既存のハーレーのイメージを覆す新たなミドルロードスター

ハーレーダビッドソンの入門機? 500ccだから乗りやすい! 話題のX500で街を快走してみた。

ハーレーダビッドソン(以下H-D)といえばビッグVツインを心臓部に据えた大型クルーザーモデルが主流で、文字通り世界中に多くのファンを持つアメリカンバイクのメーカーです。そんなH-Dが並列2気筒エンジン搭載のミドルクラスモデルを登場させました。X500と350です。今回は大型二輪免許が必要なX500に試乗してみました。
写真:徳永 茂
協力:ハーレーダビッドソンジャパン https://www.harley-davidson.com/jp/ja/index.html

ハーレーダビッドソン・X500…….839,800円(消費税込)

ハーレーダビッドソンとは気づかない個性的なロードスターフォルム

長年のハーレーダビッドソンファンからすれば、ビッグVツインじゃないモデルはハーレーダビッドソンを語ってほしくない。そんな強い反発もあるだろうと思います。しかし、ビッグVツインだって時流に合わせて進化していますし、形も変えてきています。排気量が小さな並列2気筒のハーレーダビッドソンが創出されたとしても責められるものではありません。もちろんユーザー層はちがうかもしれませんが、手頃な価格設定ということもあり、ハーレーダビッドソンの敷居を低くしてより多くのライダーに親しみやすいものとするのは、決して悪いことだとは思いません。

歴史を振り返ってみれば、ハーレーダビッドソンも一時期、イタリアのアエルマッキを傘下に置いたときには、2サイクルの小型モデルを数多く送り出していました。また創業時は、単気筒エンジンの小型モデルからのスタートでした。したがってビッグVツイン=ハーレーダビッドソンというわけでもないのです。
とまあ頭を切り替えたところでX500を眺めてみます。鋼管製フレームに吊り下げられた水冷並列2気筒エンジンを中心に、凝縮感のあるスタイリングのボディは、力強さにあふれていると感じました。当然のことながら既存のH-Dとは一線を画すボディデザインで、実にユニークなスタイルを構築しています。しかも倒立フロントフォークはΦ50㎜という太さを持っていて、見るからに頑丈そうなのも印象的です。

下半身の収まりが良く、ヒザの曲がりも穏やか。上体もアップライトで、例えていうなら、ストリートファイター系ではなくスタンダードなネイキッドモデルのポジションに近い。これなら街乗りもラクだし、ツーリングも快適にできる。

高さ820㎜に設定されたシートに跨ると、平均的な体格のライダーにも両足を着くことができます。前後サスペンションの沈み込みはあまりなく、シート自体も硬質な座り心地なので、スポーツ志向なのかな?という印象を受けます。しかしテーパードタイプのパイプハンドルには高さがあるのでわずかに前傾する上体になりますし、ステップ位置も自然でヒザの曲がりに窮屈さがないので、街乗りからツーリングまで違和感なく乗車することができます。個人的にとくに気にいったのは、ニーグリップのしやすさでした。

シート高は820㎜なので取り立てて低いわけじゃない。また前後サスペンションの沈み込みも小さくシートも硬めなので、足つきはどうかな?と期待薄で跨ってみた。ところが足を下ろし部分が比較的スリムなので、足つき性はまったく問題なし
身長178㎝のテスターでは、両足がしっかりと路面をとらえる
この足つき性なら身長170㎝の平均的な体格のライダーには両足を着けることが可能だ

キーを操作してイグニッションをオンにし、右手にあるセルスタータースイッチを押す。左手にあるウインカースイッチも含めて、一般的なハーレーダビッドソンとは異なり日本ブランドのバイクと同じようなスイッチ配置、操作方式を採用しています。そのため使い勝手がいいというか親近感を覚えます。
アメリカ本土のハーレーダビッドソンが設計し、中国のQJモーターが生産する水冷DOHC4バルブ並列2気筒エンジンは、360度クランクらしい歯切れのいいサウンドを響かせる。かなり迫力のある排気音だが、僕には耳触りの良い音に感じた。
スタートしてまず感じたのが、腹の底から湧き出るようなトルクでした。極低速から太いトルクを発生しアクセルレスポンスもいい。自分が要求する加速がアクセル操作ひとつで思いのままに引き出せるようなエンジン特性となっているのです。最高出力は42HPと控えめながらも、9000rpmあたりまでストレスなく吹け上がり、しかもパワーの立ち上がり方が実に気持ちいいので、走っていてとても楽しいのです。クラッチレバー、チェンジペダルの操作性もいいし、各ギアの守備範囲も広いから、たとえば、シフトダウンを横着して回転を落としすぎてしまったとしても、アクセルを開ければしっかり加速していってくれる。こんなふうに対応力の高いエンジンは市街地走行はもちろん、ワインディングにおいてもスムーズでスポーティな走りを実現してくれるものです。こういってはなんですが、想像以上に楽しめるエンジンだと感心しました。

操安性に関してもクセのないニュートラルな特性を実現しています。そういう点でも既存のハーレーダビッドソンモデルとは性格が異なっているかもしれません。ひと言でいうなら、高いスタビリティを発揮しながらも軽快で扱いやすいハンドリングとなっているのです。それがエンジン特性ともよくマッチしていて、素直で操作しやすいハンドリングにつながっていると感じました。
サスペンションの動きがもう少し明確に感じられるといいなとは思いますが、だからといってコーナリング中にバタつくことはありませんでしたし、向きもしっかり変えられます。スパっと切れのあるハンドリングじゃないですが、自在にコントロールしやすい特性となっています。これなら無理することなくワインディング走行が満喫できるんじゃないでしょうか。 ブレーキはフロントダブルディスク、リアディスクの組み合わせで、もちろんABSを装備しています。そして制動力、コントロール性についてもなんら不満に感じるところはなく、非常に使いやすい仕様となっていました。

X500をハーレーダビッドソンとは認めないという意見ももちろんあるでしょうし、それを黙殺するつもりもありません。ただ、新たな一歩を踏み出したという印象は抱きました。実際に乗ってみると走りやすくて楽しいし、良くできたエンジンキャラクターだとも思いました。なにより83万9800円(税込み)という価格は、若年層のライダーにも手が届きやすいので、ハーレーダビッドソンの入門用としても最適なモデルじゃないかと思います。

ディテール解説

新設計の水冷DOHC4バルブ並列2気筒500㏄エンジンは、360度クランクを採用。最高出力35kW(47HP)/8500rpm、最大トルク46Nm/6000rpmの性能を発揮する
鋼管製のフレームに吊り下げるかたちで水冷並列2気筒エンジンをマウントする
フロントには17インチアルミホイールにマキシス製120/70-ZR17タイヤを装着。ブレーキは4ピストンキャリパー装備のダブルディスク
右に取り回された2into1マフラーはショートタイプでマスの集中化に貢献。排気口はツインタイプとしている
リアはフロント同様に17インチアルミホイールを履く。タイヤはマキシス製160/60-ZR17を装着。ブレーキは1ピストンキャリパー装備のディスク
フロントフォークにはΦ50㎜の倒立フォークを装備。リバウンド減衰調整機構を持つ。リアサスペンションはリンクレスタイプのモノショックで、外ある式プリロード調整とリバウンド・ダンピング減衰調整機構を持つ
ブラックアウトされたテーパードパイプハンドルを装備。高さ、幅ともに自然なライディングフォームを生んでくれ、操作性はいい
単眼式のシンプルな丸型メーター。アナログ式スピードメーターをメインに、液晶ディスプレイにはエンジン回転が表示される
ブレーキレバーは4段階のアジャスト機能を採用
クラッチレバーも4段階に間隔をアジャストできる
シンプルなデザインの燃料タンクは13.1L容量。つながりの良いサイドカバーと合わせて、ニーグリップしやすいのが魅力
スタイルによくマッチした丸型のLEDヘッドライト。中央部にハーレー・ダビッドソンのロゴが光る
H-Dらしくクルーザータイプのダブルシートが装備されている。厚みも十分にある。ただし全体に硬めの設定だ
フェンダーを兼ねたライセンスプレートホルダーを採用したテール周り。ウインカーランプはテールランプ、ストップランプを兼用する
キーロック式の着脱式シートを取り外し、カバーを外すとバッテリーをはじめとした電装パーツが現れる。ETC車載器の収納スペースはなさそうだ

主要諸元

全長(mm):2,135
全幅(mm):875
全高(mm):1,150
ホイールベース(mm):1,485
出荷時重量(kg):199(乾燥)
車両重量(kg):208
最低地上高(mm):153
シート高(mm):820
レイク(度):24.5°
トレール(mm):100

エンジン型式:HD269MR-D
エンジン形式:水冷直列2気筒
バルブ駆動方式:DOHC 8バルブ
燃料供給方式:インジェクション(ESPFI)
排気量(cc):500
ボア/ストローク(mm):69 / 66.8
圧縮比:11.5:1
最高出力(kW/rpm):35(47HP)/8,500
最大トルク(Nm/rpm):46/6,000rpm
点火方式:ECU電子式
潤滑方式:圧送セミドライサンプ(圧送/飛沫併用式)
潤滑油容量(L):3.2
始動方式:セルフ式
クラッチ:湿式多板
バッテリー:12V 8AH

トランスミッション:6速
減速比
 1速:2.846
 2速:1.947
 3速:1.556
 4速:1.333
 5速:1.190
 6速:1.083
減速比(1次 / 2次):1.947 / 3.071

フューエルタンク容量(L):13.1
燃費(km/L):20.8
バンク角(度・右/左):46.9 / 49.5
タイヤ(前/後):120/70-ZR-17 58W/ 160/60ZR-17 69W
ホイール(前/後):アルミキャスト / アルミキャスト
ブレーキ(前/後):固定4ピストン(デュアルフローティングローター) / フローティング1ピストン(ソリッドローター)
乗車定員(名):2

製造国:中国

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著者プロフィール

栗栖国安 近影

栗栖国安

TV局や新聞社のプレスライダー、メーカー広告のモデルライダー経験を持つバイクジャーナリスト。およそ40…