はればれの箱根へ


朝からピカピカに晴れた。日本晴れというやつだ。抜けるような青空に、おあつらえ向きの白い富士が映え、日本バンザイ的な人が大喜びしそうな良い眺めだ。もっとも、ノンポリAFOライダーには高尚な文化的&政治的感慨なんぞナニひとつ湧いてこないが。
白くてデカくて美しい山を虚心に眺めて東海道へと復帰。進路を西にとり、小田原から箱根へ登るルートに乗った。

小田原から箱根をめざす自動車ルートはおおむね3本。箱根新道、国道1号、そして県道732号(旧街道)だ。が、箱根新道は自動車専用道で125クラスは走れないから、LEAD125なら、国道1号と旧街道の二択になる。今回は旧街道・箱根七曲りからのアプローチを選択した。

箱根七曲りには風情があるが、そのぶん通行規制もある。それも特定排気量のバイクが特定期間だけ走れない珍妙なルールだ。550cc未満の自動二輪車だと、4月1日~11月30日までの土日祝、8時から15時まで走れない。1984年につくられた謎規制が40年以上経った2025年になってもまだ残っている。550ccを境にした排気量規制も、今となっては謎でしかない。



LEAD125は、七曲りくらいなら、なんの苦もなくスイスイ登る。芦ノ湖に着くまでにちょっと脇道にそれ、細い山道にも入ってみた。その先には、いまだに徒歩専用のリアルガチ旧東海道との交差点があった。

箱根を西へ、爽快ダウンヒル!
峠を降りて元箱根へ。明るく晴れた芦ノ湖はいかにも楽しげで、ついダラダラ遊んで行きたくなったが、ガス欠の使命を帯びて激走中のタカハシには叶わぬ夢だ。遊覧船を横目に先を急いだ。
芦ノ湖から三島市までは、東海道中の白眉ともいえる絶景ワインディングが続く。坂を降り、三嶋大社前にちらっと立ち寄って、さらに西へとスロットルを開けた。



三嶋大社から静岡県道145号を経由して海岸線を目指す。これもまた旧東海道で、沿道の松並木に往時の雰囲気が残されている。そこから県道380号に乗り換えれば、すぐに千本松原だ。



千本松原を抜けて海岸線を西に進めば田子の浦にぶつかる。奈良時代の歌人、山部赤人(やまべのあかひと)の歌にも富士の絶景スポットとして登場するほどだから、その後の江戸時代、東海道をゆく旅人の中でも、和歌をたしなむ教養人クラスなら、田子の浦で富士を見物する人もあったはずだ。もっとも昔の「田子の浦」は、必ずしも現代の「田子の浦港」を指してたわけじゃないんだが。
タカハシが田子の浦に寄り道したのは、腹が空いて手持ちのカ◯リーメイトをむさぼり食いたくなり、かつ公衆便所の活用により、摂食と排泄を同時多発的に済ませたくなったとかの下世話で生物学的な欲求からではない。令和の教養人の一人として、江戸期東海道の観光文化を研究するため、寄り道という名のフィールドワークを実践しようとしたからなのであ~るあるあるある、あるったらある!



ふじのくに田子の浦みなと公園内には、富士山ドラゴンタワーと呼ばれる展望台や、ロシアの軍艦ディアナ号の1/3スケール模型のほか、「田子の浦ゆ うち出でてみれば ま白にぞ 富士の高嶺に 雪は降りける」の歌碑がある。
この名高い作品のバックグランドも、歌碑にちゃんと説明されている。だがそれは「山部宿祢赤人望不尽山歌一首 并短歌 天地之 分時従 神左備手……」という超ゴリゴリの漢文&万葉仮名で、ほとんどの現代日本人には暗号同然の文言だ。ただ、無学な国民を思いやる行政の方々の親切心からか、読み下し文も付いていて、ガチのAFOライダーでもそこそこ理解できるのが嬉しい。



田子の浦を出ると、その西には旧東海道の難所が待ち受けている。由比宿と興津宿の間の狭隘(きょうあい)地だ。江戸期の東海道は、海寄りの危険な断崖を避けて山道に入り、薩埵(さった)峠を通っていたが、土木技術が発達した今では、幅わずか約120mぽっちのこの場所に、国道1号バイパス、東名高速道路、東海道本線という日本の交通の大動脈を詰め込むようにムリクリ通してある。
ふだんは国道1号バイパスのひとまたぎで済ませるんだが、今回は昔ながらの旧道・薩埵峠を越えて興津へ向かうことにした。


薩埵峠を登る舗装路はきわめて狭く、最大斜度はおおむね20%前後ある。見た目にもかなりの激坂だが、LEAD125はモノともしない。いや、この坂を登れることに驚いているわけではない。現代日本のスクーターならたいてい登れるだろう。タカハシが驚いたのは、その登坂フィーリングだ。急坂だからと身構えていたのに「平地か?」というくらいガンガン登る。激坂の途中からでも、ちょこっと開ければフツーにスルスル加速しまくる強心臓に驚かされた。

薩埵峠を越えると静岡市街はもう目と鼻の先だ。夕闇と渋滞に呑み込まれはじめた街路を抜けて、清水区の宿にバイクをとめ、荷を解いた。トリップは217.8km、本日の走行128.8km、フューエルメーターはピコピコ点滅しまくっていた。





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