BMW・新型「R1300R」/ライダー:ケニー佐川

ダイナミズムと快適性を突き詰めた次世代ロードスター

「ツーリング性能や快適性はそのままに、運動性能を徹底的に高めた」──試乗会の冒頭でBMWの開発責任者がそう語ったように、今回の新作「R1300R」は“走り”へのこだわりが際立っている。車体構成としては、Rシリーズ史上最強の145psを誇る水冷ボクサーを、エンジン自体を剛性メンバーとするコンパクトな新設計スチールフレームに搭載。さらに新型の倒立フォークや進化型EVOパラレバーといった足まわりのアップデートにより、コーナリング性能も大幅に向上している。
そして注目は、世界初となるスプリングレート可変機構を取り入れた電子制御サスペンション「ダイナミック・サスペンション・アジャストメント(DSA)」。走行中の荷重変化や路面状況を感知して、減衰力だけでなくスプリングレートまで“疑似的”に自動調整してくれるという驚異のシステムだ。これにより、ツーリングからスポーツ走行まで今まで以上に幅広いシチュエーションでサスペンションを有効に使えるということだ。
また、ライディングモードは標準3タイプ(ロード、レイン、エコ)のほか、オプションの「ライディングモードPRO」ではより攻めた設定も可能に。コーナリング対応の前後連動ABSやエンジンブレーキを制御するMSRも全モデルに標準装備され、安心感もさらに高まっている。
さらにオプションで、R1300GSAでも話題になったクラッチレスで自動変速可能な「オートマチック・シフト・アシスタント(ASA)」や自動追尾と減速まで行う「アクティブ・クルーズ・コントロール(ACC)」、前・後方衝突警告といった先進機能も選べるなど、快適性や安全装備も抜かりなし。また、新設計のラゲッジシステムやシートヒーターまで設定されるなど、バイク旅も射程に入れた多目的な使い方ができるところがBMWらしい。

スーパーカー並みの加速に酔いしれる

従来モデルの丸みを帯びた大らかなデザインとは打って変わって、新型は鋭くエッジが効いたステルス戦闘機のようなフォルムが印象的だ。左右に張り出したタンクがボリューミーだが、跨ると車体はスリムで足着きも良好。ハンドルはやや低めかつ前寄りにセットされるなど、見た目もライポジもしっかり“走り”に振ってきた印象だ。
試乗車は4タイプの中でももっともスポーティな「パフォーマンス」仕様。軽量ホイールにスポーツタイヤ、専用サスペンションとまさに本気の車体構成であることが分かる。エンジンはR1300GSやRTと共通の水冷ボクサーツインで、滑らかな鼓動と低く唸るようなサウンド、そして重厚なトルクが特徴。標準モードで普通に流していると、とても穏やかで扱いやすい。それが、オプション搭載の「ダイナミックPRO」モードに切り替えた瞬間、体が置いていかれそうな加速が炸裂。アクセルを捻るとエンジンの回転が上がる間もなくロケットのように飛び出していく。ちなみに、0-100km/h加速はなんと3.25秒とスーパーカー並み。排気音が控えめで車体が安定しているせいか、あまりスピード感がないのだが、メーターを見ると体感よりはるかに速い。

DSAが生み出す新次元コーナリング感覚

ワインディングも驚くほど軽快だ。ボクサーツイン+シャフト駆動独特の低重心ならではの安定感と、何の抵抗もなくコロッと転がるようにバンクしていく感覚は健在。両脇に飛び出したシリンダーの存在も忘れるほど軽やかなフットワークで、曲がりくねった峠道をリズムよく切り返していく様は、まるでアスファルトの上で踊っているかのようだ。
なかでも感動したのは、世界初の“可変スプリングレート”を備えた電子制御サスペンション「DSA」。この“健脚”は走行モードに応じて性格がガラリと変わる。特に「ダイナミックPRO」モードでは車高も微妙にアップして、サスペンションが深くストロークしたところでしっかり踏ん張ってくれる。これが効いて、路面に突然現れるバンプや高速コーナーなど大きな荷重がかかる場面でも安定性が格段に向上。さらに、前後連動ブレーキやコーナリング対応のABS&トラコンといった電子制御が抜群の安心感を提供してくれる。ちなみに、標準搭載モードに戻せば、穏やかでしなやかな乗り味に変わり、街乗りも実に快適。シートも低く、低重心なのでストップ&ゴーもストレスフリーだった。
試乗ではトータルで200km近くを走行したが、ある意味でバイク任せにできる要素が増えたおかげで楽できるというか、ハードに走っても気持ち的に余裕があり、疲れにくいことが実は大きなメリットだと分かった。走りの鋭さと日常性の両立というBMWらしい哲学が、今回も見事に息づいていた。ただ速いだけではない。安心と安全がたっぷり担保された中で、スポーツマインドを楽しめる懐の深さがR1300Rの魅力なのだ。

BMW・新型「R1300R」/ライダー:ケニー佐川
BMW・新型「R1300R」/ライダー:ケニー佐川

フラットツイン独特の低重心とリーンの軽さを生かした軽快で安定したハンドリングが持ち味。新投入のDSAに支えられた強靭な足回りが想像以上にスポーティな走りを実現する。Rシリーズ随一のコーナリングマシンだ。

BMW・新型「R1300R」
BMW・新型「R1300R」
BMW・新型「R1300R」
BMW・新型「R1300R」
BMW・新型「R1300R」

フロントが低くテールがアップした、ウェッジシェイプ型の鋭いボディラインが特徴。張り出したタンクの外側にエアダクトを設けるなど、空気の流れを視覚化したデザインとなっている。

足つき性(ライダー身長179cm・体重73kg)

BMW・新型「R1300R」/ライダー:ケニー佐川
BMW・新型「R1300R」/ライダー:ケニー佐川
BMW・新型「R1300R」/ライダー:ケニー佐川

従来モデルに比べてハンドル位置が若干低く前寄りにセットされ、より上体が前傾したスポーティなライポジになっている。シート高は785㎜と従来比で35㎜も低くなり、足着きが大幅に向上したことは大きな魅力だろう。

ディテール解説

最高出力145ps/7750rpm、最大トルク149N・m/6500rpmを発揮する水冷4ストローク水平対向2気筒DOHC 4バルブ排気量1300ccエンジンを搭載。スペックはR1300RTやR1300GSと共通だ。前から見ると、左・右シリンダーの飛び出しは大きく迫力がある。
駆動方式はRシリーズ伝統のシャフトドライブを踏襲し、足まわりには最新のEVOテレレバーを採用。片持ち式スイングアームは従来よりも延長され、路面への追従性がさらに向上している。
八角形デザインのDRL一体型フルLEDヘッドライトを標準装備。オプションの「ヘッドライトPRO」では、走行速度やバンク角に応じて照射角度を自動調整するアダプティブ機能が追加される。ヘッドライト上には各種アシスト機能を支えるレーダーセンサーを装備。
「パフォーマンス」仕様では、高級感あるバーエンドミラーを採用し、スポーティなルックスと洗練された雰囲気を両立。一方、ベーシックモデルにはオーソドックスなハンドルバーマウントタイプのミラーが装着される。
燃料タンク容量は17Lで、WMTCモードでは約350kmの航続が可能。タンク中央部には硬質スポンジのような独特の素材が使われ、タンクからシート、さらにテールエンドまでが一体化したように見える視覚的デザインが印象的だ。
「パフォーマンス」仕様には専用のスポーツシートを採用。標準シート高は790mmで、先代R1250Rより30mmも低く、足つき性が大幅に向上している。写真のモデルは赤いアクセントラインとブランドロゴが映えるスポーツパッセンジャーシート。
フロントブレーキにはφ320mmディスク&4Pラジアルマウントキャリパーをダブル装備。コーナリングABS対応のフルインテグラルブレーキシステムにより、安全性能も抜かりない。タイヤサイズは前120/70-17、後190/55ZR17。
従来モデルから1.4kg以上も軽量化された新型アルミホイールを採用。これにより制動力とハンドリングが大幅に向上している。標準タイヤには公道からサーキットまで幅広く対応するダンロップのSPORTSMART(スポーツスマート)をセレクト。
「パフォーマンス」仕様には精密加工が光るビレット製ステップキットを装備。バーとペグの位置は可変式で自分好みのセッティングが可能だ。
R1300GSでもお馴染みの6.5インチフルカラ―TFTディスプレイを標準装備。左手のスイッチとマルチコントローラーを使って、ライドモードの切り替えやDSAをはじめとした各種設定、車両情報やコネクティビティ機能へ直感的にアクセスできる。
左手のスイッチボックスは新型Rシリーズで共通の設計で、慣れればRTでもGSでもすぐに操作に馴染めるはず。ASA仕様ならMT/ATの切り替えスイッチが追加される。

主要諸元

ボディサイズ:全長×全幅×全高=2126×864×-mm
ホイールベース:1503mm
シート高:785 / 810 mm
車量:239kg
エンジン:1300cc 水冷4ストローク水平対向2気筒DOHC 4バルブ(1気筒あたり)
トランスミッション:シャフトドライブ/6段AT
最高出力:145PS(107kW)/7750rpm
最大トルク:149N・m(15.2kgf・m)/6500rpm
燃料タンク容量:17L
フレーム:スチール製シートメタル(メイン)/アルミ製トラス(サブ)
サスペンション(トラベル量):倒立フォーク(140㎜)/EVOパラレバー(130㎜)
ブレーキ:
 フロントφ320㎜ダブルディスク+4Pラジアルマウントキャリパー
 リアφ285 mm,シングルディスク+2Pフローティングキャリパー(リーンアングル対応型フルインテグラルABS)
タイヤ:フロント120/70 ZR17、リア190/55 ZR17(ダンロップ「スポーツスマート」)
燃費:4.81リッター/100km(約20.8km/リッター、WMTCモード)
価格:未定