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今日は何の日?■燃費だけでなく優れた走りも目指したCR-Z
2010(平成22)年2月25日、ホンダのスポーツHEV「CR-Z」が発表(発売は翌日)された。ハイブリッドによる低燃費とモーターによるパワーアシストによって、優れた燃費と俊敏な走りの両立を目指した新感覚のライトウェイトスポーツである。

27年前に誕生した代表的なライトウェイトスポーツCR-X
ライトウェイトスポーツに明確な定義があるわけではないが、一般的には車重が1t程度か、それ以下のスポーツモデルを指す。代表的なのは、マツダ「ロードスター」やトヨタ/スバル「86/BRZ」、スズキ「スイフトスポーツ」が該当するだろう。

ホンダでは、1987年にデビューしたFFライトウェイトスポーツ「CR-X」がその代表であり、ライトウェイトスポーツの先駆けと位置付けられている。CR-Xは、1983年にデビューした「バラードスポーツCR-X」の2代目で、バラードの冠が取れてCR-Xという単独ネームとなったモデルである。

その特徴は、コンパクトな760~800kgの軽量ボディを生かした軽快な走りだ。スタイリングも個性的で、ティアドロップシェイプと呼ばれる流麗ラインは、Cd値0.3を実現。またルーフには、アウタースライドサンルーフの他に、グラストップと名付けられたスモークガラスの屋根が備えられ、スポーティさを印象付けた。
パワートレインは、最高出力105psの1.5L直4 DOHC、130psの1.6L直4 DOHCの2種エンジンと5速MTおよび3速ATの組み合わせ。サスペンションは、前後ともダブルウィッシュボーンの4輪独立で、トーコントロールシステムやガス封入式ダンパーなどが採用された。
CR-Xはライトウェイトスポーツという新たなジャンルを開拓し、当時の若者を夢中にさせた。
優れた燃費で走りも楽しめるCR-Z

CR-Zが登場した時には、車名が似ていたことから、CR-Xの後継ではないか?と言われた。同じFFライトェイトスポーツだったが、CR-Xは走りを追求した純粋なスポーツモデル、一方のCR-Zはハイブリッドを搭載して燃費と走りの両立を目指したスポーツモデルという大きな違いがある。

“エコロジーとスポーツの融合”を掲げ、ハイブリッド車は燃費は良いけど走りはちょっと物足りない…という従来の概念を払拭することが、CR-Zの大きなアピールポイントなのだ。

ハイブリッドシステムは、インサイトに採用されたIMA(インテグレーテッド・モーター・アシスト)で、エンジンとトランスミッションの間に薄い円盤状のモーターを挟み込んだマイルドハイブリッドである。組み合わされるエンジンは、最高出力120psの1.5L直4 i-VTECエンジン、トランスミッションは6速MTとCVTが設定された。

低燃費と走りの両立を際立たせるために、CR-Zでは3つの運転モード(ノーマル/スポーツ/エコ)が選べた。“ノーマル”は両者のバランスを取ったモード、“スポーツ”は加速時にモーターで積極的にパワーアシストするモード、“エコ”は燃費最良の使い方をするモードであり、ハイブリッドを燃費のために使うのか、走りのために使うのかを選択できたのだ。
車両価格は、βグレードが226.8万円/αグレードが249.8万円。燃費も25km/L(CVT)/22.5km/L(6側MT)と優れていたので、発売1ヶ月で1万台の受注を達成する人気を獲得した。

一方で、その後はハイブリッドによる重量増しによるパワー不足の声も聞かれるようになり、徐々に人気は減速。CR-Zは、2016年に一代限りで生産を終えた。
CR-Zに業界初の無料テレマティクスを導入

2010年当時、クルマの3大開発テーマとして、電動化(CO₂を出さないクルマ)と運転支援(ぶつからないクルマ)、コネクティッド技術(つながるクルマ)が掲げられていた。ホンダは、インターナビ・プレミアムクラブ会員向けに、通信費が無料で各種情報サービスを利用できる“リンクアップフリー”をCR-Zから開始。通信費無料のテレマティクスサービスは業界初だった。

このシステムは、ドライブの際にインターナビ情報センターに自動接続し、定期的にデータ通信を行なうため、常に最新の交通情報に基づくスムーズなルート選択や目的地までの所要時間短縮など、より精度の高いルート誘導サービスが受けられる。また、メーカーから直接カーナビへカーライフに役立つ情報を発信したり、カーナビからインターネット上の飲食店情報の検索・取得が可能となった。
テレマティクスは、今でこそ一般的な秘術だが、当時は先進的な技術であり、その後ホンダはこのシステムを進化させながら車種展開していった。

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現在、燃費が良いだけのハイブリッドでは市場で評価されず、燃費と走りを両立させた、あるいは走りに振ったハイブリッドが主流になっている。CR-Zは、マイルドハイブリッドだっただけに両立のレベルを高めるのは難しかったが、現在主流のハイブリッドの先駆的なモデルだったと言える。
毎日が何かの記念日。今日がなにかの記念日になるかもしれない。



