長安汽車の強みを活かす。マツダ流を織り込む

小澤裕史氏(長安マツダ汽車有限公司/マツダ商品本部主査)

前編から続く)
MF:EZ-6は中国専用車ではなく欧州やタイにも出し始めました。当然右ハンドル仕様も造るわけです。EZ-60はどうですか?
小澤:反響があれば、当然そこは(笑)。

MF:小澤さんは、米国のCX-50の中国仕様を担当されました。その前は?
小澤:その前はメキシコにいました。MMVO(Mazda de Mexico Vehicle Operation)ですね。MMVO立ち上げの時にやっぱり主査で3年ほど行っていました。その前はアメリカ。7年ほどフォードとのJV(ジョイントベンチャー)を。そういう意味ではいろんなメーカーと組んでやってきました。JVという仕事の難しさと、ある意味の自由度は随分今までの経験で培っているかなと。だからこれも今回のEZ-6、EZ-60にうまく反映できていると思います。
MF:自由度は、引き出しが2倍になるみたいな感じでしょうか?
小澤:そうです。いいとこ使えばいいでしょというところも含めてですね。
MF:では、先方(長安汽車)が持っているもので、いいものを見極める目がなきゃいけない?
小澤:はい。特にライトアセット戦略と言っていますが、あれはやっぱり双方がWin-Winになるために何を引き出すか。その引き出しを、うまく早く安くどう活用するかが、おそらく一番のポイントだと思うんですね。この商品もマツダが尖らせた部分はなにか。市場でお客さんに迷惑かけないのだったら、これは同じものでもいいんじゃないですか、というようなところの見極めにものすごく気を遣いましたし、その分だけ早く、それこそ安くできるっていうのは事実だと思います。

MF:バッテリーに大きな投資しなくてもいいのはすごく大きいですね。
小澤:バッテリーは確かにそうですね。正直言って長安汽車との協業で、コストを抑えられています。ただし、長安汽車で使うものとまったく同じバッテリーではないんですね。パックは同じなんですけど、あるところをうまくちょっとマツダ流に、アレンジして、ルマに合わせたやり方常に考えています。
MF:バッテリーも長安汽車と一緒にやっていると、選択肢がいろいろある、と

EZ-60

MF:EZ-6は中国での立ち上がりがややスローペースだったそうですね。なぜでしょうか?
小澤:我々の見立てだと、やはりそもそも、マツダというよりも日系のJVのNEV車に対する認知度が低かった、足りない。なぜか。やはりBYDやNIO、ああいった新興メーカーが出てきてお客さんに飛びついたなかで、あれが先進的だというイメージができてしまった。一方、マツダを含めた日系は、ちょっとICEっぽいところがあって、先進性が足りないよねっていうイメージがあったんだと思うんです。そうなると中国のお客さんは、日系もしくはJV=NEVではないでしょという風なところがまず根本あるんじゃないですか。NEVのランキンだと日系はほとんど顔出さないですよね。ね。TOP20くらいでようやくトヨタさんが入って、次がマツダEZ6くらい。

MF:そんな状況でマツダはどうするのですか?
小澤:やっぱりJVとして、もしくは日系として、しっかりと中国のお客さんの価値に根付いた商品だということをまずしっかり言いましょうと。だから、EZ-6だけではなく、EZ-60も含めて”群”でアピールをしてしっかりやっていく。やはりお客さんはICEから乗り換え、もしくは我々の保有層がいますので、その代替やJVに関心のある方、そういったお客に絞ってしっかりアピールをして巻き返しましょうという販売戦略を採りました。最近は販売台数が伸びてきています。

小澤:中国にも熱烈なマツダファンはいます、そういうお客さんにはかなり響いているのは事実ですし、そこをうまく売り方としてね、宣伝をしていきたい。残念ながら走りってなかなか、お客さんにわかってもらいにくいですよね。乗ってもらわないといけないから。今回の商品は、走るだけじゃないです。走る過程においても、そのエンターテインメントを含めての快適性をしっかりと訴求するっていうのが今回一番この車は売りになっています、大きなディスプレイ、HUDが100インチで3Dの映画が裸眼で見られるんですよ。もちろん停車時ですが。
MF:100インチ! 3DのHUD!
小澤:もうこれ中国ならでは、だと思うのですよ。おそらく世界初ですよ。HUDにいれたのは。

MF:EZ-60の走りについてです。EZ-60はEZ-6にはない電子制御ダンパーを採用したそうですね。
小澤:はい。SUVだからというわけではなく、やはり走りを追求はしていきたいからです。どうしてもマツダの脚は硬いって言われるんですね、中国的には。もうフワフワなんですよ、後席の乗り味心地って。やはり乗り心地と操安性は相反します。それを両立するために電子制御サスを使いました。

世界最大市場の中国はどうなるか?

MF:中国市場はBEVがあって、だんだんPHEVに流れているトレンドがありますが、小澤さんはどうなるって予想されていますか?
小澤:やはり国の政策でBEVであるのは間違いない。BEVとPHEVの割合って大体今50:50ぐらいで、若干BEVが多いです。BEVのシェアは絶対7割、8割になる、間違いないです。ですから、その流れには逆らえないと思っています。ICEだけというクルマは、ここは中国でなしだと思います。では、グローバルで見たときは? 例えば北欧はもう明らかにBEVでいくって国があるわけで、ここは当然もう無関税に中国車が入っていますよね。欧州圏内も今の状況ではBEVが下がってはいますが、ただ、それがじゃあ極端に下がることはないと思っています。やっぱり国と地域によってICE、ストロングHEV、PHEV、BEVがあっていう、その各拠点でのその時代の若干差は出てくると思うんです。そこは我々のマルチソリューションも含めての各リージョンに合った商品を出していく、そのなかで全部できないからライトアセットにできるところをうまく活用しましょう、そういう構図になっていると思います。

小澤:中国はBEV、増えますよ。ただ、ポイントはこんなにメーカーが乱立した状態が続くかどうか。そこはね、淘汰されてくると思います。僕の個人的な考えでは、この国ってスクラップビルドじゃないですか。ブランドもすぐにスクラップするんですよね。

トヨタのプレスカンファレンスでは、中国でのトヨタの長い歴史をアピールしていた。

MF:プレスカンファレンス見せていただいた時に、欧米系とか日系は、長い間中国でやっていますっていう歴史をアピールしていました。ああいうのは、中国ではあんまり響かないんですか。
小澤:多分響いてはいるんだと思うんですよ。やっぱり長年培ったものの良さっていうのは本質で持っていると思うんですね。ただ、最近の若い方々に、ほんとに響いているかどうかですよね。クルマ好きの人は、JVの方が(中国ローカルブランドより)絶対いいって言うんですよ。品質はいいはずだと。だけど先進感がないから躊躇するんです。だとすると、そこをうまく、どうやってやるか。すべて自前だと多分厳しいんだろうなと思います。

MF:ありがとうございました。

小澤裕史氏(長安マツダ汽車有限公司/マツダ商品本部主査)

EZ-60は、中国で好意的に受け止められているようだ。発表後、わずか48時間で10,060台の予約を獲得したという。中国市場におけるEZ-60、そしてその他の市場への展開があるか。注目のニューモデルである。

マツダEZ-60開発ストーリー 人馬一体・魂動デザインのクロスオーバーSUVはどうつくられたか?

上海モーターショーで発表されたマツダEZ-60。マツダと長安汽車の協業で開発されたBEV/PHEVのクロスオーバーSUVだ。どこから見てもマツダのクルマだが、ベースは中国・長安汽車。そこにマツダ流の走り・デザイン・品質を与える開発はどう進んだのか? 開発責任者に訊いた。 PHOTO:長野達郎(NAGANO Tatsuo)

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