連載

歴史に残るクルマと技術

インプレッサの先代は、世界初の4WD乗用車レオーネ

スバル初代「レオーネ」
1971年にデビューしたスバル初代「レオーネ」

インプレッサの先代にあたるレオーネは、「スバル1000」の後継として1971年にデビューした。当初は、躍動感あるロングノーズとサイドライン、サッシュレスのドアなどを装備した4ドアクーペのみ。パワートレインは、スバル1000から引き継いだ1.4L水平対向エンジンと4速MTの組み合わせ、駆動方式はFFだった。

スバル初代「レオーネ」
1971年にデビューしたスバル初代「レオーネ」
レオーネ エステートバン
1972年にデビューした世界初の量産4WDの「レオーネ エステートバン」

翌年1972年4月に2ドア/4ドアセダン、商用車「エステートバン」を追加。エステートバンには4WDが搭載され、世界初の量産4WD車となった。そして、1975年には世界初の量産4WD乗用車「レオーネ4WDセダン」が登場。この時の4WDシステムはまだパートタイム4WDだが、ここに“水平対向エンジン+4WD”というスバル独自のコア技術が始まったのだ。

インプレッサWRXを先導したレガシィ

1989年にデビューした「レガシィ・セダン」
1989年にデビューした「レガシィ・セダン」

レオーネの後継として、まず登場したのはインプレッサの兄貴分に相当するレガシィだ。1989年2月にデビューして、4ドアセダンと5ドアツーリングワゴンの2タイプが設定された。

初代「レガシィ・ツーリングワゴン」
1989年にデビューした初代「レガシィ・ツーリングワゴン」。ステーションワゴンブームを巻き起こした

注目の水平対向エンジンは、最高出力110psの1.8L SOHC(EJ18型)と150psの2.0L DOHC(EJ20型)、そして最強グレード「レガシィRS」に搭載された最高出力220psを誇るターボエンジンの3機種を設定。トランスミッションは、5速MTで駆動方式はアクティブスプリット4WD、これにより現在に続くスバルのシンメトリカルAWDの原型が形作られた。

初代「レガシィ・ツーリングワゴン」
1989年にデビューした初代「レガシィ・ツーリングワゴン」。ステーションワゴンブームを巻き起こした

レガシィは、市場で高い評価を受け、特にツーリングワゴンはクルマ好きの心を掴んで爆発的な人気を獲得。日本市場にステーションワゴンブームを巻き起こし、SUBARUブランドを構築する立役者となった。

SUBARUレガシィRS 1993年ラリーニュージーランド優勝車
SUBARUレガシィRS 1993年ラリーニュージーランド優勝車

一方でセダンのレガシィRSをベースにしたレースマシンは、1990年からWRCへの本格参戦を開始し、デビュー戦のサファリでは総合6位に食い込んだ。この年、スバルは5つのレースに参戦して、最高順位は1000湖ラリーの4位にとどまった。当時は、ランチア「デルタ インテグラーレ」とトヨタ「セリカGT-FOUR」が競り合っているなかで、レガシィはまだ十分な戦闘力が整っていなかったのだ。

SUBARUレガシィRS 1993年ラリーニュージーランド優勝車
SUBARUレガシィRS 1993年ラリーニュージーランド優勝車

当初は、準備不足から苦しんだが、1993年のニュージーランドラリーでついに念願のWRC初優勝を飾った。これらのレガシィのWRC挑戦は、次のインプレッサへと引き継がれることになった。

SUBARUレガシィRS 1993年ラリーニュージーランド優勝車
SUBARUレガシィRS 1993年ラリーニュージーランド優勝車

レガシィが磨き上げたシンメトリカルAWDを受け継いだインプレッサ

初代インプレッサ4WD 1800HX-S
初代インプレッサ4WD 1800HX-S

インプレッサは、生産を終えたレオーネの後を継ぎ、レガシィよりひと回りボディの小さい弟分として1992年にデビューした。ボディタイプは、サッシュレスの落ち着いた雰囲気の4ドアセダンとコンパクトなラゲッジを持つ5ドアのスポーツワゴンの2種だが、セダンにはWRC参戦を前提としたトップグレードの高性能ターボエンジンを搭載したスポーツセダンWRXが設定された。

初代インプレッサ4WD WRX-RA
初代インプレッサ4WD WRX-RA

エンジンはすべて水平対向4気筒エンジンで、WRX専用の240ps/最大トルク31.0kgmを発揮する2.0L DOHCターボ(EJ20型)を筆頭に、1.8L SOHC(EJ18型)、1.6L SOHC(EJ16型)、1.5L SOHC(EJ15型)の4機種で構成。駆動方式は、MTにはビスカスLSD付センターデフ式4WD、ATにはトルクスリップ式4WDを組み合わせ、1.6Lと1.5Lの下位モデルにはFFも用意された。

1994WRXグループA参戦用EJ20エンジン
1994WRCグループA参戦用スバル・インプレッサWRX・EJ20エンジン
初代インプレッサ・スポーツワゴン1.8HX 4WD
初代インプレッサ・スポーツワゴン1.8HX 4WD

落ち着いた雰囲気のセダンとスポーツワゴンは女性を含めた若者層から、ターボエンジンを搭載したWRXは走りを重視する若者から人気を獲得した。

WRCで一時代を築いたWRX

人気を獲得したインプレッサWRXは、レガシィの後を継いでWRC制覇を目指して1993年から参戦を始めた。

1994年 SUBARU IMPREZA 555 RACラリー車
1994年 SUBARU IMPREZA 555 RACラリー車

WRC参戦のためホモロゲモデルとして、STI(スバルテクニカインターナショナル)が中心に手掛けた「WRX STi」は1994年1月に市場に投入。EJ20ターボエンジンのファインチューニングによって最高出力250ps/最大トルク31.5kgmへ向上。さらに11月には、最高出力275ps/32.5kgmまで高めた「WRXタイプRA STi」が発売された。

1994年 SUBARU IMPREZA 555 RACラリー車
1994年 SUBARU IMPREZA 555 RACラリー車

WRXの進化の成果はすぐに結実し、WRCで1995年から3年間マニュファクチャラーズタイトルを獲得するという、日本初の偉業を成し遂げ、インプレッサWRXは世界中の走り好きが憧れるスポーツモデルへと駆け上がったのだ。

1994年 SUBARU IMPREZA 555 RACラリー車
1994年 SUBARU IMPREZA 555 RACラリー車

レガシィとインプレッサWRXの成し遂げたWRC制覇には、スバル独自のシンメトリカルAWDが大きく貢献している。水平対向エンジンとフルタイム4WDを組み合わせたシンメトリカルAWDは、低重心の水平対向エンジンを縦置きに搭載できるので、パワートレインが一直線、左右対称に配置できる。これにより、4輪にバランスよく荷重がかかるので、優れた悪路走行と高速安定性ができる。さらにエンジンが縦置きなので重いトランスミッションが車体重心近くに配置されることで、軽快なハンドリング性能も実現されるのだ。

1994年 SUBARU IMPREZA 555 RACラリー車
1994年 SUBARU IMPREZA 555 RACラリー車

インプレッサWRXが誕生した1992年は、どんな年

スバル・インプレッサWRXが誕生した1992年には、日産自動車の「レパードJ.フェリー」やホンダ「CR-Xデルソン」と「アスコットイノーバ」などが誕生した。

日産3代目「レパードJ.フェリー」
1992年にデビューした日産3代目「レパードJ.フェリー」
CR-Xデルソル
1992年にデビューしたホンダのオープンカー「CR-Xデルソル」
ホンダ「アスコットイノーバ」
1992年にデビューしたホンダ「アスコットイノーバ」

レパードJ.フェリーは、それまでの高級クーペからパーソナルセダンへ変貌した「レパード」の3代目。CR-Xデルソンは、「CR-X」シリーズ3代目のオープンスポーツ、アスコットイノーバは上級セダン「アスコット」のスポーティモデルである。この年、いすゞは経営不振から乗用車事業から完全撤退した。

GC8型第1世代 WRX STIファミリー
GC8型第1世代 WRX STIファミリー

自動車以外では、前年に始まったバブル崩壊の影響で日経平均株価が暴落、不動産や住宅金融関連会社が不良債権を抱え、地価が下落して日本経済は大打撃を受けた。バルセロナオリンピックで岩崎恭子選手が200m平泳ぎで金メダルを獲得、“今まで生きていた中で一番幸せ”というコメントが話題となった。
また、ガソリン124円/L、ビール大瓶312円、コーヒー一杯370円、カレー600円、ラーメン446円、アンパン100円の時代だった。

初代インプレッサのバリエーション
初代インプレッサのバリエーション
初代インプレッサのバリエーション
初代インプレッサのバリエーション

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スバルの看板技術、シンメトリカルAWDによる卓越した走りを、世界の檜舞台WRCで実証したインプレッサWRX。SUBARUブランドとともに日本の優れた技術をアピールした、日本の歴史に残るクルマであることに、間違いない。

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