5ナンバー枠に収まるサイズがいい

ヒョンデINSTER LOUNDE 車両価格:357万5000円

ヒョンデの新顔電気自動車(BEV)、INSTER(インスター)は、なんといってもサイズがいい。全幅は5ナンバー枠(1700mm以下)に収まっているどころか大きく下回っており、1610mmである。だいぶスリムだが、軽自動車(全幅1480mm以下)を基準にすれば130mmも幅広だ。

全幅1800mm級に慣れ親しんだ視点からすると、室内、とくに横幅方向がタイトに感じるのは事実だが、「昔のクルマはこんなんだったね」と、妙に懐かしさを覚える。乗員同士の距離は近いが、これも当然のことながら軽自動車よりは余裕がある。ドアは近いが、近すぎるように感じるとか、薄すぎて怖いということはなく、適度な守られ感はある。インスターはあえて前席にベンチ風シートを採用しており、車内で左右に行き来がしやすいのがいい。

全長×全幅×全高:3830mm×1610mm×1615mm ホイールベース:2580mm
トレッド:F1400mm/R1415mm 
最低地上高:145mm 
CD値は0.309
最小回転半径:5.3m

街の中をスイスイ。やはりサイズがいい

最上級グレードのLounge(ラウンジ)に横浜みなとみらい周辺で試乗したが、何がいいって、街なかをスイスイ走れることだ。片側2車線の道路を走った際、数百メートル先で左に曲がるのだが、交差点の手前に路上駐車しているクルマが目に入った。3ナンバーサイズのクルマだったら間違いなく路上駐車のクルマをやり過ごしてから歩道寄りの車線に移動するところだったが、インスターだったのでためらうことなく歩道側の車線を走る。車線自体が広いのも助かって路上駐車のクルマをすんなりやりすごすことができた。公共施設の駐車場では、全幅1610mmのスリムさが役立ち、隣のクルマとの間隔が広くなって乗り降りや荷物の出し入れが楽である。

3ナンバー車に乗っているときとはストレスがだいぶ違う。インスターがフロントに搭載するモーターの最高出力は85kW(115ps)、最大トルクは147Nmで、数値的には大したことはない。ガソリンエンジンでいえば1.5Lユニットと同程度だ。だが、モーターは応答性がいいので、いったん車速を落として元の車速に戻す際の反応がいいし、エンジンのように車速を急回復する際にうなりを上げることもなく終始静かである。そんなBEV特有の性質も、運転する際に無意識に感じるストレスの軽減に効いている。首が後ろに持っていかれるような強烈な加速は望むべくもないが、リニアで気持ちのいい加速フィールを提供してくれる。

全長は3830mmと4mを大きく切るコンパクトなサイズだが、タイヤを四隅に配してホイールベースを長くとった(2580mm)おかげで、リヤの乗員スペースに余裕ができた。身長184cmの筆者が運転席でドラポジをとった状態で後席に移動しても、ひざの前にこぶしが2個くらい入りそうなほどの余裕がある。頭上も余裕だ。

室内長×幅×高:1920mm×1375mm×1145mm
センターディスプレイは10.25インチLCDメータークラスター

インスターはリヤを3名がけにせず、あえて2名がけ(軽自動車と同じだ)にした。2名がけにするとシートを左右対称にできて多彩なシートアレンジが可能になる。また、2名乗車に合わせたシートの形状になっているので、1名または2名が座るときの尻や背の収まりがいい。後席は基準位置から前に80mm、後ろに80mmのスライドが可能。リクライニングも可能で、基準位置から前に14度、後ろに14度倒すことができる。センタートンネルがないので足元はフラット。後席用にUSB-Cのポートが備わっているのもポイントだ。

シートヒーター&ベンチレーターを装備

前席も居心地がいい。シートは腰の押さえがしっかりしているのを含めてサポート性が良く、ロングドライブでも疲れ知らずの予感がする。前席にはUSBのポート(タイプAとタイプCがひとつずつ)が用意されているし、スマホのワイヤレス充電機能も付いている。シートヒーターを備えるどころか、シートベンチレーションまで備わっている。至れり尽くせりだ。

インスターはボディサイズを小さくしたのに合わせて走行機能をそぎ落としているわけではない。BEVとしての基本機能はサイズの大きなコナやアイオニック5と基本的には共通。BEV特有の機能としては、減速時にモーターが発電時に発生する抵抗を利用する回生ブレーキが挙げられる。そもそも強弱の調整機能を備えていなかったり、タッチディスプレイでメニューを呼び出して強弱2段階を切り換えたりする方式があることを考えると、インスターの調整機能は実に多彩だ(コナやアイオニック5も同様)。

タイヤ KUMHO ECSTa HS52 EV タイヤサイズ:205/45R17

まず、回生ブレーキを強くしたり、弱くしたりと感じた瞬間にパドルで操作し、回生ブレーキの強弱を調節できる。強弱のレベルは弱いほうから0-1-2-3の4段階。左のパドルを引き続けてレベル3まで達し、さらに左パドルを引くとi Pedal(アイペダル)のモードに切り替わる。いわゆるワンペダル制御で、アクセルペダルの戻し側で減速力をコントロールすることができ、日常走行のほとんどのケースでブレーキペダルへの踏み替えが不要になる。完全停止まで対応している。

駆動用モーター EM08型交流同期モーター 定格出力:28.2kW 最高出力:85kW(115ps)/5600-13000rpm 最大トルク:147Nm/0-5400pm

さらに、インスターにはAUTO(オート)モードが追加された。右パドルを1秒ホールド(長引き)すると切り替わり、センサーで監視する先行車やナビの情報をもとに、回生ブレーキの強弱を自動的に調整し、車間距離を保ってくれる。先行車が停止した場合は、自車も停止する。回生ブレーキの範囲内で減速するのであくまでサポートの位置付けだが、システムの介入によりクルマが見守ってくれている感を感じられるので、安心感につながる。短い試乗ではあったが、そんな印象を受けた。現状の回生ブレーキレベルやモードは、メーター表示によりひと目でわかる。

積載髙:620mm 最大積載幅:1185mm 最小積載幅:915mm トランク容量:280L

日本のユーザーの好みに合わせたチューニングを行なっているのもインスターの特徴。いくつか例を挙げると、エコ、ノーマル、スポーツ、スノーに切り替え可能なドライブモードのチューニング、電動パワーステアリング、サスペンション(ZF製のダンパー、コイルスプリング、スタビライザー、ブッシュ)などである。アクセルペダルの操作に対する力の出方も独自にチューニングを施してあり、穏やかな出だしを好む日本市場向けの仕立てにしたという(韓国や欧州は俊敏な出だしを好むそう)。実際、過敏でもなく、物足りなさを感じるでもなく、ちょうどいい感じである。

普通充電:AC200V 急速充電:CHAdeMO 150kW
駆動用バッテリー リチウムイオン電池 総電圧:310V   総電力量:49.0kWh
フロントサスペンションはマクファーソンストラット式
リヤサスペンションはトーションビーム式

重たい車重(Loungeは1400kg)を支えようとするとヒョコヒョコした動きが出がちだが、インスターはよく手なずけられており、しなやか。高速道路のジョイント部を軽快にいなす。つまり、乗り味は上々。バッテリー容量は49kWh(軽規格のEVの約2.5倍)もあり、カタログ上の一充電航続距離は458km。試乗車は借り出した時点でメーターのバッテリー残量は78%を表示しており、残り航続可能距離は321kmだった。満充電で(空まで走ったとして)実質的に400kmは走れる計算である。

ヒョンデ・インスターは日本の道路環境で扱いやすいボディサイズが魅力なうえ(個人的にはキュートなルックスもお気に入り)、BEVとしての機能や、あると便利な機能が充実しており、なかなかに魅力的な1台である。

ヒョンデINSTER LOUNDE
全長×全幅×全高:3830mm×1610mm×1615mm
ホイールベース:2580mm
車重:1400kg
サスペンション:Fマクファーソンストラット式/Rトーションビーム式
駆動方式:FWD
駆動用モーター
 EM08型交流同期モーター
 定格出力:28.2kW
最高出力:85kW(115ps)/5600-13000rpm
最大トルク:147Nm/0-5400pm
駆動用バッテリー
 リチウムイオン電池
 総電圧:310V
総電力量:49.0kWh
乗車定員:4名
トランスミッション:6速MT
一充電走行距離(WLTC):458km
WLTCモード:119Wh/km
 市街地モード 103Wh/km
 郊外モード 110Wh/km
 高速道路モード 132Wh/km
駆動黄鐘:FWD
車両価格:357万5000円