“親子対決”へ向けたプロローグが始まった!

最強DNAを継ぐS13が、D1GPの舞台に!

古くから最高速やドラッグチューンの最前線で活躍し、多くの実績を積み上げてきた「オートサービス森」。ドリフトでは高山選手×レクサスGSの時代を経て、北岡選手×JZX100マークⅡという体制で、D1GPへのチーム参戦を10年以上にわたり継続してきた。

チーム代表の森さん自身も、D1ライツなどのカテゴリーに参戦していたが、2024年はD1GP、D1ライツともに活動を休止。すると次第に、周囲からは今後のチーム運営において、若手ドライバーを育ててほしいという声が聞こえるようになったという。

一方、2024年の中村 龍選手はというと、前年のD1地方戦ウエストシリーズで2位に入賞し、D1ライツ出場権を獲得済み。最終的な目標であるD1GP出場ライセンスを得るためには、D1ライツでの上位入賞が必須となる。龍選手は、15歳から父の英才教育のもとで走り込みを重ねてきた名阪スポーツランドCコースで、9月のD1ライツ名阪大会での活躍を目指していた。

そんななか、森さんと龍選手の父・中村直樹選手は旧知の仲。将来有望な若手ドライバーを迎え入れたい森さんと、息子をD1GPに出場させたい直樹選手の思惑が一致し、名阪ラウンドが始まる前には「もし龍選手が優勝するほどの活躍を見せた場合、来年はチーム・オートサービス森からD1GPに出場する」との話が交わされるようになる。

そして、土日開催の大会2日目で龍選手が実際に優勝。その約束は現実のものとなった。

スポンサーの最終決定は2025年に入ってからで、車両製作は2月からの約2カ月という短期間で急ピッチに進められたという。完成したマシンは、龍選手が「全部が完璧すぎて何も言うことがない」と恐縮するほどの仕上がりだった。

ベース車両には、龍選手が父の影響で「最も好きな車種」と語るS13シルビアを選択。ハイパワーに耐えるため、ボディはホワイトボディ化してフルストリップ状態からフルスポット増し補強を実施。ロールケージは安全基準を満たす最小限に抑え、適度なしなやかさと剛性を両立させている。

エンジンには、オートサービス森のノウハウが詰まった2JZ-GTE改3.4Lをスワップ。レース燃料の性能を最大限に引き出すため、市販のキットではなく、ピストンやコンロッドは海外メーカーに製作を依頼したオリジナル品を使用。通常の2JZとは一線を画す性能とサウンドを実現している。燃料はE85とスノコGTプラスのハーフミックスを採用。

タービンにはG35サイズのGT6290_BBを選定し、約800psの出力と扱いやすさを両立。リンク製ECUは初期型のテンダを愛用しており、ポート数の多さが決め手となっている。

フリクションロス低減を狙ってドライサンプキットを導入。副次的効果として油圧の偏りも解消しており、レブリミットは現在8400rpm。龍選手の慣れに応じて8600rpmまで開放予定だ。配管は最小限に抑え、オイルタンクは助手席のバルクヘッド付近に配置。

足回りは父・直樹選手の思想が反映されている。リヤはトラクション性能を最大化するため、ワイズファブ製アームキットを導入。ジオメトリー変化を抑えつつ、S15メンバーを用いて車体姿勢を前傾にすることでさらなるトラクション向上を狙う。

フロントには、龍選手が慣れ親しんだ純正加工タイプのNスタイル製ナックルを採用。ワイズファブなどのアングルキットよりもフィーリングに優れると判断し、延長ロアアームは25mm延長に留めて過激すぎない仕様としている。

サスペンションには、森さんが廣田選手のヴェロッサを整備していた時代から愛用するDG-5を選択。直樹選手もかつて競技車両に使用していたブランドであり、両者の共通点が現れている。マシンのセットアップにこだわらない龍選手に対しては、森さんが現場でスポッター兼監督としてセッティングを担当。

現場でのファイナルギア交換を迅速に行うため、クイックチェンジを導入。取り付けに際してリヤメンバーの大加工が必要となるが、レイアウト次第でドライブシャフトへの負担やトラクション特性が変化するため、なるべく純正に近く、シャフトが上・前方向に角度を持つレイアウトを採用している。

ミッションは、強度よりもシフトフィーリングを優先してサムソナス製5速をチョイス。D1GPに帯同する直樹選手とスペアパーツの共有が可能な点も考慮されている。

4月、エキシビション的に開催された「D1GPラウンドゼロ 富士スピードウェイ」では、国際コースも初、マシンも初、さらには2JZ搭載車での走行も初という“初尽くし”の状況ながら、わずか4本程度の練習走行を経て単走決勝で2位を獲得。続く追走では3位入賞という鮮烈なデビューを飾った。

続く開幕戦・奥伊吹での活躍も期待されたが、初日のマシントラブルによるクラッシュで2日間の練習走行ができず、予選では天候にも恵まれず、単走敗退という悔しい結果に。

それでも、1本ごとに進化していく龍選手の高い適応力からは、近い将来に中村直樹選手との“親子対決”が現実になる予感を、誰もが感じずにはいられなかった。

TEXT:Miro HASEGAWA (長谷川実路) /PHOTO:Miro HASEGAWA (長谷川実路) &Daisuke YAMAMOTO(山本大介)

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