キャデラックのBEV、LYRIQ(リリック)登場!
GMキャデラックから、アメリカン・ラグジュアリーを再定義するモデルとしてBEVの「LYRIQ」リリックがようやく日本でもデビューした。
自分がリリックの名を最初に聞いたのは2020年8月。この時GMのエグゼクティブ・バイス・プレジデント兼北米社長のスティーブ・カーライルが、「リリックを先導役に、キャデラックは今後10年間でアメリカン ラグジュアリーを再定義し、変革をもたらす新たなEVポートフォリオを導入します」というニュースを発信していた。
あれから5年。実車が日本に上陸したので、「ようやく」という印象になったのだが、じつは2024年12月20日にリリックを国内販売するニュースは流れ、25年春に発売することも伝えられていた。25年3月8日から全国のキャデラック正規ディーラーネットワークで販売開始となるが、この変革期のなかでの5年は長く待ち遠しかった人も多いだろう。

さて、2025年のGMからの企業メッセージに「3つのゼロを目指す」とある。事故ゼロ、排出ゼロ、渋滞ゼロの3つ。そして2030年にはカーボンニュートラル(CN)にすることを目指し、2025年の今年は北米工場のすべてで使う電気を再生可能エネルギーにし、2035年には全世界の工場で再生可能エネルギーへシフトし、温室効果ガスの排出量を2018年比72%削減。そして2040年には完全にCNとすることを目指している。
しかしトランプ大統領になったことで、北米はシフトチェンジされ、果たしてこの目標が達成できるのか不透明になってしまった。すでにパリ協定からの脱退、IRAの撤廃など具体的な動きもあり、さらに地下資源の掘削を推奨する発言もあって気になるところだ。
話を戻すと、GMは2024年BEVの販売は倍増している。ブランドとしてはキャデラックとシボレー、そしてGMCの3つのブランドで展開し、キャデラックはこのリリックが次世代に向けての牽引役であり、シボレーがエクイノックス、GMCはハマーのピックアップトラックとSUVが牽引役になっている。そして、自動車業界の中でももっとも幅広いポートフォリオを用意するとも発言している。

こうしたGMのロードマップの中で日本に上陸したリリックは、ラグジュアリーブランドのトップのひとつになると位置付け、誰もがラグジュアリーだと感じるブランドに育てていくとしている。日本のマーケットに対しては、CHAdeMO規格の急速充電に対応し、右ハンドルを導入することで市場。
そうしたGMのトリプル・ゼロを牽引する役目と背景を背負ったリリックはデザイン性や快適性、ドライバビリティを磨きマーケットに投入された。
エクステリア全体からは推しの強さが漂い、バーチカルにレイアウトされたLEDライトは先進感がある。四角や丸型の見るからにヘッドライトとわかるデザインを完璧に置き去りにしている。そしてグリル全体が幅広で、ガラス工房を想起させるブラッククリスタルシールドが迫力を増す。

21インチのタイヤ&ホイールと幅広いドアパネルはキャビンをコンパクトに見せ、3085mmもあるホイールベースがさらにボディを大きく見せている。ちなみにボディサイズは全長4995mm、全幅1985mm、全高1640mmで北米ではミッドサイズだ。
緩い傾斜のリヤウインドウにはワイパーがなく、空力性能でワイパーを必要とさせないデザインだという。またブレーキランプはボディ両サイドにバーチカルにレイアウトされ、幅広な印象を受けるデザインだ。

インテリアでは1967年のエルドラドをオマージュとしたインパネ周りで、33インチもある横長のデザインでまとめている。またシートにはサスティナブル素材を採用するなどの配慮もある。
キャビンの特徴のひとつに静粛性がある。EVとなりエンジンがないことから走行音が目立つ。そこを徹底して防音、防振材の適材配置をしているという。さらに合わせガラスをサイドウインドウにも採用し、音の侵入を防いでいる。さらにAKGブランドのマイクでノイズを拾い、ノイズキャンセルをしているのだ。またリヤウインドウも板厚が5mmもある。近年は強化ガラスによる軽量化が進み、2.8mm〜3.5mm程度が多い中での5mmは相当な厚さと言える。
今回クローズドエリアで試乗を行なったが、停車しているとき、車外の音が非常に小さく聞こえるレベルで、明らかな違いを感じた。もちろん走行音も静かであり、快適に音楽を聴くことができ、ラグジュアリーを味わうシーンが随所にある。

さて、その基本骨格はBEV専用アーキテクチャーで、以前はアルティウム・プラットフォームとアルティウム・バッテリーと言っていたが、現状「アルティウム」の言葉は使わなくなったとGMジャパン広報が説明。この専用プラットフォームのフロアにCATL製の12モジュールNMCバッテリーを搭載。95.7kWhの容量で510kmの航続距離を持っている。
リリックのバッテリーは、熱暴走などのトラブルを未然に防ぐために、車載の通信モジュールを介して北米のGMサーバーに常時、情報が送信されており安全対策がされているという。
モーターは前後に搭載し、フロントモーターが170kW/309Nm、リヤモーターが241kW/315Nmでシステム合計では384kW/610Nmのスペック。車両重量は2650kgもあるが0-100km/h加速は5.5秒と十分速い。また北米ではリヤ駆動のRRモデルもあるが日本市場には4WDのみの導入となっている。

試乗してみると、いつでも、どのタイミングでも瞬時に大トルクを発揮するBEVの特徴を活かし、俊敏な加速が手に入る。そして滑るように、なめらかに走り、走行音は小さくゴージャスな印象が強い。
車両の動きはゆったりとし、重さを感じさせる動きではあるが、その重さが高級感や重厚感といった方向に乗員の気が向くので、ネガな印象にはならない。4種類のドライブモードも備えているが、その違いはわずかに感じられるレベルで、モードを切り替える意味はあまりないだろう。

乗り心地が良いと感じる要素にシートの大きさもあると思う。クッションの良さ、豊かさもあるが、ゆったりとしたサイズもラグジュアリーな印象へと働きかける。ちなみに運転支援機能は、渋滞時のハンズオフ機能は搭載していない。
インフォテイメントにおいてはApple CarPlayとAndroid Autoに対応というレベルだが、これからレグジュアリーの再定義が始まる中で、徐々にアップデートされていくだろう。これまでにない新しい価値がIVI(車載インフォテイメント)では提供されるし、UXも体験することになると思う。
またエルドラドをオマージュしたインパネ周りは、たしかにクラシカルに感じる部分もあるが、装備は言うまでもなく最新のもの。フィジカルスイッチの操作感、節度感、手触り、質感といったものは高級車らしさがあり、いいものに触れた満足感はある。一方タッチ操作部分ではレスポンスに課題はあるだろう。近年のスマホのレベルを多くの人が知っているだけに、気になる部分でもあった。
指定価格1100万円。指定価格とは?
さて、気になるリリックの価格は1100万円で税込の指定価格だ。高額家電製品などでは指定価格制度が広がりつつあるようで、これはメーカーが指定した価格でのみ販社が販売をする代わりに、売れ残った在庫をメーカーに返品可能とすることで独禁法に違反しない仕組み。したがって、販社主導による値引きや在庫処分時の値下げはできなくなる。
そのリリックの日本での1100万円という価格は、アウディQ8 e-tron S Line 50quattro(1099万円)と1万円差で、BMW iX xDrive40(1098万円)と2万円差という絶妙なプライスを設定している。それだけに指定価格制度がどんな影響を及ぼすのだろうか。いずれにしても、キャデラックのアメリカン・ラグジュアリーは他のブランドにはない価値であることは、誰もが感じるものだとお伝えしておく。
キャデラック リリック
ボディサイズ:全長×全幅×全高:4995mm×1985mm×1640mm
ホイールベース:3085mm
サスペンション形式:前マルチリンク式 後マルチリンク式
車両重量:2650kg
モーター:交流同期モーター
フロントモーター最高出力:170kW/15500rpm
フロントモーター最大トルク:309Nm/0-1000rpm
リヤモーター最高出力:241kW/15500rpm
リヤモーター最大トルク:415Nm/0-1000rpm
システム最高出力:384kW
システム最大トルク:610Nm
駆動方式:4WD
バッテリー容量:95.7kWh
WLTPモード航続距離:510km(社内測定の参考値)
ブレーキ:前後ディスク
タイヤサイズ:前後275/45R21
指定価格:1100万円