唯一の燃料電池車(FCEV)を設定するクラウンセダン

振動遮断を徹底し静粛性向上、専用足まわりで乗り味も格別

クラウンシリーズのなかで、セダンだけ異色だ。クロスオーバーとスポーツ、エステートはパワートレイン横置きレイアウトのGA-Kプラットフォームを採用するのに対し、セダンはパワートレイン縦置きのGA-Lプラットフォームで設計されている。いわば、15代目までのクラウンの伝統を受け継いだ格好。GA-Kのクラウンは「静粛性、快適性、上質さ」のクラウンネスを受け継ぎながら、新世代のクラウンらしい個性が与えられている。短い言葉で表現するなら、クロスオーバーはフラット感が持ち味。スポーツは走りが身上。エステートは仕事にも遊びにも使える間口の広さが魅力だ。セダンはハードウェアの成り立ちだけでなく、走りも異色。パワートレイン縦置きプラットフォームだから自然とそうなるのか、それとも開発陣が意図して狙ったのかは定かではないが、歴代クラウンの乗り味を想起させるセダンの王道とも言える乗り味が味わえる。どことなく懐かしさを覚え、いい意味で古典的だ。

プラットフォームはGA-Lであることは説明済みだが、もっと細かく言えば、ベースは燃料電池車(FCEV)のMIRAIである。これをクラウンセダンとして仕立て直すにあたり、ホイールベースを80㎜延長した。延長分はすべて後席居住性に与えている。ショーファーカーとしての需要を想定したものだ。開発にあたっては「ニューフォーマルセダン」をキーワードに掲げ、リアホイールハウスまわりの局部剛性を確保。環状構造などで前後車軸間のねじり剛性を高めた。さらに、キャビンまわりに高減衰構造接着材、ボディ骨格に高剛性接着材を採用し、ロードノイズの低減と乗り心地の質感向上に取り組んでいる。MIRAIをベースにただホイールベースを延長したわけではなく、新世代のクラウンにふさわしいクラウンネスを与えるため、大がかりな手を入れた。ホイールベースの延長で後席居住性を向上させたとはいえ、実際に後席に乗り込んでみると、空間的な余裕はさほど感じられない。ショーファーカーのスタンダードとなっている感すらあるアルファード/ヴェルファイアのような高級ミニバンと比較すると、不利な面は否めない。

しかし、オーナーカーの視点でクラウンセダンを眺めると、異なる評価になる。セダンにはFCEVのほかに、2.5Lハイブリッド車が設定されている。クロスオーバーとエステートにも2.5Lハイブリッド車の設定はあるが、両車がハイブリッドシステムで前輪を駆動し、モーターで後輪を駆動するモーター4WDなのに対しセダンは後輪駆動だ。

セダンの2.5Lハイブリッド車を開発するにあたっては、モーター駆動ゆえに静粛性が高く、振動・騒音面でも有利なFCEVに匹敵する静粛性の確保と振動感の低減を目標とした。この目標を達成するために、エンジン起因の振動遮断を徹底。さらに、王道セダンらしい走りと乗り心地を実現するため、サスペンションをチューニング。ばねとスタビライザーの剛性はクロスオーバーに対してややソフトにセッティングしている。結果、かつてクラウンを表現するのによく用いられた「クッションがいい」乗り味を実現している。

唯一の燃料電池車を設定、後席の乗り心地は最上級

ほかのクラウンシリーズに対してセダンのもっとも優れたポイント。それは乗り心地である。

クラウンといえばフォーマルのセダンとしていつの時代も乗り心地を重視して作られてきた。ショーファードリブン(運転は運転手に任せて主は後席へ座る使い方)として使われることもあり、いかに快適に移動できることが大切。そのため国産最高峰を狙った乗り心地としてきた。現行クラウンシリーズのなかで、その血筋がもっとも色濃く継承されているのがセダンというわけである。「とにかく乗り心地のいいクラウンを!」というなら、セダンを選ぶべきなのは言うまでもないだろう。

何を隠そうクラウンセダンの基本的な車体設計は燃料電池車MIRAIと共通だ。しかし方向性の違いからあえて変えている部分もある。たとえば構造用接着剤。昨今のクルマは鉄板と鉄板の継ぎ目に接着剤を塗布することがあり、MIRAIは剛性アップによる走行性能向上を狙って固まると硬くなる「高剛性接着剤」を使用。いっぽうクラウンセダンでは固まっても堅くなりすぎないことで細かい振動を吸収して乗り心地をよくする「高減衰タイプ」としているのである。そんなところまでこだわり、つくり分けているのだから驚くしかない。MIRAIとの違いでいえば、クラウンセダンはホイールベースも80㎜伸びている。そのすべてが後席足元スペースの拡大に使われているのだから、足元は広々。従来のクラウンが担っていたようなショーファードリブンニーズもしっかり満たすのがこのセダンなのだ。

現在はクラウンクロスオーバーにも追加採用されているものの、後席の乗り心地を最優先する走行モード「リアコンフォートモード」をクラウンで最初に組み込んだのも、このセダンだった。それらがもたらす後席の座り心地の良さと言ったら、目をつむればすぐに寝てしまいそう……というか、後席試乗中にもかかわらず眠りに落ちてしまいそうになったのはここだけの内緒だ。

しかし、である。だからといって運転が全くつまらないかといえば決してそうではないのが新型クラウンシリーズに共通する美点であり、セダンだって例外ではない。高速域においても走行時の安定感が抜群に高いうえに、ステアリングを切ると反応の遅れがなくスムーズに曲がっていくのが好印象。スポーツほど機敏ではないとはいえ、ひとたびドライバー側にまわれば運転する気持ちよさもしっかり味わえるのだ。

ところで、そんなセダンには2つのパワートレインが用意されていて、そのうちひとつはクラウンシリーズのなかでセダンだけにしか搭載のないタイプだ。ガソリンではなく水素を充填して走る燃料電池である。

確かにハイブリッドモデルでも、セダンに積むシステムは「マルチステージ式」。(「RS」を除く)クロスオーバーやスポーツ、そしてエステートが積む「シリーズパラレル式」に対して加速時のダイレクト感やキレのよさを体感でき、ドライバビリティは秀逸。しかし、滑らかさに関しては、燃料電池車の方が明確に優位。つまり、後席の快適性を重視するならば燃料電池車のほうが魅力的だ。

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