復活のウワサ？ スズキ軽オープンFRスポーツ「カプチーノ」を探る。ホンダ「ビート」とは設計思想が別物【歴史に残るクルマと技術097】
TEXT：竹村 純（Jun TAKEMURA）／PHOTO：三栄・スズキ カプチーノのすべて、軽自動車のすべて、ホンダS660のすべて、オートザム AZ-1のすべて、ホンダ ビートのすべて、スズキのすべて
バブルが生んだ軽の2シータースポーツ“ABCトリオ“
1980年代には、バブル景気の勢いに乗って“ハイソカー”と呼ばれたスポーティな高級車ブームが起こり、軽自動車でも高性能、高機能のクルマが人気となった。その真打として、1990年代初頭に3台の軽スポーツカー“ABCトリオ”がデビューした。ABCは、以下の車名のイニシャルをとったものである。
・“A”：マツダ・オートザム「AZ-1（1992年9月～）」
軽としては最初で最後のガルウングドアを装備していることが最大の特徴。ミッドシップ（MR）レイアウトで、前後車両配分44：56を実現して俊敏な走りを実現。
・“B”：ホンダMRスポーツ「ビート（1991年5月～）」
ABCトリオの先陣を切って登場した軽初のMR2シーターオープンスポーツ。MRらしい俊敏なハンドリング性と高回転型NAエンジンの伸びやかな走りがファンを魅了。
・“C”：スズキ「カプチーノ（1991年10月～）」
今回紹介する軽乗用車唯一の2シーターFRオープンスポーツ。
軽量FRボディとターボで力強い走りをアピールしたカプチーノ
カプチーノが初めて披露されたのは、1989年の東京モーターショーである。スズキは展示されたカプチーノに対する観客の反応を確かめてから、市販するかどうかを決めるとアナウンスしていた。結果は、予想を大きく上回る反響が得られたことから市販化を決定。ショーの展示から約2年経った1991年11月、カプチーノは市場デビューを果たしたのだ。
カプチーノは、FRらしいロングノーズ・ショートデッキの2シーターオープンスポーツで、その特長のひとつはスズキらしく徹底した軽量ボディにあった。ボンネットやリアパネル、フロアトンネルカバーなど可能な限りアルミや高張力鋼板を採用して、ABCトリオの中では最も軽量の700kgが達成された。
パワートレインは、アルトワークスの最高出力64ps/最大トルク8.7kgmを発揮する660cc 3気筒 DOHCインタークーラーターボエンジンと5速MTの組み合わせ。エンジンをフロントに縦置き配置するフロントミッドシップのFRレイアウトと51対49の前後重量配分によって、力強い走りが自慢だった。
またカプチーノのルーフは、単なるソフトトップではなく、“4ウェイ・オープントップ”と呼ぶユニークな装備を採用。これは、ルーフ部分を3ピース構造にして、分割式ハードトップを取り外すことによって、クーペ、Tバールーフ、タルガトップ、フルオープンの4つの好みのスタイルに変更できる優れモノである。
軽オープンスポーツで展開されたBC対決
カプチーノより半年前の1991年5月に、ホンダは軽初の本格的な2シーターMRスポーツ「ビート」を市場に放った。ビートとカプチーノは、両社の得意技術と特徴を生かした設計思想に大きな違いがある。
ビートは、MRレイアウトを採用し、コンパクトなオープンボディにサイドの大型インテークや手動開閉のソフトトップ、低いフロントノーズなどでスポーツカーらしさをアピール。
一方のカプチーノは、エンジン縦置きのベーシックなFRスポーツらしく、ロングノーズ・ショットデッキのスタイリングを採用し、ビートよりも70kgも軽い軽量ボディが特徴である。
エンジンについては、カプチーノがターボによる太い中高速トルクによって実用性を重視したパワーフルな走りを実現。
一方のビートは、ターボではなく、ホンダ伝統の高回転高出力NAエンジンを採用。最高出力はカプチーノと同じ64psだが、発生回転数が8100rpm（カプチーノは6500rpm）、最大トルクの発生回転数が7000rpm（カプチーノは4000rpm）であり、NAらしくレスポンスよく吹き上がり、回転上昇とともに伸びやかな走りが特徴だった。
カプチーノは、ビートのスポーツカーらしい伸びやかな走りではなく、運転しやすい余裕のある走りが体感できるスポーツモデルなのだ。設計思想の全く異なる2つのモデルではあるが、それぞれに走る楽しさがあり、両モデルとも熱心なファンに支持された。
ちなみにカプチーノの車両価格は、145.8万円、ビートは138.8万円。当時の大卒初任給は、17.3万円程度（現在は約23万円）だったので、単純計算ではカプチーノは現在の価値で約185万円に相当する。
残念ながら発売時期がバブル崩壊と重なり、スポーツカー市場が冷え切ったため、カプチーノは1998年、ビートは1996年にいずれも1代限りで生産を終えた。
カプチーノが復活か？ ホンダはどうする??
生産終了後も幾度となく復活の噂が流れているカプチーノだが、2026年に復活する？という確度の高い情報が流れている。復活するカプチーノは、軽ではなくボディサイズを拡大して、1.3L直3 DOHCターボを搭載したライトウエイトFRスポーツとされている。復活を望んでいるファンは多いはず、楽しみである。
一方、ビートについては直接的な後継車ではないが、ビート生産終了から19年経った2015年に、軽オープンスポーツ「ホンダS660」がデビューした。ビート同様、低重心のMRレイアウトを採用したが、ターボエンジンを搭載した点がビートとは異なる。久々の軽スポーツということで人気となったが、惜しまれながら2022年3月に生産を終了。今でも人気は衰えず、中古車価格は高騰しており、こちらも復活を望むファンが多い。カプチーノが復活を果たせば、当然ホンダはどうするんだ!?となるだろう。
カプチーノが誕生した1991年は、どんな年
1991年には、カプチーノ以外にも上記のホンダ「ビート」と三菱の2代目「パジェロ」、米国生産の逆輸入車、ホンダ「アコードU.Sワゴン」などが誕生した。
2代目「パジェロ」は、本格オフローダーながら初代よりもより洗練された都会的な雰囲気のスタイリングとなり、大ヒットしてRVブームをけん引した。アコードU.Sワゴンは、4代目「アコード」をベースにした生まれも育ちも米国の本格的な現地生産車で、日本にも投入され人気を獲得した。
この年には、マツダのロータリーマシン「787B」が、日本車初のル・マン24時間レースで総合優勝するという偉業を成し遂げた。また、バブル崩壊が本格的に始まり、高性能スポーツや高級スポーティセダンの時代が終焉を迎え、自動車メーカーにとって大きな転換期を迎えることになった。
自動車以外では、「101回目のプロポーズ」や「東京ラブストーリー」がTV放映開始されてトレンディドラマが流行り、ガソリン127円/L、ビール大瓶320円、コーヒー一杯360円、ラーメン455円、カレー600円、アンパン100円の時代だった。
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長いフロントノーズにターボエンジンを縦置き搭載したFRスポーツのスズキ「カプチーノ」。FRだからこそ楽しめる、ちょっと懐かしいスポーツモデルを軽自動車で実現した、日本の歴史に残るクルマであることに、間違いない。
