1969 RACE SHOP SLALOM CAR

『モーターファンフェスタ2025』に展示された1台のフォルクスワーゲン・タイプI(通称「ビートル」)は、ヴィンテージフォルクスワーゲンの専門店「FLAT4」が出展した車両だ。

FLAT4が出展したフォルクスワーゲン・タイプI「1969 RACE SHOP SLALOM CAR」。

このクルマは「1969 RACE SHOP SLALOM CAR」。FLAT4の紹介によると、Econo Motors Inc.社(※)が当時販売していたGTV仕様の1969年型タイプIをベースに製作されたオリジナルのVWスラロームカーで、EMPI(※)コレクターの元を経てFLAT4が入手した車両だという。

※「Econo Motors Inc.」と「EMPI」とは?
1954年、Joe Vittoneらがカリフォルニア州Riverside にオープンしたVWディーラー「Economotors」。そこでの修理部品の製造・開発のために作られた「European Motor Products Inc.」は、その後「Engineered Motor Products Inc.」と社名を変更し、空冷VW用のホイールやステアリングなど歴史に残るアイテムを多数リリース。1971年にFilter Dynamics社に買収され、1974年にその歴史を閉じたが、1960年~1970年代のVWシーンを代表する伝説のスペシャルショップとなった。 現在も「EMPI Inc.」としてその名を残し、空冷VWのアフターパーツを幅広く製造・販売。世界中の空冷VWファンをサポートしている。
(FLAT4オンラインショップより)
1969 RACE SHOP SLALOM CAR

FLAT4では、当時の状態を蘇らせるべく、FRPフレアフェンダーやプレキシグラスウインドウを装備。さらには、当時のオリジナルペイントを担当していた「Richard McPeack」にタッチアップを依頼することで、オリジナル状態へと復活した貴重な1台だ。

1969 RACE SHOP SLALOM CAR

エンジンも当時のスペック同様、スラロームカーならではの中低速のトルクを重視したストローク82mm×ボア88mmを組み合わせた1995ccで組まれ、足まわりには大きくフレアしたフェンダーから更にはみ出るファットなタイヤを履いたスラローム仕様となっている。1996年8月に日本上陸し、FLAT4本社にて定期的に展示されている。

フレアしたオーバーフェンダーからさらにはみ出すファットタイヤ。

今回は『モーターファンフェスタ2025』に展示されたが、国内のVWイベントなどに出展することもあるので、またどこかで実車を見る機会はあることだろう。

ディティールチェック:エクステリア

当時のオリジナルペイントを担当していた「Richard McPeack」がタッチアップを担当したEMPI GTV-1000仕様の外観は非常に美しい仕上がりとなっている。フレアフェンダーに、そこからはみ出すファットなタイヤ、各所にレーシーなパーツが装着されており、このクルマがレーサーであると強く感じさせる。

フロント
サイド
リヤ
レースカーらしくボンネットはピン留め。中央のEMPIのエンブレムがある。
ボンネット右寄りにあるのはEMPI製タコメーター。
リヤには2基組み合わせたオイルクーラーを装着。
オイルクーラーを上から見たところ。
フェンダーからはみ出すタイヤはフロントがP215/50D13というサイズ。
リヤはP245/50D13とさらに太い。装着タイヤは前後ともMickey Thompson SPORTSMAN。
センター出しの長く突き出たマフラーが特徴的だ。ナンバープレートもEMPIの化粧プレートになっている。
フロントから見たアンダーフロア。1969年型のフロントサスペンションはトーションバー+トレーリングアーム式。
リヤから見たアンダーフロア。オイルパン(写真中央)にはガードが装着される。オイルパン左右のシルバーのパーツはOHVのプッシュロッド(のケース)か。サスペンションはフロント同様トーションバー+トレーリングアーム式。広角レンズで撮影した写真なので、リヤタイヤのファットさがより強調されている。

今回はエンジンルームは見ることはできなかったが、エンジンはストローク82mm×ボア88mmの1995cc空冷水平対向4気筒OHVで、圧縮比を8.5:1として125HP/5500rpmを発揮。1969年の2.0L空冷水平対向4気筒OHVでこの出力は、なかなかにハイチューンではないだろうか?
(参考:1967年型ポルシェ911の1991cc水平対向6気筒が圧縮比9.0:1で128HP/6100rpm)

ディティールチェック:インテリア

レーシーな外観に配して意外に落ち着いた雰囲気にまとめられている印象のインテリア。リアルウッドのドア化粧パネルやウッド調のダッシュボード加飾、細く径の大きなウッドステアリングが、ブラック基調のインテリアカラーに映える。

1969 RACE SHOP SLALOM CARのインテリア。ダッシュボードは薄く垂直で、センターコンソールもないため空間は広々している。ペダルはオルガン式。
広角レンズでの撮影ということもあり写真ではかなり広く見えるが、実際の室内空間も広く開放感がある。レーサーなのできちんとしたリヤシートは備えないが、ベンチ状の板には一応クッションがあった。リヤウインドウ直下のカーペット内装はシートではない(念のため)。
ブラックビニールのフロントシート。シートベルトは3インチのカムロック式だが、腰ベルトのみの2点式。
メーターパネル。中央のスピードメーター以外はEMPI製を装着していた。
センターコンソールとグローブボックス。センターコンソールの中央のパネルはラジオスペースか?
左側はタコメーター、油圧、油温を配置。
マイル表示のスピードメーター。燃料計や警告灯も組み込まれる。
右には電流計。その下の赤いランプは警告灯か。
センターコンソール上部にはサイドブレーキの警告灯。
シフトパターン表示は斜めHパターンながらリバースの位置が特殊。その左はシガーソケット。
グローブボックスの注意書きは「時速120マイル以上でロワウインドウは使用禁止」というもの。
左右座席間の中央にサイドブレーキレバー。その左右はヒーターケーブルコントロールレバーで、右側はヒーターのオン/オフ。左側がデフロスターとリヤの足元へのヒータースイッチ。
ドアは外ヒンジなので90度まで開き、スペースがあれば乗降はしやすい。
ドアトリムはブラックビニール張りを基本に、上端にリアルウッドをあしらう。ドアハンドル、開閉レバー、ウインドウレギュレーターは金属製。
フロントの三角窓も開閉可能。
ロックを右(車両前方)に倒して会場。
三角窓はほぼ90度まで開くことができる。
実は着座位置からだとメーターパネル左端で、しかもステアリングが正位置だとちょうどスポークに重なるタコメーターがかなり見づらい。ボンネットフードにタコメーターが追加される理由がよくわかった。

スーパーグリッドウォークでも注目を集める

『スーパーグリッドウォーク』準備中の1969 RACE SHOP SLALOM CARと1970 Wrought Iron。

また『モーターファンフェスタ』の人気コンテンツのひとつである『スーパーグリッドウォーク』にも展示。ナンバーこそ無いが自走可能な車両のため、ピットからメインストレートまでは富士スピードウェイのコースを1周してグリッドに着いている。

スーパーグリッドウォークの1969 RACE SHOP SLALOM CAR。

ちなみに、2024年の『モーターファンフェスタ2024』に続いて展示された「1970 Wrought Iron」もFLAT4のコレクションカーで、やはり多くの注目を集めていた。

FLAT4の「1970 Wrought Iron」は流石のインパクト。自走が可能で、富士スピードウェイを周回してスーパーグリッドウォークに並べられた。