1万台超の受注でヒット作になった「スズキ・フロンクス」

スズキは今までもインドやハンガリーから逆輸入車を上陸させてきたが、受注停止になった最近のジムニーノマドをのぞき、ヒット作といえる車種は少なかった。インドで生産されるフロンクスは、1万台を超える受注を集めていると話題になったばかり。スタートダッシュだけでなく、試乗車が出揃ったことで好調なセールスが維持される可能性もありそうだ。

フロンクスは、全長3995×全幅1765×全高1550mmというショート&ワイド&ローというシルエットで、ホイールベースは2520mm。ステーションワゴンの背を高くしたような印象を受ける。全幅はワイドだが、1550mm以下の機械式立体駐車場に入庫でき、最小回転半径は4.8mに収まっている。

パワートレーンは、1.5L直列4気筒にマイルドハイブリッドを組み合わせ、トランスミッションは6速ATとなっている。2WD、4WDを設定し、単一グレードという構成。走りは、主に静粛性と乗り心地の面でWR-Vに対してアドバンテージがあり、上質感では一歩上を行く。2WDは74kW(101PS)/135Nmというエンジンスペックで、2.3kW(3.1PS)/60Nmのモーターアシストが加わる。WLTCモード燃費は19.0km/L(FF)で、純ガソリン車のWR-Vの16.4kmを上回っている。

フロンクスは、シートアレンジに大きな特徴はなく、スズキのお家芸である助手席の前倒し機構、助手席下の脱着可能なシートアンダーボックスは未設定。6対4分割可倒式の後席背もたれを前に倒すと、大きな段差こそ残らないものの、シート部分はスロープのように斜めになる。


装備ではADAS系が充実していて、アダプティブクルーズコントロール(ACC)は、全車速追従、停止保持機能付きになるため、電動パーキングブレーキも備わる。加えて、カラーヘッドアップディスプレイや全方位モニター付メモリーナビゲーション、ワイヤレス充電器、リヤのUSB電源ソケット(タイプA、タイプC)、前席両側のシートヒーターなど、安全と快適装備の充実ぶりが目を惹く。

前後席の着座感覚は、まさに少し背の高いステーションワゴンといったところで、後席にも大人がきちんと座れる足元、頭上空間を確保するが、驚くほど広いわけではない。後席足元と頭上まわりの余裕では、CセグメントSUVに迫るWR-Vには及ばない。WR-Vは、小さめのCセグSUVよりも広いキャビンとラゲッジを特徴としているだけに、目指す方向が異なることがよく分かる。


上級のCセグメントSUVをも上回るWR-Vの広さ

ホンダがタイで開発し、インドで生産しているWR-V。同社のエントリーSUVという位置づけで、プラットフォームが異なるため、お得意のセンタータンクレイアウトは採用していない。しかし、先述したように、後席と荷室の広さが自慢だ。ハイブリッドを用意せず、1.5Lガソリン車のみとすることで価格を抑えている。サイズは全長4325×全幅1790×全高1650mmで、ホイールベースは2650mm。フロンクスよりも330mm長く、24mmワイドで100mm高い。

さらに、ボンネットの位置が高く、スクエアなフォルムもあってSUVらしさではフロンクスを上回っている印象だ。最小回転半径は5.2mで、フロンクスよりも0.4m大きくなるものの、ヒップポイントが高い分、取り回しに苦労することはない。ただし、狭い道路や駐車場事情ではその差は小さくないケースもありそうだ。また、WR-Vは、195mmという高めの最低地上高(フロンクスは170mm)を確保する一方で、2WD(FF)のみとなるのは、豪雪地帯などの降雪地域では泣き所になるかもしれない。

また、ホイールベースもフロンクスよりも130mm長く、後席フットスペースに大きな差が出るのも当然だろう。さらに、WR-Vはセンタータンクレイアウトではないのにもかかわらず、後席座面前の床面が低く、前席座面下が少し高くなっていて、足置き性でも上回る。また、全高と着座位置が高いため、乗降性の面でもWR-Vの方が有利で、身体の上下動はより小さくてすむ。WR-Vの美点は、低く(深く)て奥行き、高さのある荷室で、容量はCセグメントSUVをも上回る458Lを誇る。後席前倒し時は、かなり大きな段差が残るため、車中泊には向かなそうだがとにかく広い。対するフロンクスは210L(ラゲッジボードを取り外すと290L)。


WR-Vの装備は、30km/h以上が作動条件になるアダプティブクルーズコントロールが付くものの、サイドブレーキは手動で、全車速追従機能、停止保持機能は付かない。そのほか、ナビは純正アクセサリー扱いで、充電用USBジャックは助手席用(タイプA)、シートヒーターとワイヤレス充電は未設定。ADASと快適装備を比べると、フロンクスの方が充実しているのは明らかで、WR-Vの割り切りが目立ってしまう。
同じ条件下(同じコース)でフロンクスとWR-Vを乗り比べたことがあるが、エンジン音やロードノイズなどが最も車内に侵入してきたのはWR-Vだった。ただし、乗り比べるまではそれほど気にならなかったのは、試乗はまさに相対比較であることを確認させられた。


ディメンションからも想像できるように、WR-Vの後席と荷室は上級セグメント並かそれ以上の広さで、フロンクスはこれでもかと装備を載せてきている。価格はフロンクスの2WDが254万1000円、4WDが273万9000円。FFのみのWR-Vは、209万8800円〜248万9300円となっている。小は大を兼ねないだけに、後席と荷室の広さが譲れないのならWR-Vが適任。フロンクスは、全車速追従式ACCや全方位モニター付ナビやヒートシーターを完備し、4WDも設定する利点がある。同じインド生産のBセグメントSUVといっても商品企画はかなり異なっているのが分かる。
