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同社のアイデンティティともいえる空冷フラットツインエンジンを搭載したシンプルなネイキッドモデルは、過去の名車を彷彿させるスタイリングを今に再現する。
いっぽうで、中身はクラシックそのままでは今の時代では役不足でもある。
とくに安全性や快適性を重んじるBMWであるからそれはなおさらであるが、しかしそれはこれまでのBMWとは少し異なり、シンプルで必要最低限の電子制御によって構成されている。今回、2024年モデルとして10年ぶりとなるフルモデルチェンジがおこなわれ、モデル名もR12nineTとなった。
デザインイメージに大きな変更はないものの、実際は主要パーツのほとんどが刷新されている。アルミ製ガソリンタンクは後端部をショート&スリム化し、フィット感が向上。フレームも完全に作り変えられており、軽量化とともに剛性も最適化。クラシックボクサーマシンの雰囲気を壊すことなく、確実にトータルパフォーマンスは高められているという。
大柄なモトラッド製マシンのなかではコンパクトで、小柄なライダーや女性にもおすすめしやすいライディングポジションを持っている。また、エルゴノミクスの改良によって一体感が高まっている。シッティングポイントが前よりに移動し、ハンドルの位置関係もより積極的にマシンを操りやすい設定となっている。
エンジンを始動させると野太いエキゾーストノートが放たれるが、それは威圧感のあるものではなく耳障りの良いものだ。
スロットルをブリッピングすれば、グラリと車体が傾くトルクリアクションが味わえる。
走り出す前から表情豊かなボクサーツインならではの味わいがそこに存在する。
走り出せば、スムーズ過ぎないワイルドさを感じさせながら、マシンを前に押し進める。想像以上にトルクがあり、続けざまにシフトアップをして低回転域でドコドコと走らせることを許容する。
スピード感やスリルを求めることなくのんびりと走らせるだけで満足することができるこの感触だけでも価値があると思わせるのである。
いっぽうで、この鉄馬に喝をいれれば、意外なほどパワフルに回転上昇していくという違う側面もみせてくれる。
そして、それは味気なくスムーズにただ回るのではなく、地に足が着いたかのような加速感。車体がグッと踏ん張るような感触で、安心感とともに操っている感も得やすいものである。
ライディングモードは3種類あり、それぞれが異なるキャラクターを演出してくれる。
ダイナミックを選択すればこれが旧式なエンジンだということをすっかり忘れさせるほどのパワー感とレスポンスで、回して走ることを夢中にさせるいっぽうで、のんびりと穏やかなフィーリングを味わいたいのであればレインをチョイス。じわっと湧き上がるトルク感をじっくりと楽しめるのである。それによって変更されるトラクションコントロールの効き具合等も最適化され、シンプルながら走りのバリエーションを広げてくれている。
サスペンションストロークは短めであり、これはスポーツ性や快適性においてはマイナス要素にもなりかねないものであるが、なかなか上手いことバランスが取られている。車高が低めなことによる地面が近くにある安心感。把握しやすい足回りの動き。従来モデルは乗り心地が硬質で、ギャップ等でやや乗り心地が悪くも感じられたが、リヤショックマウント方法が変更になったこともあり、ギャップ等のいなし方がスムーズになっており、確実に快適性が向上している。
ただ雰囲気に浸りたいだけの味わい深いテイスト系マシンではなく、しっかりとスポーティに走らせることも許容する。左右に張り出したエンジンはバンク角を抑制しそうにも思われるが、サーキットでも走らせない限り不満を覚えることはないだろう。
新型のエアクリーナーボックス採用やユーロ5+への対応によって、若干トルクが増えているとのことであるが、エンジンは基本的にRnineTのものと変わらないとのこと。
しかしあらたにアップ&ダウン対応のオートシフターが装着されたことにより、ツーリング時の快適性や疲労軽減はもちろん、スポーティに走らせる際のリズミカルな走りにも好都合である。
スポーツ系のマシンと異なり、個々のギアが離れ気味のこのエンジンに装備させるのは難しかったとのことであるが、違和感なくフィットしており、より完成度が高められているのが印象的であった。
RnineTが人気となったひとつの要因に、カスタムも厭わない自由なマシンということがあった。純正パーツ至上主義といった印象が強かったBMWとしては意外でもあったが、カスタムの世界に積極的に参入し、BMWのイメージも良い意味でさらに高められた。
また、メーカー自らもカスタムプロジェクトを行い、とくにBMWジャパンにて行なわれたカスタムプロジェクトは世界中で大きな話題となったのも記憶に新しい。
R12nineTでも同様にカスタムマシンビルダーによるプロジェクトが進行しているという。
そのままで楽しむのはもちろん、自分だけのオリジナルマシンをつくることも出来るという、こちらも魅力満載のマシンとなっていたのであった。
足つき性
シート高は795mm。身長165cmでご覧の通りであるが、フラットツイン特有の低重心さで安心感は高い。従来モデルに対し、燃料タンクが30mm短くなったこともあり、着座位置がフロントよりに移動。ハンドル幅も狭くなり、よりスタンダードなネイキッドモデル的ライディングポジションとなった。シートおよびタンク形状により膝周りのフィット感も高められている。
BMW・R12nineT/ディテール
BMW・R12nineT/主要諸元
●エンジン 最高出力:80 kW (109 PS) / 7,000 rpm エミッション制御:クローズドループ制御式三元触媒コンバーター タイプ空/油冷 2気筒 4ストローク ボクサーエンジン、2つのオーバーヘッドカムシャフト、4つのラジアル配置バルブ、センターバランサーシャフトを装備 ボア x ストローク:101 mm x 73 mm 排気量:1,169cc 最大トルク:115 Nm / 6,500 rpm 圧縮比:12.0 : 1 点火 / 噴射制御:電子制御インテークパイプ・インジェクション、デジタルエンジンマネジメントシステム: BMS-O、スロットル・バイ・ワイヤ 排ガス基準:EURO 5 ●走行性能 / 燃費 最高速度:215 km/h WMTCに準拠した1Lあたり燃料消費率(1名乗車時):19.6 km/L 燃料種類:無鉛プレミアムガソリン(ハイオク)(最大15%エタノール、E15)、95 ROZ/RON、90 AKI WMTCに準拠したCO2排出量:119 g/km ●電装関係 オルタネーター:永久磁石オルタネーター、660 W(定格出力) バッテリー:12 V / 10 Ah、メンテナンスフリー ●パワートランスミッション クラッチ:乾式単板クラッチ、油圧作動式 ミッション:常時噛み合い式6速トランスミッション、独立型トランスミッションケース 駆動方式:カルダンシャフト トラクションコントロール:BMW Motorrad DTC