上野高広の想いが詰まったレクサスRC
妥協なき軽量化で車重は1300kg台へ突入!
D1GP黎明期のJZZ30ソアラを駆るシーンに代表されるように、横浜ベイエリアにルーツを持つストリートドリフトスタイルの延長として、“ハイソサエティかつスポーティなマシン”=“重量級2ドアクーペ”というパッケージに拘り続けてきた上野選手が、2019年にレクサスRCへの乗り替えを選択したことは、まさに正統進化と呼べるものだった。

しかし、ソアラからレクサスRCへ車体が高年式化したことによって、ボディに使われる金属の材質も変化。高張力鋼板が多用されるフロアパネルなど、ボディ全体を通じて軽量化のためにカットできる部分が極端に少なくなってしまったという。
ルーフパネルのカーボン化、ドアをFPPに、ウインドウをポリカーボネイトに置き換えるなど可能な限りの軽量化を施したものの、公式車検で計測される車重はかつて20インチタイヤを装着していた時代には1400kg台前半、19インチになって1380kg前後といい、いずれも参加選手中最重量。レギュレーション上で285幅タイヤを使える下限となる1275kgを目安にマシン製作するチームと比較して、約100kgのウエイト差を抱えての勝負を続けてきた。

「でも、重いクルマなのはD1に車重制限もないソアラの頃からずっとなので、セットアップもそうだし、そのための走り方に慣れていますから。クルマが重いと進入で気を使わなきゃいけないことが増えるんです。振り出しで大きい慣性が働くから、軽いクルマと比べて一気にリヤ荷重になってしまうので、それを上手くコントロールしなければいけない。分かりやすいのが僕のオートポリスの単走。進入は、リヤが浮いてるほど前荷重を残したまま入ってきているのが分かると思います」と上野選手はその走りの違いを語る。

また、進入がシビアになるだけ、サーキットによって得意不得意の差が現れやすいのもヘビーウエイトなマシンの特徴とのこと。さらにセクター分けされた審査区間の中、大会中どのセクターに比重をおいたセッティングをするかが、他のセクターの点数にも影響するため、より合計点が高くなる組み立てを探すことも求められるという。
1号機が戦い抜いた6年間のシーズンを振り返った時、まず調子が上向いたのはRC投入の2年目となった2020年シーズンだった。この年はサイルンタイヤの導入に併せ、リヤタイヤに大径の20インチを採用。これが重量級ボディの動きを受け止める形でマッチし、8戦中7戦で予選通過する安定した成績を残した。そして、同じパッケージで迎えた翌年は最終戦オートポリスで準優勝の活躍も見せた。
だが、その一方で最終戦の直前、奥伊吹での斎藤選手とのクラッシュが原因となり、2022年はマシンがどん底の絶不調が続くこととなる。「修正しきれないほどフレームが大きく歪むクラッシュでした。真っ直ぐ走るように直せたものの、ドリフト中の動きも安定せず、急にハンドルも固まっちゃう。パワステポンプとか色々パーツを変えたけど全く良くならなくて、もうボディを換えるしかないのかなって思っていました」と上野選手。
「原因が分かったのが2022年の後半戦かな。左右のホイールベースが変わるほどのクラッシュだったから、それをアームの長さで帳尻を合わせて直したんです。そのせいで左右のキャスターに大きな差がついていたのが原因でした。そこを上手くやってから動きは良くなったんですけど、ちょっと時間が掛かりすぎましたね」。

そして、翌2023年はティーアンドイーがマシンメイクとチーム運営をサポートするタイ人ドライバーの人数が増え、さらにメインメカニックの不在によって、シーズン中は全く自分のことに手が回らなかったと振り返る。結果は全戦で予選落ちという屈辱の年となってしまった。
だからこそ、2024年は再起をかけ、マシンのセットアップにもチーム体制の再構築にも力を入れた。現場でのセットアップ能力を信頼し、旧知の仲として全幅の信頼を置くメカニックの海老原氏を再び招集。それまで20インチを続けてきたタイヤサイズを19インチに変更するのに伴い、シーズン前のテストでは海老原氏との二人三脚で車高調、バネのセットを大きく変えて挑んだ。
するとそれは結果に繋がり、第3戦筑波では準優勝、そして第7戦オートポリスは雨を制しての単走優勝という、レクサスRCの1号機のラストイヤーは充実したものとなった。


ここで1号機の全貌を見ていこう。RCのデビューに向けて製作されたヴェルテックスのスーパーエッジキットで武装。20インチから19インチへのタイヤサイズの変更は主に供給されるホイールによるものだったというが、絶対的なグリップ力よりも振り出しの慣性が減ってコントロールしやすい19インチのメリットが勝ったという。
エアロに追加されたアンダーパネルも自社製。続く2号機はカラーリングが白と赤を基調としたものになる他、ヘッドライトがアグレッシブさを増す後期型となる。

ブライアンクロワーの3.4Lストローカーキットによって排気量アップした2JZ-GTEに、GTX4294Rタービンを組み合わせ常用2.2キロで約1000ps弱を出力。これには一般的なレースガスと比較して40%の出力アップが見込めるエルフのPERFO105レースガスが大きく寄与しているとのこと。

2号機でタービンはG40に変更となる。少しサイズが小さくなるものの、設計が新しくなったことで設計上のピークパワーは同じ。パワーに不満はなく、どのコースでもECUセッティングは変えずに挑んでいた。

ラジエターおよびオイルクーラーはトランク内にレイアウト。電動ファン2機をインストールできるヴェルテックスのカーボンシュラウドにて、リヤウインドウからバンパー下へ導風される。

調整幅が大きいマックスドリフトのRC用アングルキットを初年度から使用。アッパーアームとナックルをつなぐアップライトに工夫があり、キャスターが寝すぎていた純正位置から、左右のアップライトを交換し逆に取り付けることで、より垂直に近い素直な動きをするジオメトリーに変更した。

ステアリングラックを30セルシオ用に変更しつつ、マウント部に溶接されたカラーによって前方にオフセットして切れ角アップによる逆関節を防ぐ。

リヤのアームキットもマックスドリフト。車高調は2023シーズンからレーシングギアに変更し、地面に張り付くようなトラクションを常に感じていられる足に。2024年は数種類のバンプラバーを試し、追加したことでコントロール性が増したという。

前後にプロジェクトμのキャリパーとパッドを使用しつつ、車重の重いクルマは特にフットブレーキによる荷重コントロールがキモとのことで、室内からマスターシリンダーの前後配分を調整可能なブレーキバランサーを取り付けている。


余分なものは可能な限り取り外しつつ、FRPドアやカーボンルーフ、ダッシュボードを採用するといった努力を行なうも、走行重量はD1GP参加車両で最も重い1380kg前後を記録。その一方で、ヴェルテックスのロゴが切り抜かれたサイドバープレートを使用するなど、魅せるための工夫も抜かりない。

軽量化への拘りは、リヤウインドウはもちろん、フロントウインドウの素材にもポリカーボネートを使用するほど。1号機でボディ剛性は十分すぎることが分かったため、2号機のロールケージはレギュレーションに必要な最小限に点数を減らすことに。

今年の開幕戦でD1GPの180戦目を迎えるに当たり、かねてより関係者には200戦を節目とした引退と、すでに別カテゴリーで頭角を表しつつある息子の上野亜斗瑠選手へのバトンタッチする意思を明かしている上野選手。2号機レクサスRCとともに、ラストランへ向けた長い助走がこれから始まっていく。
TEXT:Miro HASEGAWA (長谷川実路) /PHOTO:Miro HASEGAWA (長谷川実路) &Daisuke YAMAMOTO(山本大介)

