ダカールラリーへの参戦を通じて世界的な注目を集める中国の新興メーカー、KOVE MOTO(コーベ・モト)に、オンロードでの快適性とツーリング性能を重視した800X TOURINGが加わった。
今回は800X TOURINGを約1週間借り出し、街乗りからワインディング、日常の買い物までさまざまな場面で走ってみることにした。そこで感じたのは、扱いやすさとスポーツバイク顔負けの刺激的なエンジンフィーリングを併せ持つ、これまでのアドベンチャーバイクとはひと味違うキャラクターだった。

ダカールラリーで実績を積み重ねるKOVEが生み出したロードツアラー

KOVE MOTOは2017年に中国の重慶市で設立された二輪メーカーだ。歴史が浅いにもかかわらず、オフロードライダーをはじめとして多くの注目を集めているのは、開発、生産、販売を一貫して手がけ、創業当初から走行性能を重視したバイクを作り出しているからだ。
オフロード分野への力の入れ方に並々ならぬものがあり、2023年には市販状態の450RALLYでダカールラリーに初参戦し、エントリーした3台がすべて完走。その後もラリー活動を継続し、オンロードではスーパースポーツ世界選手権のSSP300クラスにも参戦するなど、モータースポーツを通じて技術開発を積極的に進めている。

KOVEの歴史を語るうえで欠かせない人物が、創業者のひとりである張雪だ。
オフロードレースへの情熱を持つエンジニアで、2017年に厳凱らとともにKOVEを設立。軽量で高性能なバイクの開発を推進し、2023年には450RALLYでダカールラリーへの参戦を実現させた。
しかし2024年3月、独自の高性能エンジン開発に対する投資方針などをめぐって意見が対立し、KOVEを退任。その後、新ブランドZXMOTOを立ち上げた。

技術開発の中心人物を失ったKOVEだが、その後は共同創業者で実業家の厳凱が経営を引き継いでいる。厳凱はKOVEの設立以前から中国のオートバイ産業に携わっており、西蔵新珠峰工業集団の総裁を務めた経験を持つ。KOVEの軽量化や高性能化へのこだわりが張雪の退任後も維持されており、厳凱体制になってからも競技活動や新型車の開発を継続。2025年のダカールラリーでは総合15位を記録し、2026年にはRally2クラスでステージ優勝を果たすなど、実績を積み重ねている。

市販車についても800Xシリーズを拡充する一方、450cc並列4気筒エンジンを搭載する450RRやミドルクラスの625Xシリーズなど、幅広いカテゴリーにラインアップを拡大している。今回試乗した800X TOURINGも、そうしたKOVEの製品展開を象徴する1台だ。

800X TOURING は本格的オフロードモデル800X RALLYをベースにしたアドベンチャーモデルだ。800X RALLYは、オフロードでの走行性能を優先したモデルで最高出力95PSの並列2気筒エンジンを搭載しながら、車両重量はわずか176kg。フロント270mm、リア250mmという長大なサスペンションストロークを確保。21インチのフロントホイールと18インチのリアホイールを採用していた。

今回紹介する800X TOURINGはフロント19インチ、リア17インチとし、サスペンションストロークを前後210mmに設定。シート高もRALLYの895mmから826mmまで下げられて一般的なライダーでも扱いやすくなった。燃料タンクは22Lに拡大し、日本仕様にはサイドケースとトップケースを組み合わせたフルパニアを標準装備。クルーズコントロールやグリップヒーターやシートヒーター、クイックシフターなど長距離ツーリングに必要な装備も充実している。

外装の仕上がりも好印象だった。各部の質感が高い。車体の造形や装備の充実ぶりも含め、所有することへの満足感は十分に得られるだろう。価格は167万8000円(税込)となっている。

800ccツインとは思えないシャープな吹け上がり。スポーツバイクのようなエンジン

800X TOURINGを引き起こした瞬間感じるのは非常に軽いことだ。フルパニアを装着した状態で車両重量は215kg。大型アドベンチャーバイク特有の重さをほとんど意識させない。さらに驚かされるのが足つき性の良さ。大型アドベンチャーバイクに対して、車格で尻込みしている人にとっては大きなメリットになるだろう。

800X TOURINGに搭載されるエンジンは、水冷4ストロークDOHC4バルブの799cc並列2気筒。ボア×ストロークは88.0×65.7mm、ボア・ストローク比は約1.34と、かなりのショートストローク型である。圧縮比も13.0:1と高く、最高出力69.5kW(約94.5PS)を9000rpm、最大トルク79N・mを7500rpmで発生する。こうした数値からは、高回転域でのパフォーマンスにも重点を置いた設計であることが想像される。実際にエンジンをかけてみれば、エキゾーストノートもなかなか刺激的。騒音レベルは公道用モデルらしく抑えられているのだが、スロットルを大きく開けたときの排気音には、スーパースポーツを思わせるエキサイティングな響きがある。初めて大きく空ぶかしをした際には、一瞬ドゥカティのスポーツモデルを連想したほどだ。

だからといってストリートでの乗りにくさはほとんど感じない。街中を流しているときにも十分なトルクがあり、常用回転域でギクシャクするようなことは少ない。分厚いトルクで車体を押し出していくというよりも、回転が軽やかに上昇し、それに合わせて車体がスッと前に進んでいく印象だ。
定速でクルージングしているときには、並列2気筒特有の鼓動感はほとんど感じない。スロットルを開けて負荷がかかったときに2気筒らしいパルスが伝わってくる。通常の走行では非常にスムーズでありながら、積極的に回せばスポーツバイクのような刺激も味わうことができる。
振動については、4000rpm付近で一瞬ハンドルに伝わるものがあり、5000rpmを超えたあたりからはタンク周辺にも微振動が発生する。ただし、どちらも振幅は小さく、走行中に不快に感じるほどではなかった。

回転を上げていくと5000rpm付近からエキゾーストノートが変わり、エンジンが一段と元気になる。勢いよく回転が上昇し、スポーツバイクのような鋭い吹け上がりを見せてくれる。この回転域でのシャープな加速感は、アドベンチャーバイクというよりもスポーツバイクのようだ。

800X TOURINGは電子制御スロットルを採用し、走行状況に合わせた複数のライディングモードを選択することができる。モードによるエンジン特性の違いはかなり大きい。スポーツモードではエンジンのレスポンスが鋭いが、スロットルをわずかに開ける領域、開度8分の1程度までは比較的穏やかな特性となっている。そのため、街中で必要以上にスロットルを開けなければ、スポーツモードのままでも十分に走ることができる。
そこからさらにスロットルを開けていくと、パワーの出方が明確に変化する。エンジンが一気に元気になり、回転上昇も鋭くなる。スロットルの開け方でエンジンの出力特性をコントロールできるのだが、反面、ラフなスロットル操作をしてしまうとギクシャクしてしまうことになる。

エコモードに切り替えてみると、エンジンの性格は大きく変わる。スポーツモードに比べてパワーの立ち上がりはかなり穏やかで、感覚的には他車のレインモードに近い。さらにレインモードにすると、スロットルを大きく開けても加速の立ち上がりが鈍くなり、かなりおとなしいフィーリングになる。個人的には、スポーツとエコの中間くらいのレスポンスが選択できると、ツーリングや街乗りでは使いやすいのではないかと思う。
結果として、街乗りではスポーツモードを多用したのだが、のんびり走ろうとした場合はエンジンブレーキが若干強くかかって忙しなさを感じてしまうことがあった。駆動力が抜けるとき、あるいは再び駆動力が立ち上がるときの変化が大きめなのである。

パワーモードをカスタムにして調整しようとしてみたが、基本となるパワー特性は既存のモードから選択する方式で、スロットル開度に対する出力の立ち上がり方やエンジンブレーキの強さを、細かく独立して調整できるわけではなかった。また、モードを変えてもエンジンブレーキの効き方は変化していない様子。エンジンそのもののポテンシャルは高いだけに、モードの設定にもう少し自由度が欲しいところである。

トラクションコントロールの介入は自然だった。リアタイヤの空転を抑えるために瞬間的に駆動力を制御し、グリップが回復すると速やかに元の加速状態へ戻してくれる。滑りやすい路面に遭遇する可能性のあるツーリングでも、頼もしい装備といえるだろう。
クイックシフターについては、低速からでも使用でき、クラッチ操作なしでシフトアップとシフトダウンを行うことができる。非常に便利なのだが、街中を走るくらいの速度ではアップ、ダウンともに若干のショックを感じることがあった。
また、シフトダウン時にペダルが硬くなり、操作できないこともあった。これはおそらくスロットルを戻した減速状態で、シフトドラムやドッグの負荷が十分に抜けていなかったからだろう。エンジン回転を上昇させるブリッピング制御などによって、ギヤの回転差や駆動系の負荷が抜けた瞬間にシフトするのだが、その制御タイミングが走行状態と合っていないことがある。また、シフトアップでも、点火カットの時間がやや長く感じられる場面があった。エンジン自体が非常にスポーティーで、積極的にシフト操作を行いたくなる特性だけに、クイックシフターの制御がもう少し洗練されれば、走る楽しさは一段と高まるはずだ。

19インチフロントホイールが生み出す絶妙なハンドリング

800X TOURINGの走りで、エンジンと同じくらい印象に残ったのがハンドリングだ。コーナーに進入してバイクを寝かせていくと、車体は自然にバンクしていく。ステアリングが切れ込んだり、ハンドルを押さえつけていなければいけないような癖は皆無。ライダーが進みたい方向を意識して車体を傾ければ、その方向に向かって素直に旋回していく。しかもバンク中の安定感が高い。ハンドルに余計な力を入れなくても、狙ったラインをしっかりとトレースしてくれるため、ライダーはリラックスして走ることができる。しかも車体が軽いから実に軽快にワインディングをクリアしていくことができる。低速から高速までハンドリングは、軽快かつ素直そのものである。オンとオフを考えたタイヤはコーナリング中の接地感も十分にあり、バンク角が増えても車体の動きが変化することもない。

前後に装備されたKYB製サスペンションは動きがしなやか。荒れた舗装路や細かなギャップを通過するときにも、路面からの衝撃がライダーに伝わるような硬さは少ない。長いストロークを持つアドベンチャーバイクでは、ブレーキングや加速時に大きく姿勢が変化するモデルもあるが、800X TOURINGのサスペンションは適度にダンピングも効いていて、ふわふわとした動きにもならない。ツーリングで知らない道を走るときは、このハンドリングの良さが大きな武器になることだろう。

フロントブレーキは片押し2ポットのキャリパーをダブルで採用している。ブレーキのタッチは、初期制動からガツンと効く鋭いタイプではなく、レバーを握り込む量に応じて制動力が立ち上がる。比較的穏やかな特性でブレーキ操作に神経質にならずに済む。

1週間使ってわかった、日常での扱いやすさ

今回、800X TOURINGを約1週間使ってみて、改めて魅力を感じたのが日常での扱いやすさだった。大型アドベンチャーバイクは長距離ツーリングでは非常に快適だが、車体が大きく重いため、ガレージから車体を引き出すだけでも少々億劫になることがある。
その点、800X TOURINGは非常に気軽に乗り出すことができる。車体が軽く、足つきも良いので、近所の買い物に行くのも特別な気構えが必要ない。フルパニアの積載能力も高く、日用品や食料品の買い出しでは大いに活躍してくれた。しかも走り出せば、スポーツバイクのような鋭いエンジンと軽快なハンドリングが楽しめる。普段の移動そのものが楽しくなるのである。
テスターであるゴトーの自宅には、家族が共同で使用するスクーターもあるのだが、800X TOURINGがあった一週間は結局1度もスクーターを使うことはなかった。それくらい気軽に走ることができるアドベンチャーモデルということである。

主要諸元(メーカー公表値)
項目 KOVE 800X TOURING
エンジン 水冷4ストローク並列2気筒DOHC8バルブ
排気量 799cc
ボア×ストローク 88.0×65.7mm
圧縮比 13.0:1
最高出力 69.5kW/9000rpm
最大トルク 79N・m/7500rpm
変速機 6速
全長×全幅×全高 2230×930×1395mm
ホイールベース 1520mm
シート高 826mm
最低地上高 230mm
車両重量 215kg(3ケース含む)
燃料タンク 22L
フロントタイヤ 110/80-19
リアタイヤ 150/70-17
サスペンション 前後KYB製、ストローク各210mm
価格(税込) 167万8000円

ポジション&足つき(身長178cm 体重78kg)

シート高は低いが膝の曲がりはそれほどキツいという印象ではない。シートは座面がフラットで、クッションもやや硬め。長時間乗っていると、もう少しスポンジが柔らかくても良いのではないかと感じることがあった。

800X TOURINGのシート高は826mm。実際に跨がってみると、アドベンチャーバイクに乗っていることを忘れてしまいそうになるほど足つきが良い。重心位置や重量配分の良さもあり、車体を左右に傾けても、ある角度から急に重くなるような感覚もない。

ディテール解説

799ccの水冷4ストロークDOHC並列2気筒エンジンを搭載。ボア×ストロークは88.0×65.7mmというショートストローク設計で、最高出力は69.5kW(約95PS)/9000rpm、最大トルクは79N・m/7500rpm。大排気量ツイン特有の重厚なトルク感よりも、軽快でシャープな回転上昇が印象的だ。特に5000rpm付近からは排気音が変化し、スポーツバイクのように一気に吹け上がる。

 

リアホイールは17インチのクロススポークタイプで、タイヤサイズは150/70-17。21/18インチを採用する800X RALLYに対し、TOURINGは前後ホイール径を小さくすることで舗装路での操縦性を重視した。スポークホイールながらチューブレスタイヤに対応する構造で、長距離ツーリングにおけるパンク修理のしやすさもメリット。リアブレーキにはシングルディスクを採用する。

 

車体右側に配置された大型のアップタイプマフラー。サイレンサーは後輪よりも高い位置に収められ、アドベンチャーバイクらしいレイアウトとなっている。排気音は十分に消音されているものの、スロットルを大きく開けるとスポーツバイクを思わせる刺激的なサウンドを発する。

 

フロントには110/80-19サイズのタイヤを装着し、ブレーキは左右ダブルディスクを採用する。キャリパーは片押し2ポットで初期制動の鋭さよりもコントロール性を重視したブレーキタッチ。

 

799cc並列2気筒エンジンは高回転域まで伸びやかに吹け上がる一方、低中速域でも十分な駆動力を発揮。電子制御スロットルによって走行モードに応じた出力特性の切り替えも可能だ。

 

ロッドで連結されたシフトペダルとリンク機構を備え、クラッチ操作を行わずにシフトアップ、シフトダウンが可能なクイックシフターを標準装備する。試乗では低速域から使用できたものの、シフトチェンジ時に若干のショックが発生する場面があった。また、減速中のシフトダウンではペダルが硬く感じられることもあり、制御の熟成にはもう少し余地があるように感じた。

 

リアサスペンションにはKYB製モノショックを採用し、ホイールトラベルは210mmを確保。長いストロークを生かして路面の凹凸をしなやかに吸収しながら、コーナリング中も安定した車体姿勢を維持する。

 

日本仕様の800X TOURINGには、左右サイドケースとトップケースからなるフルパニアを標準装備。角型のハードケースは車体後部にしっかりと固定され、荷物の積載性と耐久性を重視した構造になっている。日常の買い物からロングツーリングまで、用途の幅を大きく広げてくれる装備だ。

 

上開き式のサイドパニアケースは、開口部が大きく、上から荷物を出し入れしやすい構造。ケース内部は比較的シンプルな角型となっており、衣類や工具、キャンプ用品などを効率良く収納できる。

 

リアに標準装備されるトップケースは上開き式で、開口部も広い。オフロード用ヘルメットを収納できる大きさになっている。

 

車体後端に装着される角型トップケース。コーナー部を補強した箱型デザインで、蓋にはロック機構が備わる。

 

シート高は826mmで、大型アドベンチャーバイクとしては非常に低い設定。800X RALLYの895mmに対して69mm低く、跨がったときの安心感は大きい。座面は比較的フラットで前後方向に着座位置を調整しやすい一方、クッションはやや硬めに感じられた。シート後方には大型のグラブレールも備える。

 

シートを取り外すと、リアフレーム上部の電装品や配線が現れる。800X TOURINGはタンデム走行やフルパニア装着を前提としており、軽量化を優先して1人乗りとした800X RALLYとはリア周辺の設計思想が異なる。

 

800X TOURINGは電子制御スロットルを採用し、ライディングモードやトラクションコントロールなどを備えるほか、長距離走行に便利なクルーズコントロール、グリップヒーターも標準装備されている。こうした機能は左のスイッチボックスで走行中に操作することができる。

 

右ハンドルにはエンジンの停止・始動に関するスイッチが配置され、手元にはフロントブレーキのマスターシリンダーとリザーバータンクも確認できる。電子制御スロットルの採用により、走行モードによってスロットル開度とエンジン出力の関係を変更できる。

 

幅広いテーパーハンドルと大型の縦型ディスプレイ、ウインドスクリーンを組み合わせたコックピット。ハンドル位置は比較的高く、上体を起こした自然なライディングポジションとなる。燃料タンクは22Lの容量を確保しながらも、ライダーが跨がる部分は絞り込まれている。

 

フロントフォークはプリロードとダンピングの調整が可能。走りに応じてサスペンションの特性を変えることができる。

 

アンダープラケットに装着されたステアリングダンパー。ハンドルが急激に振られたときに動きを減衰させる装置で、荒れた路面でのキックバックや高速走行時の安定性に寄与する。

 

縦長の大型フルカラーTFTディスプレイを採用。写真では中央に速度、その下にニュートラル表示、上部にエンジン回転数が表示されている。複数のライディングモードやトラクションコントロールなどの電子制御が備わっており、これらの設定や走行情報を集約して表示する。大きな画面は走行中の視認性にも優れる。

 

車体後部には横長のLEDテールランプを採用。複数の発光部分を持つデザインで、コンパクトながら後方からの被視認性を確保している。

 

左右独立した鋭い形状のLEDヘッドライトと、上方に伸びる大型ウインドスクリーンが特徴的なフロントマスク。エンジンガードも備わり、アドベンチャーバイクらしい力強い外観となっている。