時の死角検知などの先進安全機能がライダーの意志に寄り添って陰で支えつつ、疲労やリスクを軽減してくれる。その有難さはアウトバーンのような超高速域ではなおのこと、身をもって体感することができた。
快適性、安全性、そして走りの楽しさ──。それらすべてを高次元で融合させたR1300RTは、まさにBMWらしい完璧主義で貫かれた長距離ツアラーの理想形といえるだろう。
重量級マシンとは思えない軽快なハンドリングでコーナーを駆け抜けていく。DCAをはじめとする最新電子制御システムの支えが、マシンだけでなくライダーの心の安定ももたらしている。




スタイリング





肩の筋肉が盛り上がったBULL(牡牛)をイメージしたという力強いシルエット。かつ直線を基調としたシャープでBOXY(箱型)なデザインで今っぽい。従来のR1250RTに比べてもスリムで洗練された印象だ。
足つき性(ライダー身長179cm・体重73kg)
ハンドルが近く上体がほぼ直立したリラックスした構えで、ステップ位置も自然でムリがない。ひと言で「快適」。シート高は820㎜と標準的だが、パニアの横幅と車重があるので取り回しにやや気を遣うかも。
ディテール解説




こちらはマニュアル式のチェンジペダルで、上級グレードの「オプション719カマルグ」には専用カラー(ブルー・リッジ・マウンテン)とともに高品質なビレットパーツが組み込まれている。







スペック
ボディサイズ:全長×全幅×全高=2229×971×1387mm
ホイールベース:1500mm
シート高:820 / 840 mm (コンフォートシートロー: 780 / 800 mm)
車量:281kg
エンジン:1300cc 水冷4ストローク水平対向2気筒DOHC 4バルブ(1気筒あたり)
トランスミッション:シャフトドライブ/6段AT
最高出力:145PS(107kW)/7750rpm
最大トルク:149N・m(15.2kgf・m)/6500rpm
燃料タンク容量:24L
フレーム:スチール製シートメタル(メイン)/アルミ製トラス(サブ)
サスペンション(トラベル量):EVOテレレバー(149㎜)/EVOパラレバー(158㎜)
ブレーキ:
フロントφ310㎜ダブルディスク+4Pラジアルマウントキャリパー
リアφ285 mm,シングルディスク+2Pフローティングキャリパー(リーンアングル対応型フルインテグラルABS)
タイヤ:フロント120/70 ZR17、リア190/55 ZR17(ミシュラン「ロード6」)
燃費:4.9リッター/100km(約20.4km/リッター、WMTCモード)
価格:未定

