再生に賭ける意気込みを語る

このところ風当たりの強い日産自動車だが、この4月1日に社長が交代し、再生への道を歩み始めたところだ。

日産復活に向け、まずは日産自動車 日本マーケティング&セールス/日本アフターセールス 執行職の杉本全(すぎもとあきら)氏が壇上に上がり、スライド写真とともに今後の方針について説明した。

日産自動車 日本マーケティング&セールス/日本アフターセールス 執行職 杉本全(すぎもとあきら)氏。

魅力的な商品ラインアップを顧客に届けるため、これまで以上に開発・生産体制を強化し、顧客の期待を超えるクルマ造りに取り組んでいくこと、2026年度にかけて4車種の新型車を投入すること、そのうちのひとつである、第3世代のe-POWERを搭載した新型エルグランドを、顧客に最高の形で届けられるよう、熱意をもって開発中であることなどが語られた。

新型エルグランドであることを示すシルエット。

途中、杉本氏がいったん声を止め、ひと呼吸おいてから「そして」と続けて明らかにしたのは、国内投入を望む顧客の声を多数受けたことによる、フルサイズ本格4WD「パトロール(日本名・サファリ)」の、日本市場への投入・・・の前向きな検討だ。どうせなら「投入!」とはっきりしてほしかったところだが、これがもし実現すれば、現在、トヨタのランクルが独占している本格ヨンク市場が刺激され、競争の可能性が生まれることになる。
ここは途中で気が変わって検討が後ろ向きにならないことを祈るしかない。

続いて登場したのは、同社 日本マーケティング本部 副本部長の大谷由希子(おおたにゆきこ)氏で、新ブランドコミュニケーションについて説明した。

同社 日本マーケティング本部 副本部長 大谷由希子(おおたにゆきこ)さん。

「日産が今後どのように顧客の日常に貢献していくべきかを考えた結果、顧客を起点にあらためてスタートを切るべきという結論に至った。技術やクルマそのものの魅力を伝えることも去ることながら、それ以上に技術やクルマが顧客の生活にどのような変化をもたらし、わくわくする未来を提供できるのかを説明していきたい。その思いを込めて、新たなブランドコミュニケーションの第1歩としてCMを制作した」と。

新アンバサダーに、俳優・鈴木亮平さん

そのCMに登場するのが、新ブランドアンバサダーを務める俳優の鈴木亮平さんで、舞台下手(しもて)から、自らフェアレディZのハンドルを握って現れた。

舞台下手から颯爽とやってきたフェアレディZ。
新日産ブランドアンバサダーに就いた、俳優の鈴木亮平さん。

鈴木さんは、自身のブランドアンバサダー就任について、「非常に光栄。日産は自分が小さい頃から慣れ親しんできた、日本を代表する自動車会社なので、アンバサダーに選んでいただいたことを非常に光栄に思っている。」と抱負を語った。

新アンバサダーへの就任で抱負を語る鈴木さん。
新たに制作されたCMも流された。

この後もプログラムは進み、先行車両開発部の小坂裕紀(こさかゆうき)氏、日本ネットワーク本部・伊東克朗(いとうかつろう)氏、AD/ADAS先行技術開発部・佐藤亮太(さとうりょうた)氏、そしてさきの大谷由希子氏が登壇し、各々の担当する分野の仕事内容を映像とともにアピールした後、クイズコーナーとなった。

壇上にエンジニア登場。

ところで数名の開発者を見て思ったのは、会社の業績の良し悪しは、やはり経営陣次第だということだ。
みなさんの様子から、ふだん着実に、まだ見ぬ未来のユーザーの姿を思い浮かべながら仕事に勤しんでいることがわかる。
e-POWER開発担当の小坂さん、新しいクルマの買い方を提案するブランド体験店舗推進担当の伊東さん、自動運転システム担当の佐藤さん・・・いずれの方々も、良い意味で、世間が抱く日産イメージにめげることなく、誇らしく開発に従事している様子が感じられた。

e-POWERを担当する、日産自動車 先行車両開発部の小坂裕紀(こさかゆうき)さん。
日本ネットワーク本部でブランド体験店舗の展開を担当する伊東克朗(いとうかつろう)さん。
自動運転技術を担当する、AD/ADAS先行技術開発部の佐藤亮太(さとうりょうた)さん。

エンジンのターボ技術、HICAS、ATTESA、4輪マルチリンクサスペンション・・・1980年代から90年代にかけての日産が、技術の先進性を、主に走りの分野で示していたのに対し、いまは自動運転を核とする先進電子デバイス&安全技術をアピールしている。
古くは「技術の日産、販売のトヨタ」といわれていたが、トヨタは「商品」を造るのがうまいのに対し、日産はそれが下手な会社だ。「商品」に至らず、「製品」にとどまっているのである。
技術力はどこと比べても決して劣っていないのに、顧客が手を伸ばしたくなる姿に仕立てることが苦手なのと、開発段階でいいアイデア=商品に仕立てられるひとがいても、それを理解できない経営陣が妨げ、商機を逃すことを数多く繰り返してきた。
「自力再生は無理」というのが世間の評判で、いまどき単独で100年の変革を乗り切るのは確かに困難だと私も思うが、登壇したエンジニアの様子を見たら、「できなくはなさそうだ」と思わせられそうになったものだ。

大急ぎで遂げてほしい、国内ラインアップの再編成

ところでいまの日産は、北米市場での業績不振が現在の凋落を招いたことになっているが、日本向けとてラインアップが充実しているわけではなく、いま日本で販売中の日産車で面目を保っているのはノートとセレナくらいのものだ。

デビュー当初から好評の、現行3代目ノート。
セレナはどの世代も好評だ。

新型エルグランドやパトロールもいいのだが、いまの日産に急務なのは、値段やサイズで普遍性を持つ国内モデルの投入ではないだろうか。

まずは大きなパイのある5ナンバーサイズミニバンの投入だ。この市場を走っているのは現在シエンタとフリードだけだ。
時代は異なるが、そもそも1BOXではない、5ナンバーサイズ3列シート車を初めてものにしたのは当の日産で、プレーリーで切り拓いた後、三菱がシャリオで追った。
セダン主流の時代に生まれたクルマだから、小さな市場でしかなかったが(この頃はミニバンという呼び名もなかった)、その老舗がいま、シエンタやフリードに独占されっぱなしで指をくわえているだけというのは解せない話だ。

日産プレーリー初代(1982年)。写真は1800JW-G。
プレーリー1800JW-G計器盤。
同車内装。1982年時点でワゴンボディとキャビンを専用仕立てにし、3列シートにする発想をした。
初代にはバンモデルもあった。写真はプレーリーエステート。
2代目は初代の反省を活かしてぐんとスタイリッシュに! 写真はプレーリー2000 J6アテーサ(1988年)。
同車の計器盤。こちらもぐんと乗用車的になった。

5ナンバーミニバンといわず、これまた決して小さな市場と侮れない2列シートのスライドドア車・ソリオやルーミー/トールに対抗する持ち駒がないのも日産顧客を遠ざける要因になっている。
リヤドアをスライド式にしたキューブではだめなのだろうか? そしてその3列シート版をキューブ・キュービックとして売る可能性はないのだろうか?

ノート&ノート・オーラやエクストレイルをe-POWERだけにしたのも戦略ミスだろう。
ノートシリーズは売れているからミスとはいいにくいが、それにしても、ガソリン車もあれば価格帯は安いほうに広がり、ユーザー取り込みが容易になっていまよりももっと売れた可能性があった。
プレミアムSUVになり、価格がひとクラス分もふたクラス分も上にシフトしてしまったエクストレイルならなおのことだ。
ヤリスもフィットも、そしてRAV4だってCX-60だって、ハイブリッドの他にエンジン車も用意している。セレナはちゃんとガソリン車も用意しているのに・・・

もっというなら、ノートは少し大きく、ヤリスにはマーチで応戦したい。
軽自動車との兼ね合いもあるのだろうが、軽自動車とノートの間のクルマを欲しがる層は少なくないと思う。

さきの2026年度にかけて4種の新型車投入のスライドの中で、それらしいクルマが見当たらなかったのが気にかかった。

手前の画面左が、先日公開された新型リーフ。右は新型エルグランドだろう。向こうのシルエット2台は、いまの日本市場で望まれているクルマには見えない。

新型エルグランドやパトロールを投入したところで値段が高いことは目に見えており、ノートやセレナ並みに台数を稼ぐことは考えられない。エルグランド、パトロール投入と同じくらいの熱量で、普遍モデルの品揃えを急ぐこともしなければシェア奪回は難しいだろう。

クイズ

最後に、「へぇ」とうなる話を。
さきのクイズを読者のみなさんにも出題しよう。
答えは下の方に書いたので、スクロールしてみてください。

【第1問】
東京から、鈴木亮平さんの出身地・兵庫までの下道550kmをガソリン車で走った場合、アクセルペダルとブレーキペダルの踏みかえ回数は4400回だが、同じ道をe-POWER搭載車で走った場合、ガソリン車に比べて踏みかえ回数はどれくらい少なくなるか?

さて何回だ?

A : 1/3(約1500回)
B : 1/6(約750回)
C : 1/9(約500回)

【第2問】

3択ではないので、完全に想像するしかない。

セールスを目的としない、ブランド体験店舗の日産ブランドクルーが、接客時に使わないようにしている言葉は?

【第3問】
次世代自動運転で実現できるのはどれか?

さあ、どーれだ?

A : 地図を見なくてもいい運転
B : 限りなくぶつからないクルマ
C : ドライバーの思考を先回り

答えは下に。
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【答え】

第1問 : C

ペダル踏みかえ回数が1/9にまでなるとは!

 e-POWER車は、アクセルペダルを離すだけで大きな減速力(=ブレーキ力)が生まれるため、アクセル操作だけで速度調整ができるようになるため。ただし、停止まではできない。

第2問 : 「お見積り」

正解できたひとは少ないと思う。

日産ブランドクルーはセールスを目的としない、試乗専門のスタッフなので、クルマの価格や見積もりといった、販売行為に関するワードは使わないようにしている。
これは顧客の限られた体験時間の中で、日産の技術のワクワクを存分に楽しんでもらう、クルマのよさをよりわかってもらうため。

第3問 : A、B、C、全部

むしろ、ドライバーが安心して快適に目的地に行けるようにするためには、この3つは必ず実現しなければならないものである・・・というのだが、「どれか?」と問いておきながら答えは「全部」というのは、出題の仕方としてフェアじゃないぞ!

めくって出てくる答えは?
答えは全部・・・