ホンダNX400で1800km走ってみた→日本の道路事情との相性が抜群でした。|1000kmガチ試乗【1/3】

CRF1100LアフリカツインやXL750トランザルプの弟分。NX400に対して、そんなイメージを抱いている人は少なくないだろう。とはいえ、日本仕様としての最適化が図られたこのモデルは、見方によっては兄貴分を上回る資質を備えているのだ。

REPORT●中村友彦(NAKAMURA Tomohiko)
PHOTO●富樫秀明(TOGASHI Hideaki)

ホンダNX400……891,000円

排気量から推察すると日本専用車……かと思いきや、NX400は中国でも販売されている。とはいえ、ヨーロッパ各国やアメリカを含めた、他のほとんどの国ではNX500が主力。

個人的には腑に落ちない進化

LEDヘッドライトは縦型2灯式で、ローでは上のみ、ハイでは上下が点灯。面積はあまり大きくないけれど、明るさは十二分。

オーナーが読んでいたら大変申し訳ないし、初っ端からこんなことを言うのはどうかと思うけれど、2013年からホンダが発売を開始した400X/NX400シリーズに対して、僕はあまりいい印象を抱いていなかった。その理由は一貫性の無さ。以下にこの車両の変遷を記すと、当初は前後17インチタイヤを履くオンロード指向が強いモデルだったのに、2019年型では前輪を19インチ化してアドベンチャー路線に転身。そして2022年型でフロントフォークの正立→倒立化や、フロントブレーキのシングル→ダブルディスク化を図ると、2024年型ではそれまでのルックスとは方向性が異なる、XL750トランザルプに似た雰囲気に変貌を遂げたのである。

もちろん、モデルチェンジで方向性が変化していくのは、べつに珍しいことではない。でも400X/NX400シリーズの進化は、僕にはどうにも腑に落ちなかったのだ。

ところが、少し前に同系の並列2気筒エンジンを搭載するCL500を試乗をしている最中、友人のNX400をチョイ乗りした僕は、“ありゃ、これは日本の道を楽しむツアラーとして、すごくいいところを突いているのかも?”という印象を抱いた。我ながら節操がない展開ではあるけれど、NX400の安定感や乗り心地は、CL500のいまひとつな部分を解消している気がしたのだ。

72ccの排気量差があるものの、日本仕様のNX400と海外で販売されるNX500のエンジン性能に大差はない。最高出力・最大トルクは、NX400:46ps/9000rpm・38Nm/7500rpm、NX500:47.6ps/8600rpm・43Nm/6500rpm。

ただし一方で、NX400の真の魅力は過酷な使い方をしないと理解できないんじゃないか……と、感じなくもなかった。逆に言うなら、CL500は一般的な試乗でスクランブラーならではの軽快さやパンチが堪能できたものの、NX400はエンジンもシャシーもしっとり落ち着いていて、インパクトは感じづらいので、一般的な試乗では“味気が希薄”という印象を持ちそう。そのあたりを踏まえて、NX400をガチ1000km試乗で取り上げることにした僕は、普段より頑張って約1800kmを走行。果たして、その結果はどうだったかと言うと……。

過酷な走行を通して抜群の快適性を実感‼

ムチャクチャ良かった。と言っても、僕が従来型に乗ったのはずいぶん前なので(しかも一般的な試乗だったので、このシリーズの真の魅力を理解できたとは言い難い)、2024年型=新型ならではの美点は語れないのだが、チョイ乗りで感じた通り、NX400は日本を楽しむツアラーとして、すごくいいところを突いていたのである。

中でも最も感心したのは、ロングランにおける疲労の少なさ。今回の試乗で最もハードだったのは、東京から福島県の猪苗代湖付近を経由して、自分の実家がある岩手県盛岡市に向かった撮影日で、この日の走行距離は約700km、自宅を出て実家に到着するまでの時間は約18時間に及んだ。しかも、撮影場所に選択した猪苗代湖付近は、午前は気温35度の灼熱地獄で、午後は雨天になり、そこから盛岡まではドシャ降りの雨だったのだ。

そんな状況にも関わらず、21時頃に実家に到着した僕は、ごく普通に家族と話をし、ごく普通に食事をし、ごく普通に風呂に入って23時頃に床に就いたのである。もちろん、心身に適度な疲労はあったものの、到着と同時にバタンキューという状況ではまったくなかった。

ではどうして、そこまで心身の疲労が少なかったのかと言うと、柔軟な特性のエンジン、頼りがいのあるシャシー、抜群の防風性能を発揮するスクリーン+フェアリング、環境変化に対する適応力など、理由はいろいろある。そんな中で僕が意外だったのは、シート高が海外仕様のNX500より30mm低い800mmなのに、車体の挙動とライディングポジションが至って真っ当だったこと。

ちなみに、シートを低くする手法は、①シートのウレタンを薄くする、②前後ショックのストロークを短縮する、③リアサスのリンクをローダウン用に変更する、という3種に大別でき、日本仕様の400X/NX400シリーズは②を選択。だからこそ、車体とライディングポジションのバランスに違和感が無く、身長182cm・体重74kgの僕でも下半身に露骨な窮屈さを感じず、尻や膝や足首に痛みが発生することなく、ロングランが快適にこなせたのだろう。

ただし、海外で販売されているNX500(ホイールトラベルはF:150/R:135mm。日本仕様のNX400は数値を公表していないが、30mm低いシート高と最低地上高から推察するとF:120/R:105mm)と同じストロークが長い前後ショックを採用したら、乗り心地が現状より良好になるだけではなく、ライダー込みの重心が上がってハンドリングが軽快に、シート~ステップの距離が広がって下半身はさらに楽になるとは思う。でもNX400の車体とシートには、足つき性を重視する日本人の趣向と、ゴー&ストップが多い日本の道路事情を熟慮し、そのうえで本来の資質の維持に注力した感があって、これまでの日本市場向けローシート/ローダウン仕様にガッカリすることが多かった僕としては、その事実は意外だったのだ。

大きすぎない車格の美点

というわけで、過酷なロングランでNX400の快適性に感心した僕だが、ここまでの文章を読んだ読者の中には、“ホンダ自身のXL750トランザルプやCRF1100Lアフリカツインを含めた、ミドル以上のアドベンチャーツアラーなら、もっと快適じゃないか”と言う人がいるかもしれない。確かに、エンジンがパワフル&トルクフルで、ライダーを支援する多種多様な電子デバイスを装備する、近年のミドル以上のアドベンチャーツアラーなら、NX400以上の快適さを感じる場面は多々あるだろう。

とはいえ今回の試乗では、撮影中に何度も行った押し引きやUターン、チマチマした舗装林道や混雑した市街地の走行中、休憩から再出発するときなどに、400/500ccクラスの大きすぎない車格って素晴らしいなあ……と、僕はしみじみ感じたのだ。同時に今回の試乗がミドル以上のアドベンチャーツアラーだったら、要所要所で車格の大きさが煩わしくなったんじゃないか……とも思った。そしてその論法で行くと、軽二輪ならもっと楽?という見方ができなくはないのだが、250ccクラスはロングランに使うとパワーに物足りなさを感じることがあるので、トータルで考えてみると、やっぱり400/500ccクラスはいろいろな面で絶妙なのである。

NX400を基準にして考えるなら、海外で販売されているNX500はエンジンと前後サスがロングストローク。

なお現在のホンダが日本で販売している、アドベンチャー/クロスオーバー系モデルの車重・ホイールベース・シート高、最高出力は以下の通り。(CRF1100LアフリカツインとCRF250ラリーは車高が低いモデルの数値)。

■CRF1100Lアフリカツイン…243kg・1570mm・820mm・102ps

■NC750X………………………214kg・1525mm・800mm・58ps

■XL750トランザルプ…………208kg・1450mm・850mm・91ps

■NX400…………………………196kg・1435mm・800mm・46ps

■CRF250ラリー………………153kg・1435mm・830mm・24ps

この数字にどんな印象を抱くかは人それぞれだが、車格が大きすぎず、シートが低く、パワーが必要にして十分な、NX400に惹かれる人は少なくないんじゃないだろうか。そして改めて考えると、現在の400ccクラスにおけるNX400は唯一無二の存在で、対抗馬と言うべきモデルは存在しないのだった(KTM 390アドベンチャーやBMW G310GSは、NX400ほど快適ではない)。

さて、今回の文章は何だか概要的な話がメインになってしまったので、近日中に掲載予定の第2回目では、具体的な事例を主軸にして、NX400の印象を紹介したい。

シート高と最低地上高を低めに設定した日本仕様のNX400だが、キャスター角27度30分、トレール108mmという数値は、海外で販売されているNX500と共通。なお軸間距離は、NX400:1435mm、NX500;1445mmで、10mmの差はファイナルレシオの違いが原因。

主要諸元 

車名:NX400
型式:8BL-NC65
全長×全幅×全高:2150mm×830mm×1390mm
軸間距離:1435mm
最低地上高:150mm
シート高:800mm
キャスター/トレール:27°30′/108mm
エンジン形式:水冷4ストローク並列2気筒
弁形式:DOHC4バルブ
総排気量:399cc
内径×行程:67.0mm×56.6mm
圧縮比:11.0
最高出力:34kW(46ps)/10000rpm
最大トルク:38N・m(3.9kgf・m)/8000rpm
始動方式:セルフスターター
点火方式:フルトランジスタ
潤滑方式:ウェットサンプ
燃料供給方式:フューエルインジェクション
トランスミッション形式:常時噛合式6段リターン
クラッチ形式:湿式多板コイルスプリング
ギヤ・レシオ
 1速:3.285
 2速:2.105
 3速:1.600
 4速:1.300
 5速:1.150
 6速:1.043
1・2次減速比:2.029・3.000
フレーム形式:ダイヤモンド
懸架方式前:テレスコピック倒立式φ41mm
懸架方式後:リンク式モノショック
タイヤサイズ前:110/80R19
タイヤサイズ後:160/60R17
ブレーキ形式前:油圧式ダブルディスク
ブレーキ形式後:油圧式シングルディスク
車両重量:196kg
使用燃料:無鉛レギュラーガソリン
燃料タンク容量:17L
乗車定員:2名
燃料消費率国交省届出値:41.0km/L(2名乗車時)
燃料消費率WMTCモード値・クラス3-2:28.1km/L(1名乗車時)

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著者プロフィール

中村友彦 近影

中村友彦

1996~2003年にバイカーズステーション誌に在籍し、以後はフリーランスとして活動中。1900年代初頭の旧車…