Zoom-Zoomの技術戦略としてSKYACTIVが誕生

マツダは、2001年10月の東京モーターショーで新しいブランドメッセージ「Zoom-Zoom」を発表した。これは、走る歓びを追求したマツダらしいクルマづくりを指し、それを具現したクルマとして、「アテンザ」や2代目「デミオ」、「アクセラ」と続々とデビューさせた。

2007年には、ブランド価値をさらに高める「サステイナブル“Zoom-Zoom”宣言」を策定。これは、地球環境や交通環境のサスティナブルな未来に向けた技術開発に取り組み、ブランド価値をさらに高めるという宣言である。
これを具現化するために掲げられた目標は、当時注目されていたハイブリッドなどの電動化技術に対抗して、独自の技術で世界一のクルマづくりを目指すというもので、ここに新たな技術戦略“SKYACIV“が誕生したのだ。
そして、2009年の東京モーターショーでマツダはSKYACTIVコンセプトを公開し、2010年10月に正式に新世代技術として発表された。
SKYACTIVを構成する7つの技術

SKYACTIV最大の特徴は、エンジン、トランスミッション、ボディ、シャシーそれぞれの基本技術をすべてゼロから見直し、車両全体を包括的に刷新していること。基本的には、次の7つの要素から成る。

・“SKYACTIV-G“:世界一の高圧縮比14.0を実現した高効率直噴ガソリンエンジン
・“SKYACTIV-D“:世界一の低圧縮比14.0を実現したクリーンディーセル
・“SKYACTIV-DRIVE“:スムーズな変速と高い伝達効率を達成したAT
・“SKYACTIV-MT“:軽快なシフトフィールと大幅な軽量、小型化を実現したMT
・“SKYACTIV-BODY“:高い剛性と衝突安全性を確保した軽量車体
・“SKYACTIV-CHASSIS“:正確なハンドリングと快適な乗り心地を両立した軽量シャシー
・“SKYACTIV-VEHICLE DYNAMICS“:エンジン、トランスミッション、ボディ、シャシーなどの個々のユニットを統合制御することで、「人馬一体」の走行性能を実現


SKYACTIV技術の中核をなすSKYACTIV-GとSKYACTIV-Dの凄さ
SKYACTIVの中でその中核となるのは、従来にない新たな発想で作り上げたガソリンエンジンとディーゼルエンジンである。
SKYACTIV-G(ガソリン)の技術

ガソリンエンジンでは、熱効率向上のために圧縮比を上げるとノッキングが発生しやすくなるため、圧縮比の向上には限界があり、2010年当時の圧縮比は高くても12.0程度だった。SKYACTIV-Gでは、高圧縮比14.0を実現するため、ガソリン気化促進のための6噴口噴射弁による直噴システム、燃焼温度を低減するためのクールドEGR(排ガス再循環)、排気ガスの吸い出し効果を高める4-2-1排気マニホールドなどが採用された。
その他にも、VVT(可変バルブタイミング)採用によるポンピング損失の低減、ピストンやクランクなどの徹底した軽量化によって、従来エンジンに対して燃費とトルクを約15%向上させた。
SKYACTIV-D(ディーゼル)の技術

ディーゼルエンジンは、ガソリンよりも熱効率が高く燃費が良いという大きなメリットがあるが、一方で課題は排ガスのNOxとPMの低減が難しいこと。これを解決するためSKYACTIV-Dは、当時一般的であったディーゼルエンジンの圧縮圧17.0~18.0を14.0まで下げた。圧縮比を14まで下げることによって、着火遅れが長期化して軽油の噴霧と空気の混合が促進され、さらに燃焼温度が下がるため、NOxとPMの同時低減ができるのだ。
圧縮比14を実現するため、多噴口の高圧噴射弁で複数回に分けて噴射する分割噴射による低温始動性の改良、VVTを使って吸気行程中に排気バルブを少しだけ開いて排気ガスをシリンダー内に逆流させて混合気の温度を上昇させて着火性を改善するなどの手法が採用された。
さらに圧縮比を下げると最大シリンダー圧が下がるので摺動部品の強度低減や軽量化ができるため、フリクションが下がり、燃費を約20%向上させることに成功したのだ。
SKYACTIV技術をフル採用したCX-5
SKYACTIV技術を最初に採用したのは、2011年の3代目「デミオ」のSKYACTIV-G。その後、「アクセラ」にも展開し、すべてのSKYACTIV技術が採用されたのがCX-5である。

CX-5のスタイリングは、デザインコンセプト“魂道”に基づいた欧州テイストのダイナミックなフォルムを採用。パワートレインは、2.0L直4 DOHCガソリンエンジン(SKYACTIV-G 2.0)、および2.2L直4 SOHCディーゼルターボエンジン(SKYACTIV-D 2.2)の2機種と、新世代6速AT(ACTIV-DRIVE)および5速MT(SKYACTIV-MT)が組み合わされた。もちろん、SKYACTIV-BODYやCHASSIS、VEHICLE DYNAMICSも適用された。

車両価格は、標準グレードで205万円(SKYACTIV-G 2.0)/258万円(SKYACTIV-D 2.2)に設定。発売当時は、SUV市場が盛り上がりを見せ始めた時期で、躍動感のあるスタイルと高い走行性能と優れた燃費性能が評価され、SUVの販売トップを記録するなどマツダ躍進の火付け役となり、CX-5は基幹モデルへと成長した。

その後もSKYACTIV技術は、マツダを代表する中核技術としてモデル展開され、2019年発売の「MAZDA3」では、“SPCCI(火花点火制御圧縮着火)”を採用した次世代ガソリンエンジン「SKYACTIV-X」が大きな話題を集めた。

「CX-5」が誕生した2012年は、どんな年
2012年には、マツダ「CX-5」の他にも、「トヨタ86/スバルBRZ」、ホンダのNシリーズ第2弾の「N-ONE」、三菱の「ミラージュ」などが登場した。
トヨタ86/スバルBRZは、トヨタとスバルが共同開発した水平対向エンジンを搭載したライトウェイトFRスポーツ。ホンダ・N-ONEは、前年にデビューしたスーパーハイトワゴンN-BOXに続くNシリーズ第2弾でセダン系の軽自動車である。三菱・ミラージュは、12年ぶりに復活を果たした6代目であり、タイ生産で低価格と低燃費を売りにした。

自動車以外では、333mの東京タワーをはるかに凌ぐ634m(ムサシ)のスカイツリーが完成。山中伸弥氏がノーベル生理学・医学賞を受賞した。アップルiPhone5が発売され、前年にリリースされたLINEが爆発的に普及した。
また、ガソリン133円/L、ビール大瓶196円、コーヒー一杯414円、ラーメン582円、カレー740円、アンパン152円の時代だった。


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電動化が進む中、あくまでも内燃機関に拘り、基本技術をすべてゼロから見直して完成させた「CX-5」。電動化に頼らずエンジン車の限界に挑戦した、日本の歴史に残るクルマであることに間違いない。


