イタリアではベストセラーのバイクです。ベネリのミドルアドベンチャーツアラーTRK502Xの実力とは?

〝ベネリ〟というメーカーは日本ではあまりなじみがありません。当然のことながら、製品であるバイクもポピュラーじゃありません。しかしお膝元のイタリアで、A2免許の枠内で3年連続販売台数1位を獲得しているのが、ベネリTRK502Xなのです。なぜそれほどまでに人気があるのか気になるところです。
写真:徳永茂
協力:株式会社プロト https://www.plotonline.com/
ベネリ東京練馬 https://www.benelli-tokyo.jp/

ベネリ・TRK502X……968,000円

本格派のアドベンチャースタイルがツーリング性能の高さをアピール

イタリアでベストセラーとなっているベネリTRK502Xのスタイリングは、ひと目でアドベンチャーツアラーとわかる、いってみれば標準的なデザインをしています。500㏄エンジンを搭載していることからミドルクラスに属すモデルで、車格的にも排気量に見合ったサイズだと思います。個性があるというわけじゃないのですが、アドベンチャーツアラーに興味を抱いているライダーには違和感なく接してもらえるはずです。
走行風を抑制してくれる大型ウインドスクリーン、飛び石や枝などのヒットから手を保護してくれるハンドガード、エンジンガードにアンダーガードとアドベンチャーツアラーに要求される装備はすべて揃っていて、アクセサリーとして用意されているアルミケース類を装着すれば、そのままロングツーリングに出ることが可能です。

決して小さいわけじゃないし車重(235kg)もそれなりにあるけれど、ミドルアドベンチャーツアラーなのでボディの大きさに圧倒されてしまうようなことはない。リッタークラスの大型アドベンチャーモデルに比べればはるかに親しみやすさを感じる。気軽にツーリングに持ち出す、長く乗り続けるとの観点からいうと、このくらいの車格が日本のライダーにはちょうどいい。まあ欲をいえば、あと20~30㎏軽量化してもらえば、より多くのライダーにアピールできると思います。
この手のバイクの常として車高が高いことがあるのですが、それによって乗降には気を遣うことになります。サイドスタンドで車体を立てた状態で跨るのですが、跨ぐほうの足を高く上げないといけないのがつらいです。仮にトップケース、パニアケースを装着した状態なら、さらに気をつけて跨る必要があるでしょう。
シート高は830㎜ですが、シート形状は前方がスリムになっているので足つき性は想像するより悪くありません。170㎝程度の身長なら両足が着けられます。アドベンチャーツアラーらしく乗車姿勢はラクチンで、操作しやすいし長時間走行にも疲労は少なくてすみそうです。ステップ位置はやや高めで、僕には少しばかり違和感があったのですが、ダート走行を考えれば最適な位置なのかもしれません。

足つき性

ステップ位置がやや高いと感じるが、アップライトでゆとりあるポジションはなじみやすく、ロングツーリングにも疲れにくい印象
830㎜のシート高はこのサイズのアドベンチャーツアラーとしては標準的なもの。足つき性はまずまず
身長170㎝の平均的な体格なら両足のつま先を着けることが可能だ。シートの前方がスリムな形状となっているので、前寄りに座ると足が着けやすい
前後サスペンションの沈み込みがあるので、シートに跨ればさらに安定する

程よいパワーとスムーズなエンジン特性が安心感のある走行を実現

エンジンは500㏄水冷DOHC4バルブ並列2気筒で、イタリアのA2免許に対応したおよそ48psの最高出力となっています。排気量からするとやや控えめなスペックだし、車重も235㎏と重ためなのでパワー不足なんじゃないか、との思いを抱いてスタートさせました。たしかに強烈なトルク感はなく、360度クランク並列2気筒らしい躍動感も体感しません。ところがスムーズにレスポンスするエンジンは全回転域で使いやすく、低中回転でのトルク不足も感じません。  クラッチレバー、シフトペダル操作の軽さもあって、とにかく走りが優しいのです。個性のあるパワーフィーリングでエンジンの存在感を表現するバイクが多い中、TKR502Xは逆に、クセがなくだれにでも扱いやすいパワーフィーリングとすることで親しんでもらおうとしているように思えました。結果的に、ゴー&ストップを繰り返す市街地でもストレスを感じさせないし、郊外のツーリングでの快適性も非常に高いと思いました。もちろん気になるような振動もないので、アドベンチャーツアラーらしいロングツーリングに適したエンジンだと感じました。

快適な走行性はパワーフィーリングによるものだけじゃありません。ストロークの大きな前後サスペンションは、常用する低中速域でソフトな作動性を見せ、なんとも心地よい乗り心地を提供してくれるのです。一方で、ワインディング走行などで負荷をかけたときにはしっかりと踏ん張ってくれるのです。切り返しで不安定な挙動が出ることもなく、安定性の高いコーナリングを実現してくれる、そんな操縦安定性を見せてくれるのです。
タイヤはフロント19、リア17インチで、オンロードを主体としたツーリングに向いた組み合わせです。しかしスポーク式ホイールなので見た目はオフ志向のアドベンチャーツアラーです。今回はダート走行をしませんでしたが、ソフトな作動性の前後サスペンションとスポーク式ホイールによって優れたオフロード走破性を発揮してくれるんじゃないでしょうか。素直で安定感のあるハンドリングも、ツーリングやオフロード走行に向いていると思いました。
現在、国内販売されているミドルレンジのアドベンチャーツアラーは、このベネリTRK500Xを含めて国内外のメーカー合わせて5機種あり、価格もみな100万円を切っている。そういう意味ではライバルが多いカテゴリーだが、それだけ需要があるということです。なので旅先でTRK500Xを見かけることも増えるかもしれません。

ディテール解説

360度クランク採用の水冷DOHC4バルブ並列2気筒エンジンは、イタリアA2免許に対応するため、500㏄ながら最高出力は約48psとなっている。数値的にはパワー不足だと感じるが、実際には中回転域までしっかりトルクが出ていて、スムーズなパワーフィーリングと相まって日常域で非常に頼もしく扱いやすい
アドベンチャーツアラーらしくアップタイプの大型サイレンサーが採用されている。力強いサウンドが良く聞こえる
Φ50㎜倒立フロントフォークを装備。ホイールトラベルは140㎜と大きい。タイヤは19インチでオフロード走行を見据えてスポークホイールが採用されている
トラス構造のスチール製スイングアームにモノショックユニットを装備したリアサスペンション
ABSを標準装備したフロントブレーキは、Φ320㎜ローターにツインポットキャリパーを装備したダブルディスク
リアブレーキはΦ260㎜ローターにシングルポットキャリパーの組み合わせ。もちろんABS装備だ
アドベンチャーツアラーらしくくちばしをイメージしたフロントカウルを採用。大型ウインドスクリーンとハンドガードが走行風や飛び石などから保護してくれる
精悍な表情をつくり出すデュアルヘッドライト。ポジションランプやウインカーランプなどすべてLEDだ
スイングアームマウントのリアフェンダーを採用しているため、テールランプ周りはスッキリとしたデザインとなっている。ランプはLEDだ。写真のモデルはトップケース、パニアケース装着用のステーが装備してある
アナログ式タコメーターと液晶ディスプレイを組み合わせたメーターは、必要な情報がすべて表示されて視認性も高い
燃料タンク容量は20Lで、計算上は満タンで約480㎞走行できる
滑りにくい表皮を採用したシート。座面がワイドで座り心地がいい。また長時間走行での疲労も少ない。リアシートも大きめなので、パッセンジャーにも快適な乗り心地が提供される。大型リアキャリアにはグラブバーも装備している
ステップはワイドでラバーを装着してある。ラバーは着脱式となっているので、ダート走行時には取り外せばいい
フロントカウル左側にはスマートフォンなどの充電に利用できるUSB電源が装備してある
メンテナンス時に重宝するセンタースタンドが標準装備。操作もしやすかった

主要諸元

車名(型式):TRK 502X (P16)
トランスミッション形式:常時噛合6速リターン
クラッチ形式:湿式多板
2次減速方式:チェーン式
フレーム形式:トレリス(格子)フレーム
エンジン種類:水冷4ストローク並列2気筒
弁方式:DOHC4バルブ
総排気量:500cc
内径×行程/圧縮比:Φ69.0×66.8/11.5:1
最高出力:35kw/8500rpm
最大トルク:46Nm/6000rpm
始動方式:セルフスターター
点火方式:トランジスタ(TLI)
潤滑方式:圧送飛沫併用型
燃料供給方式:フューエルインジェクション
全長×全幅×全高:2220mm×915mm×1480mm
軸間距離:1505mm
最低地上高:210mm
車両整備重量:235kg
シート高:830mm (ローシート仕様)
懸架方式(前):倒立テレスコピック
懸架方式(後):スイングアーム
ホイールトラベル(前):140mm
ホイールトラベル(後):45mm
タイヤサイズ(前):110/80R-19
タイヤサイズ(後):150/70R-17
ブレーキ形式/径(前):油圧ダブルデイスク/320mmABS
ブレーキ形式/径(後):油圧デイスク/260mmABS
燃料タンク容量:20L
燃費(WMTCモード):24.3km/L
乗車定員:2名

キーワードで検索する

著者プロフィール

栗栖国安 近影

栗栖国安

TV局や新聞社のプレスライダー、メーカー広告のモデルライダー経験を持つバイクジャーナリスト。およそ40…