研究の背景

昨今、自然災害など気候変動が与える影響は益々深刻化している。このような状況を受け、各国が温室効果ガス排出規制を強化するなど、CO2の削除や有効活用は世界的な課題となっている。特に、製造業においては生産過程でのCO2排出削減が急務である一方、廃棄物の再資源化も強く求められている。なかでも、半導体や太陽光発電パネルに不可欠なシリコンウェハーは、切り出しの際に生じるシリコンスラッジが産業廃棄物として大量に廃棄され、その再資源化が求められている。こうした課題に対し、東北大学はCO2をシリコンスラッジと反応させてSiCを合成する研究を進めている。本技術は、CO2を固体と反応させる「鉱物化」によるカーボンリサイクル技術を応用することで、シリコンスラッジとCO2を再資源化し、有価なSiC原料を創出するもので、従来の高エネルギー消費型プロセスに替わる低環境負荷技術として期待されている。本技術が実用化すれば、SiCパワー半導体は、製品として省エネルギー化に貢献するだけでなく、製造工程においても、CO₂排出削減、シリコンスラッジおよびCO₂の再資源化が実現し、ライフサイクル全体で環境負荷を低減することが可能となる。

今回の取り組み

レゾナックは、SiC単結晶基板上にエピタキシャル層を成長させたSiCエピタキシャルウェハー(SiCエピウェハー)を製造している。SiCエピウェハーは、電動車(xEV)や産業機器などに用いられるパワー半導体デバイスの重要な材料である。SiCエピウェハーは、従来のシリコン(Si)ウェハーと比較して、電力変換時の電力損失や熱の発生が少なく、省エネルギー化に寄与する。しかし、SiCの合成には、高温・高電力を要し、製造工程における環境負荷の低減が課題となっています。

この課題を解決するため、レゾナックと東北大学はシリコンスラッジとCO2を原料としたSiC粉末を、パワー半導体に用いるSiC単結晶の成長用原料として応用するための基礎研究を2024年に開始した。本研究において、東北大学は、カーボンリサイクル実証研究拠点にてシリコンスラッジ とCO2をマイクロ波で加熱することによりSiC粉末を合成し、レゾナックはそのSiC粉末をSiC単結晶基板へと応用展開する。今回、本研究によって得られた結晶の特性把握など基礎検討が完了した。

本技術が実用化されれば、SiC粉末100トンあたりのCO2削減効果が110トン相当に達することが見積もられており、省エネルギー化およびCO2削減を可能とするSiCパワーデバイスの一層の普及推進に大きく寄与することが期待されている。

シリコンスラッジとCO2の再資源化イメージ図

今後の展望

東北大学の持つ「鉱物化」技術により作成されたSiC粉末が、レゾナックの“ベスト・イン・クラス”SiCエピウェハーへ応用されることで、パワー半導体のライフサイクルを通した環境負荷低減を実現し、持続可能なグローバル社会に貢献する。