テキサス生まれの若者が作り上げた意外性溢れるドラッグマシン!
1400馬力オーバーのIS300スポーツクロスがテキサスをブチ抜く!
アメリカでは初代のレクサスISとして販売されていた、トヨタのアルテッツァ。ワゴンボディのアルテッツァ・ジータも『スポーツクロス』という車名で展開されていた。

北米仕様のレクサスISはセダンもスポーツクロスも、ともに2JZ-GE型の3.0L直6を搭載したIS300のみをラインナップ。日本仕様のアルテッツァにあった3S-GEや1G-FEは設定されていなかった。
アメリカで人気の高い(というか日本でもそうだが…)2JZ搭載モデルと言えば、何はともあれJZA80型スープラ。だが、もはや若い人には手が届かないため、手頃な価格でJZチューンを楽しめるベースとしてIS300は格好の存在と言えるわけだ。

今回紹介するIS300スポーツクロスのオーナー、アンドリュー・ドゥも、かつてはスープラへの憧れを抱きながら、IS300でパワーチューンとドラッグレースを楽しんでいるクチだ。
「中学生の時の友達がやたらスープラが好きで、ずっと2JZが凄いって聞かされてきたんだ。だから、きっとそうなんだろうって刷り込みがあったんだけど、実際にクルマを買う時に、よく考えたらIS300も2JZじゃんって気づいちゃったんだよね(笑) それで最初はセダンを買ってワイドボディにしたり、ドラッグレースに出たりして遊んでたんだよ」。
そんなアンドリューにとっての初号機だったIS300セダンはレースでクラッシュさせてしまったのだが、次なる二号機として選んだのもまたIS300のスポーツクロス。理由は「安かったから」と単純明快で、セダンに使っていた部品を移植しながら、新たなパワーチューンに取り組んでいった。



もともとIS300スポーツクロスに搭載されている2JZ-GEに、スープラ・ストアのターボマニホールドを使ってプレシジョン8385タービンをマウント。ボンネットの一部を躊躇なく切って、フレッシュエアの吸入口も設けてある。
エンジン本体もビレット削り出しのピストンやメインキャップ、BCの276度カムシャフトなど、数多くの強化パーツを投入。シリンダーブロックにはディーゼルターボのパワーチューンなどによく使われる、ファイヤーリング加工も施した。シリンダーライナーのトップ部分に耐熱素材のリングを差し込み、燃焼室の気密性を高めているのである。

インテークはパワーハウスレーシングが展開するキットを活用し、無骨で大容量なサージタンクとロス・マシン・レーシングの大口径スロットルボディを装着。


AEMエレクトロニクスの高出力ダイレクトイグニッションコイルを使って点火力も高めている。広いラゲッジルームには17ガロンの燃料タンクをセットし、右サイドにワンオフのオイルキャッチタンクを配置。出口がまるでエキゾーストパイプのようだ。
これらのチューニングと耐久性強化により、なんとブースト圧52psi(約3.65キロ)で1411hp(約1430ps)という驚異的な最高出力をマーク! その途方もない力を極限まで解放できる場所はドラッグレース場をおいて他になく、地元テキサスの一大イベントであるTX2Kのロールレーシングにも参加。時にはハイウェイで最高速にチャレンジし、周囲のクルマを置き去りにしている。


タイヤ・ホイールは前後で異なり、フロントは17インチのボルクレーシングTE37とプロクセスR888Rの組み合わせ。リヤは15インチのウェルドレーシングにミッキートンプソンのETストリートS/Sを履かせている。ディファレンシャルをフォードの8.8インチに換装して強化する方法も採用する。
一方のトランスミッションは、フロリダにあるグラナスレーシングがオリジナルで展開する強化型のトレメック製T56マグナムトランスミッションをインストール。カーボン製のプロペラシャフトで接続し、アクスルも強化型に置き換えられている。


ボディを覆うラッピングはオーナーであるアンドリューの本職。以前の仕様ではブルーとパープルのグラデーションだったが、気が向いた時にイメチェンするのも趣味のひとつだそうだ。前後のスプリッター、カナードなどのちょっとした空力パーツを備えるほか、ドラッグシュートと同時装着ができるリヤハッチマウントのGTウイングも、その時の気分によって付けたり外したりしている。



エンジンの作り込みや見た目の派手さに反して、インテリアは至ってシンプル。ノーマルシートにレーシングハーネスを備え、後方のクロスバーに消火器をマウントするところが唯一目を引くポイント。メーターはフューエルテックのECUに付属するディスプレイで、燃圧やタイヤ空気圧もモニターできる。ハンドルの左側には別売りのO2センサーコントローラーを備え、手元で空燃比を調整することができる。

「娘が産まれてから何かと物入りで、最近はあまり乗れてないんだけど、ラッピングは自分でできるからたまに色変えしてるんだよ。今のオレンジの前はブルーだったから、今度は赤にしてみようかな(笑)」。
内容はハードだが、ノリはユルくチューニングライフを楽しんでいる様子のアンドリュー。アメリカ人には珍しいシャイな性格の持ち主だが、インスタにはストリートをぶっ飛ばしまくっている動画もアップされており、おとなしいのか激しいのか、とにかく掴みどころがない。ちなみにその時に記録した60-130mph(約96-209km/h)加速は4.4秒!
“SLOW 2JZ”と書かれたテキサスナンバーもダミーではなく、正真正銘のストリートリーガルだ。なぜ「スロー」なのか聞くと、ストリートレースを挑んでくる相手をはぐらかすのが目的なのだとか。街中で出会っても易々と挑まない方がいいぞと、テキサスのプライベーターたちには忠告しておきたい。
PHOTO:Akio HIRANO/TEXT:Hideo KOBAYASHI

